1973年に創業したイギリスのオーディオブランド「REGA」(レガ)が、今年で創業50周年を迎える。同社はターンテーブルの生産、開発を続けてきた数少ないブランドで、「Planar」シリーズなどの比較的手の届きやすい価格帯の製品を多くリリースしていることでも知られている。そんなレガの創業者であるロイ・ガンディさんが来日、同社のこれまでの歴史と、新たに発表された50周年記念モデル「NAIA」についてお話をうかがう機会を得た。以下でその詳細をお届けする。(StereoSound ONLINE・泉 哲也)

――今日はよろしくお願いいたします。まずは「レガ」ブランドの歴史と、製品づくりで意識している点から教えてください。

ガンディ 弊社は今年で創業50周年を迎えます。この50年成功してきたポイントは、シンプルに物事に取り組んできたということです。エンジニアやR&D担当者たちがきちんと問題に取り組めば、ちゃんと結果が出て、目指すべき方向に進んでいけるという、シンプルな事柄の繰り返しでした。経営方針ついても、ある意味感情を交えないで、常に冷静に現状を判断していくということが効果的です。

 レガの製品は、サウンドクォリティを重視してきました。もちろん、マーケティングの重要性は否定しませんが、レガという会社は、サウンドクォリティの高い製品を、ある程度価格も抑えながら、きちんと生産できるボリュウムを守ってやってきているのです。そうすることで、ファイナンシャルの面でも大きな負担になることなく会社が続いてきました。

ターンテーブル:REGA
NAIA ¥2,400,000(税別、MCカートリッジAphelion2搭載モデル、2024年1月発売予定)

画像1: “50年前の製品を、今でも修理できます” 音楽愛好家に楽しんでもらえる製品を送り出し続ける、イギリス・レガの魅力を、創業者のロイ・ガンディさんにインタビュー

●スケルトンデザインキャビネット
●RB Titaniumトーンアーム
●ZTAセラミック製ベアリング/スピンドル
●セラミック・アルミニウム・オキサイド材採用プラッター
●Reference EBLTドライブベルト×3
●33 1/3、45回転用それぞれにクリスタル発振器とDSPを搭載したジェネレーター対応電源ユニット
●Apheta2 MCカートリッジ附属(出力0.35mV、針圧1.9g、カートリッジ自重6.0g)

画像2: “50年前の製品を、今でも修理できます” 音楽愛好家に楽しんでもらえる製品を送り出し続ける、イギリス・レガの魅力を、創業者のロイ・ガンディさんにインタビュー

――それを50年続けてきたということは本当に素晴らしいですね。

ガンディ 会社を続けてこられたもうひとつの大きな要因は、自社で工場を持っていたことです。自社工場があることによって、外注するのに比べて製造コストは約半分ですみます。

 またレガはひじょうにユニークな組織構造をしており、上司とか部下といった区分ではなく、フラットな体制を取っています。例えば誰かが私に “ロイ、これやってよ” とか、“ロイ、こういうことがあるからちょっと来て”といった形で話しかけてきます。そんな縦割りではない組織というのが、成功の秘密です。

 社内にはカーペット敷きの食堂があり、そこで美味しいランチを提供するなど、レガで働いてもらう価値を重視してきました。そうすることで、従業員のモチベーションも上がるし、結果としていい商品もできます。社員の意識が高いのはそういった理由があると思います。

――理想的な会社運営ですね。ちなみに創業時は何人くらいでスタートしたのですか?

