2022年11月に愛知県長久手市の愛・地球博記念公園内に開園したジブリパークが、2024年3月16日から新エリア「魔女の谷」をオープンするにあたり、プレス向けの内覧会がおこなわれたので、取材も兼ねてお邪魔してきた。
新設されたエリアでは、『魔女の宅急便』『ハウルの動く城』『アーヤと魔女』に登場する建物や街並みを見ることができる。これで「青春の丘」「ジブリの大倉庫」「どんどこ森」、さらに昨年11月にオープンした「もののけの里」と併せて5つのエリアが勢揃いしたわけだ。
当日は「魔女の谷」の探訪もさることながら、2022年の開園時にスケジュールの都合がつかず、視聴の叶わなかった「ジブリの大倉庫」内に設けられた映像展示室「オリヲン座」の映像と音響を(ようやく)体験してきた。
実は2022年の11月8日に、この劇場の設営に携わったスタジオジブリの古城 環さんを始めとする関係者の皆さんにスタジオジブリ本社内の試写室でインタビューをおこなっている。詳しくは当時の記事(関連リンク参照)をお読みいただきたいが、ここでは劇場完成までの苦労話や機材選定にまつわる話をうかがっている。しかし実は、この時ぼくは「オリヲン座」の絵と音は未体験のままという、大胆不敵な取材だったのである。
今回ようやく彼らが丹精込めて作り上げた「オリヲン座」の絵と音を体験して、改めてその素晴らしさに感動した。完成からおよそ1年半経過しているので、建屋も機材もいい具合にこなれてきたこともあるだろうが、自然体でありながら要所を抑えたシアターサウンドと映像を視聴することができたのだ。
当日の演目は3月16日の第2期オープン時にも上映されるであろう、三鷹の森ジブリ美術館で2006年1月に公開されたアニメーション作品『水グモもんもん』だった。
『水グモもんもん』は、水中に潜む水グモが水上を自在に動き回るアメンボへ抱く淡い恋心を描いたメルヘン調の物語だが、透明感あふれる映像とともに、SE(サウンドエフェクト)とME(ミュージックエフェクト)と音楽だけで構成された音響演出にも感心させられた。
これらの上映作品はすべて15程度の短編で、子供たちが飽きないような演出がなされている。ダイアローグが一切ないのは、小さな子供にも楽しんでもらおうという制作側の思いが込められているからだろう。ダイアローグの代わりに短い発音が使われていて、それぞれの生き物の意思をしっかりと伝えている。
こうして、ていねいに作りこまれたクリアネス溢れるサウンドを、「オリヲン座」のスピーカーが耳元へと運ぶ。水グモが水中から水上を眺めるシーンや水面へ浮かび上がる時の泡の効果音が絶妙なタッチとともに上下移動し、アメンボが水の上を動き回るシーンではスピード感あふれる効果音がサラウンド音場を駆け巡る。
本作の音楽ではノルウェーの民族楽器、ハルダンゲルヴァイオリンが使われている。この楽器には普通のヴァイオリンにはない共鳴弦が張られているので、響きの豊かな音色を奏でるというが、そうした特徴もこのスピーカーシステムはよく引き出していた。
ちなみに「オリヲン座」には46cm径サブウーファーが8基もビルドインされているが、その威力はこの作品では控えめ。とはいえ「オリヲン座」は、適度なエアボリュウムがあるし、劇場としての設計も新しいだけに、サウンドには全体にゆとりがあり、ひじょうに新鮮な印象を受けた。
「オリヲン座」は、スタジオジブリ本社の試写室を基準にして造られているので、通常の映画館よりも、映画音響の制作現場であるダビングステージに近い音を聴くことができる。そうした意味でも、ジブリファンや映画ファンには、このサウンドはぜひとも体験して欲しいと改めて思った。親子連れでも、そうでなくても、一度は訪れてもらいたい空間である。ぼくも次回は、低音たっぷりの作品上映を狙ってお邪魔したい。
Ⓒ Studio Ghibli