あの『ウエスト・サイド物語』のBDが、最新のハイエンドオーディオシステムで、どう再生されるか。私の愛盤は2012年の「製作50周年記念版コレクターズBOX」。65mmフィルムを8Kでスキャンし、4Kで修復・マスタリングされた初のディスクパッケージだ。それはまさに映画の黄金時代の宝物。満艦飾のフィルム感にて、ペンキ塗装された原色、下町のすさんだ光景など、特に色にまつわる質感表現が見事だ。多様な人種の蝟集による多彩な肌色再現も刮目。

 一方、音声は、4.0chオリジナル音声と、リマスタリング制作されたDTS-HDMA 7.1ch音声を収録。1961年当時の映画音響クォリティとしては標準的なもので、今回再生音源として使う7.1ch音声もリマスタリング工程において特段に高音質化されたわけではない。中域の剛性が高く、切れ味が鮮鋭。こってりさと爽快さも持った映画音だ。

 今回のテーマは、最新のハイエンドオーディオシステムは本ディスクから、どれほど音のリソースを引き出せるか。逆に言うとディスクの音は、再生系の違いにどう反応するか、いやどれほど反応するのか。リソースが豊穣で深掘り能力が十分にあれば、従来聴いたこともない新鮮な音が体験できるはずだ。でも引き出し能力が不足するなら、それなりの音にしかならない。

 そこで数多くの製品を体験してきたなかで、その資質を有すと思われる最新のスピーカーシステムとパワーアンプを選んだ。スピーカーシステムは音進行の精密さと音楽性を高い次元で獲得した、ソナス・ファベールのフロアー型の新製品「Amati G5」。贅沢にも前後4本のサラウンド配置で鳴らす。パワーアンプは、ソウリューションのステレオアンプ311と711。比較的コンパクトな筐体の311はスイッチング電源と大容量コンデンサーの合わせ技が、強力な駆動力を発揮。711は左右独立のデュアルモノラル構成。位相差のない大電流動作、ワイドな周波数特性、超低歪みを実現している。視聴は、まずHiVi視聴室のリファレンスAVセンター・デノンAVC-A1H単独で、Amati G5を駆動。次にA1Hのプリアウト経由で311と、711にパワーアンプを追加する。

 

画像1: これこそAVの奇蹟。感動に身も震えた!ソナス・ファベールAmati G5×4本をソウリューションで鳴らす『ウエスト・サイド物語』

Speaker System
Sonus faber
Amati G5
¥5,940,000 (ペア)税込

●型式:3.5ウェイ4スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:28mmドーム型トゥイーター、150mmコーン型ミッドレンジ、220mmコーン型ミッドバス、220mmコーン型ウーファー
●出力音圧レベル:91dB/2.83V/m
●クロスオーバー周波数:200Hz、270Hz、2.2kHz
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W416×H1,180×D516mm/56kg
●問合せ先:(株)ノア TEL.03(6902)0941

 

『ウエスト・サイド物語』

●1961年作品
●152分
●劇場公開:アメリカ・1961年10月18日、日本・12月23日

【キャスト】ナタリー・ウッド、リチャード・ベイマー、ジョージ・チャキリス、ラス・タンブリン、リタ・モレノ
【スタッフ】監督:ロバート・ワイズ/ジェローム・ロビンス、音楽:レナード・バーンスタイン、脚本:アーネスト・レーマン、撮影:ダニエル・L・ファップ、編集:トーマス・スタンフォード

本作は、1985年に4:3映像を収録したLDが日本で発売。その後、1990年にはワイドスクリーン版LD、1999年にドルビーデジタルAC-3による5.1ch音声収録LDが再発された。同じ1999年にはDVDがリリース。スクイーズ収録によるワイド映像が収められていた。2003年にDTS5.1ch音声版DVDが再発、2012年にはハイビジョン映像とDTS-HDMA7.1chとオリジナル版ドルビーデジタル4.0ch音声を収録したBDが20世紀フォックスからリリースされた。4K映像パッケージは未リリースで、今回の取材では2012年にリリースされたフォックス版BDを用いた。現在本作現行盤の販売元は、ワーナー/NBCユニバーサルだが、仕様はフォックス版と同じようだ。なお、2021年には日本語吹替音声追加収録版BDもリリースされている

 

 

 再生したシーン/曲は、作品冒頭の「序曲」(チャプター1)、愛を歌うトニーとマリアの「トゥナイト」(チャプター13)、プエルトリコ出身者が故郷を懐かしんで歌う「アメリカ」(チャプター11)の3つ。主に「序曲」と「トゥナイト」の印象を記そう。

 

STEP 1
AVC-A1HでAmati G5を鳴らす

チャプター1「序曲」

 ① 2.0ch再生(DTS-HDMA7.1chをダウンミックス再生。以下同)。冒頭の口笛からして、早くもAmati G5のグロッシーで緻密で上質な音色が聴けた。オーケストラサウンドは暖かくなめらかで、潤いが濃い。歌に迸る生命力は、まるでプッチーニのオペラアリアのような華麗さ。チェロのピチカートの朗らかな弾み、金管のシャープなキレ、弦の旋律の豊潤さ……。そう、Amati G5はAVセンターでの駆動でも稠密に歌ってくれた。これぞ心に強く訴えるエモーショナルな映画音楽の音だ。