ガンディ 1973年に会社を立ち上げた時は私ひとりで、その後すぐに二人になりました。そこから50人、120人と増えて行って、現在は150人ほどです。

 現在の工場を最初に作り、その後2Fを増築し、さらに別の場所にふたつめの工場を建てました。レガでは完成品はすぐに出荷しますので、製品を保管するための倉庫はありません。そこはきちんと生産計画を立てています。

 最近は生産量も増えているので、パーツをあらかじめストックしておく必要があります。特にコロナ禍以降パーツがなかなか入ってこないこともあるので、それを保存しておく場所を作りました。最近では6ヵ月分ぐらいのパーツを保管しています。

 レガの製品はどちらかというと安価なモデルが多いので、パーツの原価も重要です。そのため、きちんと市場の推移を見ながらパーツを入手しておくということも必要なのです。

画像: レガの創業者ロイ・ガンディさん。インタビューのためにStereoSound試聴室までおいでいただきました

レガの創業者ロイ・ガンディさん。インタビューのためにStereoSound試聴室までおいでいただきました

――完成品がすぐに出荷できるというのも、レガ製品の人気が高い証拠ですね。

ガンディ ありがとうございます。それは弊社だけでなく、販売店の皆さんの協力もあってのことですね。安定して製品を提供することに注力してきた結果だと思っています。

 また製造機器にも投資してきました。例えば、プレーヤーで使っているリッツ線もそうですし、スピーカーユニットなども自社で製造していますので、それに必要な機械は常に最新モデルを揃えておきたいと考えています。先日も日本製のケーブル製造マシンを導入しましたが、それがとても質がよかったので、もう一台追加導入しています。今後はさらにレガ製品の品質が上がっていくと思います。

――日本製のマシンを使ってパーツが作られているというのは驚きです。ところで、レガでは過去の製品のパーツも保存していて、生産完了モデルについても修理が可能だと聞きました。それは、どれくらい前の製品にまで対応してくれるのでしょう?

ガンディ 3つあるスペアパーツの倉庫のうち2つは過去の製品用で、そこには50年前の部品も残してあります。例外はありますが、ほぼすべての製品が修理できるようにしています。先日もかなり古いアンプをお使いの方から修理の依頼がありましたが、ちゃんと対応できました。

――それは素晴らしい。でもメーカーとしてはそれだけのパーツを保存しておくのもたいへんではありませんか?

ガンディ 経営的に負担にならないのであれば、自社製品のパーツは保存しておくべきだと考えています。それがお客様への最高のサービスになるし、マーケティングにも有効で、販売店からの信用にもつながります。これは、メーカーとしては当然のことですよ。

――確かに長年の愛機を修理してもらえたら、ユーザーは喜んでくれるでしょうね。これもレガのポリシーなのでしょうか?

ガンディ 繰り返しになりますが、弊社の第一のポリシーはサウンドクォリティです。そのサウンドクォリティというのは、ナチュラルなサウンドで、当たり前といえば当たり前ですが、それを目指した製品づくりを行っています。

 2番目のポイントは、耐久性です。われわれのブランドはまだ50歳ですからね(笑)、製品もそれくらいはお使いただけないといけません。もちろん修理してお使いいただいている方も多いですし、修理しなくても大丈夫な製品だってあるんですよ。

 またデザインがシンプルでいいと言って、購入してくれる方も多いんです。といっても、それも狙ったことではなく、音質のための素材や形を選んだ結果、シンプルなデザインになったということです。

画像: NAIAの本体キャビネットはPlanar10と同じデザインを採用。写真中央横方向に見える白いパーツが、セラミック・アルミニウム・オキサイド材を使ったトップボトム

NAIAの本体キャビネットはPlanar10と同じデザインを採用。写真中央横方向に見える白いパーツが、セラミック・アルミニウム・オキサイド材を使ったトップボトム

――さて、レガといえば、日本では「Planar」シリーズに代表されるターンテーブルが有名です。しかもそれらのターンテーブルが比較的お手頃な価格で販売されているのも特長だと思います。これはガンディさんのこだわりなのでしょうか?

