インドネシアにおける、外面のいい初老の将軍「プルナ」と、使用人「ラキブ」の物語だ。ラキブの父は服役中で、兄は海外に出稼ぎに出ている。そしてラキブはプルナが所有する空き屋敷で、唯一の使用人として働いている。庶民である彼にしてみれば大抜擢だろう。しかもプルナは彼に優しく接する。
が、プルナにはしっかり裏の面があった。冷酷で、無残で、さらなる権力を得るためには手段を選ばないところがあった。それを知って葛藤してゆくラキブの姿が、細かに描き出される。それに、いくらプルナと親しさを深めたところで、ラキブが庶民であり、使用人であることには変わりない。自分たちが住む地域のライフラインを整備してほしいと訴える人たちの声に耳を貸すふりをし、口先ではうまいことをいい、しかし結局は「国ではなく、人々ではなく、自分がどれだけ得するか」だけで動く男がプルナだ。その下で忠実に働くことは、ラキブにとって拷問に等しかったのでは。
監督のマイケル・ムバラクは1990年生まれの気鋭で、これが初の長編作品。父親が約30年間、インドネシアの軍事独裁政権で公務員として働いていたことも、この映画のモチーフになっているという。そして本作が、「独裁政権が崩壊して24年が経った今日でも、いたるところで教えられている私の育った価値観への根源的な問いかけである」とも述べている。
とはいえ、これは決して「インドネシアという、他国の話」ではないはずだ。私も含めて大抵の人間はカネも権力もない。「もし自分がラキブの立場なら」と考えて、この映画を観れば観るほど、現実のむごさ、権力というものの不気味さに背筋の凍る思いがする。
映画『沈黙の自叙伝』
9月16日(土)~シアター・イメージフォーラムにてロードショー、全国順次公開
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