 ② 4.0ch再生(DTS-HDMA7.1chを4.0chダウンミックス再生。以下同)。2.0ch再生に比べて「音場」の存在を強く感じた。上質さ、麗しさというAmati G5の美質はそのままに、場の濃密さ、音進行の力感が加わった。音像の飛翔感、融合感も違う。

 ③ 4.0.6再生(DTS-HDMA7.1chを、AVC-A1HのDTS Neural:Xモードでアップミックスして再生。オーバーヘッドスピーカーはイクリプスTD508MK3×6本を使用。以下同)。天井スピーカーを加えると、音場密度は2.0ch→4.0chの時とは比較にならないほど向上する。総動員された頭上音場が、ハーフドーム音場全体に音を流し込み、詰める。オーケストラ音像は、2.0ch再生では床から湧くようなイメージだったが、スクリーンのセンター付近まで高さがレイズアップ。同時に各パートの音進行が明瞭になり、解像感も向上した。バーンスタインの音楽がもたらす躍動感、わくわく感、期待感がより濃くなった。これは何だろう。頭上スピーカーがAmati G5の音調を尊重しながら、音質面でもレイズアップさせた印象だ。

 

チャプター13「トゥナイト」

 ① 2.0ch再生。台詞と歌声を聴く。台詞は細かな抑揚まで丁寧に発音され、上質だ。歌に入ると、さらにAmati G5の美質が活きる。

 ② 4.0ch再生。2.0ch再生ではAmati G5の音色そのものに酔ったが、4.0chではその美音調がサラウンドまで拡張。音場の空気が濃くなり、高さ方向での画音一致に加え、声の音像がボディ感を伴なってくるのが、2.0chとの違いだ。ここまでの変化はAmati G5を4本揃えたこそだからであろう。

 ③ 4.0.6再生。4.0ch再生でも相当な臨場感を得たが、頭上スピーカーが加わると、驚くほどの違いを聴かせる。一体感と立体感がさらに高く、しかも密になり、“現場感”が、より強くなる。トニーとマリア2人はスクリーンから少しせり出した空間上で喋っているイメージとなるが、頭上スピーカーが再生空間の場のブレゼンスを格段に高めたのだ。濃密な音場の中での歌も、Amati G5の美音に乗ってさらに美しくなった。

 

画像: 120インチスクリーンサイドにぴったりフィットするAmati G5。デノンのAVセンターAVC-A1Hでの駆動から、ソウリューションのパワーアンプ2種類(311、711)でのドライブも試す。底知れぬ潜在能力をAV環境でどこまで引き出せるかにチャレンジした

120インチスクリーンサイドにぴったりフィットするAmati G5。デノンのAVセンターAVC-A1Hでの駆動から、ソウリューションのパワーアンプ2種類(311、711)でのドライブも試す。底知れぬ潜在能力をAV環境でどこまで引き出せるかにチャレンジした

画像: サラウンド側に配置されたAmati G5。スピーカー設置位置は、本文では詳説されていないが、いろいろトライアルを行なった結果、視聴位置を基準にフロント側とちょうど対称の関係となるように配置、等距離セッティングとした。振り角も約1日かけて様々試した結果、軸が視聴位置あたりで交差するような形となった

サラウンド側に配置されたAmati G5。スピーカー設置位置は、本文では詳説されていないが、いろいろトライアルを行なった結果、視聴位置を基準にフロント側とちょうど対称の関係となるように配置、等距離セッティングとした。振り角も約1日かけて様々試した結果、軸が視聴位置あたりで交差するような形となった

 

STEP 2
前方L/R用アンプとしてソウリューション311を追加

 前方左右のAmati G5を311で鳴した御利益は、音の質感の圧倒的な向上だ。① 2.0ch再生。「序曲」では、311から音楽的な弾力感が与えられ、リズムと旋律が躍動し、各楽器の音色も描写がたいへん丁寧だ。さすがはハイエンドアンプ311の表現力。「トゥナイト」では音楽的な艶感が横溢し非常に細かな部分まで、抑揚が効く。恋の始まりのワクワク感を、上質なエモーションで描写した。

 ② 4.0ch再生。サラウンド側のAmati G5はAVC-A1Hでの駆動ではあるが、音場の臨場感だけでなく、全体の質も上がった。「トゥナイト」では2人のやり取りが親密になり、粒立ちがより細やかに、階調がさらに緻密になった。前述のAVC-A1Hでの4.0ch駆動より、数グレードは向上した。それはAmati G5と311の相性の良さであろうか。しかも前方の音質向上とともに画音の一致度もより緊密になったことが興味深い。

 刮目はやはり頭上スピーカーが加わる ③ 4.0.6再生。「序曲」では、スクリーンの手前側に空間が生まれ、濃密なプレゼンスが醸し出された。「トゥナイト」と「アメリカ」ではさらに、DTS Neural:Xによるアップミックス効果が全面的にブレイク。音場の緊密さと、トータルでの音質向上効果は、AVC-A1H単独再生時より遙かに大きい。空間内の音像がより明確になり、飛翔は勢いを増し、煌めきはより高輝度に。空間の密度と質感がこれほど向上するのが不思議だ。

