アストロデザインは、去る7月6日〜7日の2日間、恒例の同社技術展示会、「アストロデザインプライベートショー」を、東京大田区の本社オフィスで開催した。コロナ禍のため3年ぶりの開催となった昨年に続き、今年も多くの最新技術が並んだ盛況な会となっていた。本連載では、昨年同様にそれらの展示内容とともに、同社代表取締役社長 鈴木茂昭さんへのインタビューをお届けする。(StereoSound ONLINE編集部)

画像: インタビューに対応いただいた、アストロデザイン株式会社 代表取締役社長 鈴木茂昭さん

インタビューに対応いただいた、アストロデザイン株式会社 代表取締役社長 鈴木茂昭さん

麻倉 今年も「プライベートショウ」にお呼びいただきありがとうございます。さっそく展示を拝見しましたが、今年は去年以上に熱気が感じられました。

鈴木 そうですね、今年のショウは雰囲気もずいぶん変化しました。やはりマスクからの開放などを含めて、社会状況が変わってきた影響が大きいと思います。

麻倉 御社に限らず、ここ数年は各社の展示会もほとんど開催されていませんでしたから、われわれマスコミに限らず、技術者としても新しいものを知りたい、見に行きたいという気持ちはあったでしょうね。さて、今回のショウですが、昨年と比べて展示内容が刷新されたようにも感じました。

 特に8Kについて、これまではどうしても放送がメイン用途というニュアンスがありましたが、今年はそういうところから外れて、もっと用途を拡大して、“8Kの応用”という展開が本格化してきたように感じました。

鈴木 ご存知の通り、8KはもともとNHK放送技術研究所が開発した技術で、今日では衛星放送にも採用されています。でも正直なところ、2018年末にBS 4K/8K放送が始まった時点で、研究・開発自体は終わってしまったんじゃないかと思います。僕だけでなく、8Kの技術開発は終わったと考えている人は多いでしょう。

麻倉 確かに、先日NHK技研公開を取材しましたが、8Kに関する研究展示はありませんでした。

鈴木 8KはNHKが始めた日本独自の技術です。それなのに、開発が終わったら何もしないで放置しているように思えます。8Kは、研究・開発のテーマとしては魅力があったと思うんです。しかし放送としての運用はあまりうまくいっていない。実際に、放送が始まって5年が過ぎていますが8K放送は1チャンネルのみで、しかもシャープを始めとする一部のテレビしか見ることができません。

 つまりユーザーは8K大画面テレビを買っても、ほとんどの場合、地デジの2Kか、せいぜいBS4K放送を8Kに変換して見ることになります。その4K放送も民放局は4K番組制作に予算をかけていないし、NHKも再放送が多い。つまり、4K/8K放送については、作り手側が新しいコンテンツを作ろうという努力をしていないのです。それでは視聴者も白けてしまいますよね。

画像: 鈴木さんとは長年のお付き合いという麻倉さん。今回も新しい技術の展開について深いお話で盛り上がっていた

鈴木さんとは長年のお付き合いという麻倉さん。今回も新しい技術の展開について深いお話で盛り上がっていた

麻倉 そうなんです。私も自宅で8Kテレビを愛用していますが、最近はエアチェックしたいと思う番組が減ってきてしまいました。これはゆゆしき問題です。

鈴木 もうひとつは画角の問題です。2K/4K/8Kとも同じ16:9画角で、ぱっと見は違いがない。もちろん、解像度に応じてそれぞれの情報量が活かせる撮り方をしていれば、視聴者にもその価値が伝わるのでしょうが、実際には2Kでも8Kでも同じアングルで撮った絵がほとんどです。これでは、視聴者は綺麗な絵だとは感じても、8Kならではの価値はわかってもらえない。

 と言っても、ドラマや映画などのコンテンツではそれぞれの撮影技法があるわけですから、突然解像度だけ2Kの16倍なっても、果たしてその効果が活かせるはまた別の話です。となると、その効果が活かせるコンテンツとは何かを考えて、そういう番組を撮らなくてはいけないんです。でも残念ながら、今の放送ではそんな努力をしているようには見えません。ここは8Kの認知・普及のために大きな問題だと考えています。

麻倉 そう考えると、現状のままでは8K放送がどんどん広がっていく可能性は小さいですよね。一方で8Kを技術として見ると、放送以外の分野で8Kをどう捉えるかが大切になってくるわけで、今回の展示でもその点が大きく進んできたように思います。

鈴木 そうですね。以前にも申し上げたかもしれませんが、当社としても5年ほど前から8Kは放送だけで使う技術ではないと感じていました。そこでNABショー(全米放送事業者協会主催の見本市)などの様々な展示会で8Kの展示を行ってきたのです。

 すると、高精細映像を扱うのは映像技術としては当たり前のことなので、アメリカでは8K放送は行われていないにも関わらず、すぐに反応があったのです。

麻倉 放送がない分、8Kの技術としての素晴らしさを直感的にとらえてくれたのでしょう。具体的にはどんな内容だったのでしょうか?