ガンディ 多くの人たちにレガの製品を使って欲しいというのが一番の理由です。品質には自信を持っていますので、多くの人にわたしたちの製品に触れて欲しいと、心から思っています。

 もうひとつの理由は、オーディオ製品は音楽を聴くためにあると思っていて、それを気軽に楽しんでもらいたいということです。もちろんデザイン的に凝ってみたいと思うこともありますが、レガとしてはそれよりも音を聴く、音楽を楽しむということを一番のポイントとして製品づくりを行っていきたいのです。そのためにも価格はできるだけ抑えながら、いい製品をたくさん届けていきたいというのがわれわれの願いです。

――技術的なことをうかがいます。御社では、ベルトについても素材等の開発を継続して進められているとのことでした。

ガンディ 最近のレガ製品では、ベルトが新しくなったことが注目されていますが、それはあくまでターンテーブルの完成度を上げるための要素のひとつです。

 とはいえターンテーブルでは、モーターの回転をきちんとプラッターに伝えるという意味で、ベルトはひじょうに重要です。完全なラウンド形状のベルトを作ることによって、回転ムラが減り、レコードが正確に回るようになるので、その点が音質向上につながると思っています。また摩擦による影響も極力避けるために、ベルトの開発は常に続けています。

 レコードプレーヤーは、ターンテーブルが回っていて、そこにカートリッジを降ろしてと、常に色々なところが動いています。それがうまく組み合わされて、マイクロレベルの誤差の中で動作しているわけですから、常に最新の技術を使ってアップデートしていくことが必要だと考えています。

画像: ZTAセラミック製ベアリングとスピンドルも搭載される

ZTAセラミック製ベアリングとスピンドルも搭載される

――50周年モデルとして発売される「NAIA」では、2種類のセラミックを採用しているそうですが、それぞれのセラミックはどこが違うのでしょう?

ガンディ 実は忙しくて、今年が50周年ということを忘れていたんです(笑)。なので、今回NAIAをリリースしたのはたまたまです。とはいえ、いくつかの輸入代理店さんからも50周年モデルに関する問い合わせをいただいていたので、ぎりぎりのタイミングでNAIAを発売することが決まってよかったです。

 そのNAIAでは、スピンドル・ホルダー部とアーム・ベース部との間を異種素材で上下から挟んで補強するダブルブレイス・テクノロジーに、セラミックの中でも、特に剛性が高いとされるセラミック・アルミニウム・オキサイド材を採用しています。このセラミック・アルミニウム・オキサイド材は、ダイヤモンドに近い硬さを持った素材で、セラミックプラッターの原材料にも採用されています。

 その他NAIAでは、新たに開発したZTA(Zirconium toughened alumina)セラミック製ベアリングとスピンドルを搭載しています。トーンアームを支える部分には、硬さもそうですが、しなやかさ、摩擦への耐久性も必要ですので、ルビーに近い特性を持ったZTAセラミックを使っているわけです。硬いセラミックといっても、それぞれの質が異なっているのです。

 NAIAは、フラッグシップモデルの「Naiad」(価格25,000ポンド、日本未発売)という目標があって、そこからどれだけコスダウンできるかを考えて作った製品なので、多くの点で工夫を重ねています。

 Naiadでもセラミックを使っていますが、NAIAに同じセラミックを使うとコストがかかりすぎてしまいます。ですので、コストダウンできて、しかも同程度のクォリティの製品が作れるベストな素材として見つけてきたのがこれらの材料です。このセラミックはミサイルや量子加速器にも使われている素晴らしい素材ですし、加工方法も製造元と相談するなどして、最善の方法を模索しています。

画像: レガのフラッグシップモデル「Naidad」(日本未発売)

レガのフラッグシップモデル「Naidad」(日本未発売)

――上位機のNaiadはどのような位置づけの製品なのでしょう。

ガンディ Naiadはレガのトップモデルで、2007〜2008年頃から開発を進めていました。レガの技術の蓄積を証明したいという思いからスタートしたのです。その後、2009年にリーマンショックあって、イギリスのハイテク企業はどこも厳しい状況になりました。その時に空いた時間を利用して、F1関連の開発を行っていたハイテク企業にターンテーブル用のセラミックについて相談したり、スコットランドにある銃器メーカーとベアリグのテクノロジー、軸をスムーズに回転させるための作り方などを共同開発することができたのです。

――その他に、NAIAとNaiadとの違いはどこにあるのでしょう。

ガンディ NAIAとNaiadではほとんどの部品が変わっています。例えばNAIAの本体を構成しているカーボンファイバーには、グラフィンオキサイトという材料を混ぜて剛性を上げています。そうしないと、剛性という点ではレガの開発チームには納得がいかないものだったのです。

