「これは、ひとごとではないぞ」と思う。過疎化が進む地方都市。その地方都市で亡くなっていく親。都会で働く子供。残された実家。まさに「現代日本の問題」が横たわっている。

が、この映画は、それを観るものに厳しく突き付けてゆくのではなく、実に温かく、まろやかに描いている。現実の切なさ、鋭さを映し出しながらも、まっとうな人間ならば共感できるに違いない「心情の核」のようなものを描いている。だから観終えた後、さわやかな気分になる。

 主人公の花村茉莉を演じる織田美織は、本作が初主演作品とのこと。この映画のムードは、平田満が演じる亡き「父親」によって設定されている。教師をしていた、誠実な人物。父と母は別れて久しいが、美織は父の側についたというか、(もういないはずなのに)その幻覚を見てしまうほどに父のことが大好きで、子供の頃からの思い出が詰まった実家をどうしようかと迷っている。

画像: 「父の死」「先生の死」を経て、全身全霊で毎日を生き抜くふたりの女性を暖かなタッチで描く『消えない灯り』

 実家で思い出にふける彼女の前に、ひとりの既婚者女性・陽子(金澤美穂)が現れたことから、物語は次なる展開へと突入する。かつての教え子であるという彼女もまた、ひょっとしたら陽子以上に、彼のことを慕っていた。並々ならぬ愛情を感じさせる口調のはしばしが、秘密、疑惑、不倫といった言葉をこちらの頭に浮かばせるが、断じてこれはサスペンスではない。「父の死(教え子にとっては恩師の死)」が、茉莉と陽子にとっては、各自の精神的成長のための「夜明け」であることを、やさしく暗示する一作――そんな印象だ。監督・脚本・編集は井上博貴。10月21日より渋谷ユーロスペースで公開。

映画『消えない灯り』

10月21日(土)より、ユーロスペースほか全国公開

<キャスト・スタッフ>
織田美織 金澤美穂 宍戸美和公 塩顕治 北浦愛 諏訪珠理 温水洋一 朝加真由美 平田満

監督・脚本・編集:井上博貴 プロデューサー:渡邉直哉 撮影:杉山弘樹 録音:久野貴司 助監督:河野宗彦 衣装:山川恵未 ヘアメイク:山田季紗 キャスティング:柳井宏輝 制作:大塚勝彦 スチール:斎藤弥里 音楽・MA:中西ゆういちろう 制作プロダクション:パロマプロモーション 配給:ミカタ・エンタテインメント 宣伝:MAP
2022/日本/カラー/アメリカンビスタ/74分
(C)パロマプロモーション

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