画像: 8Kストリーミングカメラの「BOSMA G1 Pro」は、3,300万画素のCMOSセンサーを搭載し、8K/30pの撮影が可能。IPを使いリアルタイムストリーミング配信にも対応している

8Kストリーミングカメラの「BOSMA G1 Pro」は、3,300万画素のCMOSセンサーを搭載し、8K/30pの撮影が可能。IPを使いリアルタイムストリーミング配信にも対応している

鈴木 最初に反応してくれたのは、MLB.COM(メジャーリーグベースボール)でした。アメリカのプロ野球はMLB.COMがすべての試合の撮影を行って、素材を放送局に販売しています。その中で一番コストがかかっているのが、カメラマンの人件費だそうです。

 彼らの撮影の仕方は、日本のようにカメラマンがアングルを決めるのではなく、スタジアムに2Kカメラを16台置いて色々なアングルで捉え、その中から使える映像をスイッチングしたり、編集して送出しているそうです。

 カメラを16台も使うと、当然カメラマンやアシスタントもそれだけ必要になります。アメリカでは人権費が一番高いから、カメラマンの数が多いということは、そのままコストアップにつながるわけです。

麻倉 16人のカメラマンというのは、確かに多いですね。コストとしては見逃せない。

鈴木 それを何とかしたいということで、4Kカメラが出てきた時に台数を4台に減らして撮影実験をしてみたようなのです。しかし、そこまで減らしたら、さすがに4Kであっても使える映像にならなかったようです。

 その後、NABショーで弊社の8Kカメラ展示を見て、4Kのさらに4倍の情報量ならいけるんじゃないかと考えて声をかけてくれたのです。さっそく8Kカメラを持って行って実験をしてみたのですが、映像を見た瞬間に、4Kとはまったく違う、これなら使えると驚いていました。

麻倉 8Kカメラなら4台でも充分満足できる映像が撮影できたんですね。実際に8KカメラはMLBで採用されたのですか?

鈴木 これなら行けるとひじょうに盛り上がりました。アメリカにはMLB以外にも、4大プロスポーツとしてナショナルフットボール、ナショナルバスケットボール、ナショナルホッケーがありますが、そのいずれでも8Kカメラが使えるんじゃないか、ぜひ一緒に8Kで何かやりましょうということになったのですが、その直後にMLB.COMが買収されて、その時のメンバーがみんな退職してしまったのです。

画像: 8Kを“映像データ”として捉えると、放送を越えた様々な展開が拡がる。常に最先端を走ってきたアストロデザインの技術展示会は、見所満載だった(前):麻倉怜士のいいもの研究所 レポート101
画像: 8Kカメラを使った、AI画像・映像解析向け映像コンサルティングサービスも提案されていた。クライアントが欲しいと考えている映像について、カメラや機材の提案から、映像処理まで受け持ってくれるとのこと

8Kカメラを使った、AI画像・映像解析向け映像コンサルティングサービスも提案されていた。クライアントが欲しいと考えている映像について、カメラや機材の提案から、映像処理まで受け持ってくれるとのこと

麻倉 それは残念でしたね。千載一遇のチャンスだったのに。

鈴木 ところが、その退職したメンバーが他のスポーツ会社に転職して、今度はアメフトのチームからコンタクトがあったんです。結果としてサンフランシスコ49ersのホームである、リーバイス・スタジアムに8Kカメラが採用されたんです。既に弊社の8Kカメラを5台設置しています。

麻倉 なるほど、紆余曲折はあったけど、いい結果につながりましたね。そのリーバイス・スタジアムでは8Kカメラはどんな風に配置しているのでしょう?

鈴木 フィールドのそれぞれのラインを捉えるように4台、さらに全体を俯瞰で捉えるカメラを1台設置しています。それを使ってスタジアムのLEDディスプレイに競技中の映像を写すのはもちろん、他にもボールがライン上ギリギリに落ちた場合に、アウトかセーフかの判定する際に使っています。

 自分のチームにとって不利な判定がなされた時など、もし誤審だったら8Kカメラの映像をスクリーンに大写しにしてアピールするわけです。そうすると明らかに誤審とわかるわけで、実際に何試合かで逆転勝ちしたこともあるそうです。

麻倉 それはいい。これが動かぬ証拠だ、というわけですね(笑)。

鈴木 ここで面白いのが、本来そういったことは両方のチームで起きるわけですが、彼らは味方に有利な時だけこのシステムを使うわけです(笑)。で、そのせいで負けたチームから、8Kカメラについて教えてくれという問い合わせもいただいています。

 その結果、他のチームからもあれを導入したいという連絡があり、まもなく設置工事が完了するはずです。さらに3番目の契約も終わっています。

麻倉 そうなると、アメリカ4大スポーツの世界では8Kモニターシステムがどんどん普及していきそうですね。

画像: アメリカ、Tempus Ex Machina社との協業で開発された、8K AIトラッキングシステム。8Kカメラでフィールド全体を捉え、その映像をAIで解析することでそれぞれの選手をトラッキング可能だ

