原題は『What's Love Got to Do with It?』。この文字列を見ただけで私の頭の中には、今年亡くなった歌手ティナ・ターナーの大ヒット曲で、マイルス・デイヴィスも演奏した「What's Love Got to Do with It」が鳴り始めてしまう。What'sはWhatとhasを一緒にした言葉であろうが、無理に日本語化すると「愛とそれとは何の関係があるの(=愛とそれとは関係ないだろう)」という感じか。が、もっとすっきりする日本語が、この映画にあった。『きっと、それは愛じゃない』(原題: What's Love Got to Do with It?)である。
12月15日より全国公開となる本作は、ロンドンを舞台にした、現代にふさわしい、新しく、フレキシブルな価値観に彩られたラブストーリーだ。別に出会って親しくなってそれが恋心へと高まっていくばかりが「現代の王道」ではない。SNSなどもばっちり使いこなして、ある意味デジタルに想いを形成していくのだって、やっぱりこれも「恋という手段のひとつ」なのだ。
主演の「ゾーイ」を演じるリリー・ジェームズは『シンデレラ』で主役を務め、その母役は『ハワーズ・エンド』でアカデミー賞主演女優賞を受賞したほか、『ハリー・ポッター』シリーズにも出演しているエマ・トンプソン。そんな二大スターの共演を制作したのは、『ブリジット・ジョーンズの日記』の制作スタジオでもあるワーキング・タイトル・フィルムズ。監督は誰なのか、と思ったら、アカデミー賞7部門にノミネートされた『エリザベス』で知られるシェカール・カプールではないか。
このカプールを招いたことで、内容にもカメラ・ワークにも一層の深みが生まれたのでは、と私は感じている。一家団欒のシーンや、食事の情景は、「これこそ多民族国家」と呼びたくなるスケールの大きなもの。インド~パキスタン系の人々の描写が殊に生き生きしている。「ゾーイ」の男運のなさに思い当たる観客も世界中にいることだろうし、彼女の幼馴染で、親のためには親が選んだ相手と結婚すべきと考える「カズ」(『スター・トレック:ディスカバリー』のシャザド・ラティフが演じる)に、「君の人生なんだから、自分の心の声に従って決めればいいのに。気心の知れた女性が目の前にいるじゃないか」と声をかけたくなったのは私だけではないはずだ。
出演キャラクターがどんどん身近に感じられるストーリー。カップルで観に行って、終わった後に感想を語り合うと、お互い新しい発見ができるのでは。
映画『きっと、それは愛じゃない』
12月15日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
監督:シェカール・カプール(『エリザベス』)
出演:リリー・ジェームズ、シャザド・ラティフ、シャバナ・アズミ、エマ・トンプソン、サジャル・アリー
提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ
2022 / イギリス / 英語・ウルドゥー語 / 109分 / カラー / スコープ / 5.1ch / 字幕翻訳:チオキ真理 / 原題:WHAT’S LOVE GOT TO DO WITH IT? / G
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