 

 

STEP 3
前方L/R用アンプにソウリューション711を、後方L/R用アンプに311を追加。

 究極の贅沢な組合せ! ① 2.0ch再生。まず「序曲」で驚く。711+Amati G5は、次元が違う。音の立ち上がり/下がりが、目に見えて急峻になり、ダイナミックレンジの上限が大きく向上しつつ、音の粒立ちが別格の細やかさに変化した。これがBDの音なのか……と、その上質さに耳を疑うほどだ。歌唱場面の「トゥナイト」「アメリカ」ではフルカラー映像的な色の階調が見えるようだ。その彩色もピュアでクリーンなのである。

 ② 4.0ch再生。「序曲」は音の浸透力が凄まじい。エネルギーに満ちた金管の躍動、咆吼、弾みが快感だ。無音の休符にも無限の音楽性が宿る。旋律美も次元が違う。「トゥナイト」「アメリカ」は、これまでにないほど音場が濃密にして澄んでいる。音像も立体的なボディを持ちながら、空間内の位置がより明瞭に。歌の飛翔速度も上昇。音が感情の機微を繊細に奏でている。

 ③ 4.0.6再生での変化はさらに大きい。4.0ch再生で得られた地平を、頭上にある6つの小さなスピーカーがこれほど変革させるとは。映像と音像の一体化。切れば鮮血が飛び散るような生々しい鮮度感。キャラクターの性格まで識れる情報量と情緒量の多さ……。心底驚いた。

 

画像2: これこそAVの奇蹟。感動に身も震えた!ソナス・ファベールAmati G5×4本をソウリューションで鳴らす『ウエスト・サイド物語』

エレクトロニクス系はBD再生機としてパナソニックDMR-ZR1を、AVセンターはデノンAVC-A1Hを用いた。Step1では、4本のAmati G5も含めてAVC-A1Hだけで駆動。Step2では、ソウリューション311パワーアンプ(ラック左の中段)をフロントL/RのAmati G5駆動用として追加、Step3はさらにソウリューション711(写真左)を追加してフロントL/Rを駆動、311はサラウンドのAmati G5を駆動させた。なおオーバーヘッドスピーカーは視聴室常設のイクリプスTD508MK3を3組6本用いている

Power Amplifier Soulution
311
¥2,970,000 税込

711
¥10,560,000 税込

●問合せ先:(株)アーク・ジョイア TEL.03(6902)0480

 

画像3: これこそAVの奇蹟。感動に身も震えた!ソナス・ファベールAmati G5×4本をソウリューションで鳴らす『ウエスト・サイド物語』

最終的な視聴接続図。AVC-A1Hのプリ出力はフロントL/Rとサブウーファー以外はXLR接続が選択できないため、バランス入力専用の311の接続は、RCA/XLR変換ケーブルを用いた。なお、センターとサブウーファーチャンネルは、AVC-A1H側でフロントL/Rに落とし込むダウンミックス再生としている

 

その他の視聴システム

●プロジェクター:JVC DLA-V9R
●スクリーン:キクチ グレースマット100(120インチ16:9)
●オーバーヘッドスピーカー:イクリプスTD508MK3×6

 

 

 結論。壮絶な視聴であった。私の長いソフト鑑賞生活でも、これほどの深い感慨と驚きを与えてくれた奇蹟的な体験は、数えるほどしかない。そもそもAmati G5とソウリューションが合わされば、BDでもかなりの音が聴けるはずと皮算用していたが、現実の音は事前の予想を遙かに超え、身も震えるほどの感動だった。

 ソウリューションの段違いの駆動力がAmati G5の情報性と情緒性を、極限まで引き上げた。さらにソウリューション+Amati G5×4本+DTS Neural:Xアップミックス+頭上スピーカー×6本の4.0.6の組合せでは、これほどの大きな音体積、精密な音像、緻密な音階調、高彩度でクリアーな音色、そして特段の品位の高さ……が、BDから聴けるのかと、驚愕した。

 60年前の映画。10年前に作られたBD。それがハイエンドオーディオコンポーネントを組み合わせることで、映画のD(ダイヤローグ)/M(ミュージック)/S(サウンドエフェクト)のクォリティが最高度まで上がり、まったく次元の違う高貴で美的な音となった。

 驚くのは、この音を“聴いた”映像が輝き出したこと。圧倒的な高音質が映像をハイコントラスト、高彩度、高階調で彩ったのである。映像自体は物理的に変わるはずはないが、あまりの音の凄さに、私の脳が刺激を受け、映像受容に反映させたのであろう。合計価格からして、本システムはそう簡単に導入できるものではないが、ハイエンドオーディオコンポーネントで再生するなら、映像作品からこれほどの感動が得られるという事実は、今後のAVの展開に大いに資するに違いない。

 

本記事の掲載は『HiVi 2024年冬号』

This article is a sponsored article by
''.