アメリカ、Tempus Ex Machina社との協業で開発された、8K AIトラッキングシステム。8Kカメラでフィールド全体を捉え、その映像をAIで解析することでそれぞれの選手をトラッキング可能だ

画像: 8Kの中から見たい選手の映像を切り出して拡大したり、敵味方がどの位置にいるかを分析して戦略構築に役立てたりといった使い方も可能という

8Kの中から見たい選手の映像を切り出して拡大したり、敵味方がどの位置にいるかを分析して戦略構築に役立てたりといった使い方も可能という

鈴木 はい、弊社としても期待しています。さらにもうひとつの8Kの応用例が、今回展示を行っているTempus Ex Machinaのシステムです。Tempus Ex Machinaはスポーツなどのライブイベントにおける新たなインタラクティブ体験を創出するテクノロジー企業です。

 通常のスポーツ中継ではボールを持っている選手だけをアップで撮影しますが、このシステムでは、8Kカメラで選手全員の様子を捉えています。その中ですべての選手を、キャプチャー&トラッキングして切り出します。選手ひとりひとりには必ずファンがついていますから、彼らに向けて選手のアップを配信するのです。それでチャージ料金をいただこうという提案です。

麻倉 推しの選手の映像だけを常に見られるわけですね。確かにそれは面白い。以前から鈴木さんは、8Kカメラで俯瞰で捉えておけば、そこから必要な部分を切り出して使えるとおっしゃっていました。それが具体化したのですね。

鈴木 フィールド全体を見渡せれば、フォーメーションがリアルタイムでわかるので、作戦分析にも使えます。
Tempus Ex Machinaとしては、そういった使い方も想定しているでしょう。

麻倉 こういった提案は今までなかったんですか?

鈴木 彼らは8Kカメラの映像を見てピンと来て、ベンチャー企業を立ち上げたそうです。既にイングランドのプレミアチーム、チェルシーFCとパートナーシップ契約を締結したと聞いています。

麻倉 素晴らしい。チェルシーは名門チームじゃないですか。

鈴木 このシステムはどのスポーツでも、また世界中どこでも通用しますからね。今までの映像は、送り手側の都合でカメラワークを決めていました。だけどファン心理としては、自分が好きな選手を見ていたいわけですから、こういった需要はあるはずです。

麻倉 確かに、放送では視野が固定されていますからね。熱心なファンなら引きでフィールド全体を見たいと思うこともあるはずです。

画像: 世界初となる、8K/240p実写映像も上映されていた。投写用には同社製DLPプロジェクターを使い、スイッチの切り替えで60pと240pの見比べもできるようになっていた

世界初となる、8K/240p実写映像も上映されていた。投写用には同社製DLPプロジェクターを使い、スイッチの切り替えで60pと240pの見比べもできるようになっていた

鈴木 8Kであれば、競技場を丸ごと捉えて放送できます。そうなれば、競技場にいっているのと同じ経験ができるわけで、本来8Kはそういうコンテンツを作ればいいのです。それで広すぎるという場合は、8K映像から切り出して選手をアップにしてあげればいい。

麻倉 面白いですね。広角もアップもどちらも1台のカメラで撮れるというのは、新しいカメラの使い方です。

鈴木 8Kの映像を見て、そういったことを直感的に思いつく人達がアメリカにはいるんですよね。

麻倉 日本のスポーツ界からはそういったオファーはないんですか?

鈴木 日本のスポーツ中継は、カメラを大量に使う方法が主流です。それはそれで様々なアングルの絵が撮れるというメリットがありますが、今後は撮った映像をどう処理するかも重要になっていくでしょう。

麻倉 8Kを映像データとして捉え、それを分析的に使おうと。確かに8K映像には多くの情報が含まれていますから、様々な活用ができるはずです。

鈴木 記録する際に8Kで撮っておけば、後から細かく調べることもできますからね。やっとそれが認知されてきたということでしょう。

麻倉 8K/240pの展示もありましたが、8K/60pとの比較には驚きました。確かにいくら解像度が8Kでも、絵がぶれていたら価値がありません。

鈴木 解像度が上がれば上がるほど、絵のブレが目につくようになります。HDクラスだと60pでもあまり気にならない、というか高速で動くものを見ても絵が甘いのであまり意味がありませんでした。しかし4K/8Kになると監視用とか、先程のスポーツのように解析用といった用途が出てきます。瞬間的に動いた被写体だと60pでは捉えきれませんから、その意味でも、フレームレートを上げることで8Kとしての使い道が増えていきます。

麻倉 確かに、解像度が上がれば、フレームレートとのバランスも考えなくてはいけませんね。

鈴木 電子映像はテレビの525i(インターレス)からスタートして、ブラウン管などの画面内で見るというのが今までの文化でした。でも8Kはそれとは別の技術で、限りなく可能性が広がっていくものだと考えています。

※10月9日公開の後編へ続く

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