 ベアリングもコンピューター制御で製造することによって、コストを落としました。この開発には3年ぐらいかかっています。製造はドイツの会社にお願いしているんですが、幸いなことにその会社のセールスエンジニアがレガの製品を使っていたこともあり、社内調整を頑張ってくれたおかげでコストダウンを実現できました。

――NAIAとPlannner10のキャビネットは形が同じですが、これも生産性を重視した結果なのでしょうか。

ガンディ その通りです。特殊ポリウレタン素材のTancast8をコア材に、カーボングラファイト素材をトップとボトムに使った構造で、「剛性」「軽量化」「振動のコントロール」といった要素を高いレベルでクリアーしています。

 Tancast8を選んだ理由としては、いろんな素材を検証した結果、素材として若干重たいのですが、耐久性や剛性が強かったことと、色が黒いということが決め手でした。

画像: 3本のReference EBLTドライブベルトでプラッターを駆動

3本のReference EBLTドライブベルトでプラッターを駆動

――NAIAは、剛性の高さや生産性を細かく考えて開発されているということですね。

ガンディ おっしゃる通りです。例えばプラッターはNaiadの場合は手で加工しているのに対してNAIAは機械で加工しているので、精度はやはり高いですね。トーンアームもNAIAはCNC加工ですので、ひじょうに美しい仕上がりになっています。ここは手作業パーツを使ったNaiadよりも優れている部分かもしれません。

――最近のレガのターンテーブルの音は、以前よりワイドレンジになってきたような印象もあります。音決めプロセス等で何か変化はありましたか?

ガンディ 音については、レガとしてのいい音を目指しており、ここは変わっていません。特に意識してワイドレンジにしているといったことはなく、新しいテクノロジーを採用した結果として、解像度が高くなっているということだと思います。

――音決めはガンディさんひとりで行っているんですか?

ガンディ いえ、チームで決めています。開発の時点から色々な人が一緒に音を聴いて、決めていているといった感じですね。私もその中のひとりです。昔はひとりのエンジニアが決めたり、私が決めたりといったこともありましたが、最近はチームで決めています。

 とはいえ、私の音作りや思いを継承してもらうために、現在2人のエンジニアが音決めの中心になる役割を担っています。聴いている音楽の趣味が近いといった点を考えて、彼らだったら大丈夫だろうという人を選んでいます。

 その試聴用に、社内にはふたつのテストルームを準備しています。特にアンプなどのエレクトロニクス機器は様々な点で変化が大きいので、同じシステムをふたつ準備しておいて、それぞれで音を確認するようにしています。

画像: CNC加工されたRB Titaniumトーンアームを採用する

CNC加工されたRB Titaniumトーンアームを採用する

――ちなみにNAIAの他に、現在開発している製品、近日発売予定の製品があったら教えてください。

ガンディ 現在MMカートリッジを3モデル並行して開発していますが、MCに負けない音を目指していきたいと思っています。またセパレートアンプやコンクリートキャビネットのスピーカーなども検討しています。他にMCフォノアンプとして、「AURA」(来年日本発売予定)の弟モデルも開発しています。

 ターンテーブルは、今のところ新製品の予定はありません。研究・開発は続けていますので、素材やエレクトロニクスでいい技術が揃ったら次世代モデルも考えたいと思います。

――最後に、日本のオーディオファン、レガファンに向けてひと言お願いします。

ガンディ 改めてですが、レガの製品は、オーディオファイル向けというよりも、むしろ音楽愛好家のための製品でありたいと思っています。最近は色々な音楽の聴き方がありますが、レガの製品としては、音楽を楽しむ方のためにありたいと思っているのです。

 レガは現在、50ヵ国に製品を出荷していて、それらの異なるカルチャーの皆さんにお使いいただいています。日本もそのひとつで、ぜひ日本の皆さんにもわれわれの製品を楽しんでいただきたいと思っております。

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