『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の魅力はリアルを極めた映像と音響によって舞台となる架空世界に現実感を与えていることだ。物語はシンプルで、アルファ・ケンタウリ系惑星ポリフェマスの衛星パンドラにやってきた人類と先住民族であるナヴィとの対立と抗争を描いているが、第2作で舞台を海とするのも、神秘の星パンドラの新たな魅力を体験してもらうためのものと言っていいだろう。

 映画におけるリアルとは何だろうか。特に自分の好きなアクション映画に限定すれば、舞台が現実であろうが異世界であろうが、すべて架空のもので、いわば偽物だ。だからこそ現実を超えるリアリティを追求し続ける必要がある。フィクション作品がすべて抱えている宿命を現在のところ最も大真面目に、リアルに向き合って制作されているのが『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』であり、ホームシアターで映画を堪能しようとする我々にとって目をそらすことの出来ない作品だ。

 

画像1: 使い手自身の研鑽を要求するマランツの旗艦機の潜在能力は『映画のリアル』へと直結する。Marantz AVセンター「AV10+AMP10」【HiVi流『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』最高再生術】

Marantz
CNTROL AV CENTER
AV10
¥1,100,000 税込

●型式:15.4chプロセッシング対応コントロールAVセンター
●接続端子:HDMI入力7系統、HDMI出力3系統、アナログ音声入力8系統(RCA×6、XLR×1、フォノ[MM]×1)、デジタル音声入力4系統(同軸×2、光×2)、17.4chアナログプリ出力2系統(RCA×1、XLR×1)ほか
●寸法/質量:W442×H189×D503mm/16.8kg
●問合せ先:デノン・マランツ・D&Mインポートオーディオお客様相談センター TEL.0570(666)112

 

16ch POWER AMPLIFIER
AMP10
¥1,100,000 税込

●型式:16chパワーアンプ
●定格出力:200W×2(8Ω、1kHz、THD 0.05%、ノーマル接続/2ch接続時)、400W×2(負荷8Ω、1kHz、THD 0.05%、BTL接続時)
●接続端子:16chアナログ音声入力2系統(RCA×1、XLR×1)、ほか
●寸法/質量:W442×H189×D488mm/19.8kg

 

意気揚々と導入したAV10+AMP10。だがなかかなうまく鳴らない……

 そんな作品のUHDブルーレイ版の発売を前にして、僕はAVセンターを更新した。マランツのAV10+AMP10という、セパレート型のモデルだ。マランツを選んだ理由はいろいろとあるが、一番は「映画のリアル」を感じたからだ。

 ところで、ある趣味においてさらに一歩高いところを目指そうというとき、経験ではたいてい酷い目に会う。そこで自分のいる処ではないと感じて元の場所に留まるか、困難を乗り越えて高みを目指すかは人によって異なるが、自分は酷い目に会ったときほど、そこに執着するタイプだ。

 マランツAV10+AMP10は、マニュアル通りに設置・接続しただけでは、まるで本領を発揮してくれなかった。もともと色づけのない、虚飾を排した鳴り方をするため、怖ろしいくらい素っ気ない印象だ。早く音を聴きたくて、元のAVセンターと入れ替えて急いで音を出した結果がこれだ。

 さて困った。今までのAVセンターならそれでもきちんと実力を発揮してくれた。この状態のAV10+AMP10でも、音の情報量の高さ、音像定位のシャープさ、そして空間表現の豊かさ、ぼくが導入を決めた音質的な特徴はすべて出ている。だが、映画が面白くない。映画の世界に入れない。最初は何が悪いのか、まったく分からずに頭を抱えた。

 きっかけはセンターレスの6.2.4構成のシステムでセンターchの定位が左に偏っていることに気付いたこと。よくよく確認すると定位そのものではなく、定位した音像の残響が左に残るような感じだ。そこでようやく、すべてを見直すことに決め、スピーカーセッティングからやり直した。

 スピーカーセッティングでは、精度を高めるためにレーザー距離計を導入。レーザー距離計自体は今や大工道具用などもあって価格は安い。だが、しっかりした台に水平などもきちんと合わせて設置しないと期待した精度が出ないため、カメラ用の三脚に取り付けできるタブレット端末用のスタンドを流用して簡易的な測定台を製作。測定のコツも掴んで測定してみると、フロントスピーカーの位置が左右で1cmほどズレていることが確認できた。

 今までなら無視できていた、音には現れなかったズレだ。それがマランツのコンビでは音を聴いてわかってしまう。すべてのスピーカーの距離を測定・微調整しながら、ユーザーに優しくないとか、きちんと鳴らすためにはかなりの手間ひまを求めてくるタイプだとわかった。こいつは厳しいAVセンターだとも思ったが、面白いことになってきたとも感じた。「鳴かぬなら鳴かせてやろうホトトギス」の心境だ。

 セッティングの精度を高めると、すぐさまそれが音に現れる。音場の広がりというか、音場のフォーカス感が一変したのである。音像定位の鮮明さと奥行の豊かさには、改めて立体音響の凄みがわかった気がしたほど。

 AV10+AMP10は、何をやっても応えてくれるような気がした。音に良さそうなことなら、なんでもやってみよう。これは面白い。自分のオーディオの知識や経験を試してくるようなAVセンターだ。結果として、16chパワーアンプであるAMP10の接続は、CH1~CH8を左側、CH9~CH16を右側として、左右対称になるように接続。デュアルモノ構成のアンプのような発想だ。理屈ではアンプのアサインで音が変わるようなことはないように思うが、音のセパレーションが向上し、音場再現の解像度も高まった。

 これに気を良くして、電源の取り回しの改善や電源ケーブルの交換も行なった。元々電源ケーブルは安価だが良いものを使っていたが、さらにグレードを上げ、サエクのPL-5900を選んだ。PC-Triple C導体の音質的なクセがなく、高い導通性能に期待しての選択だ。期待通り、素っ気ない鳴り方の原因でもあった音のエネルギー感が向上し、音に勢いや力強さが出てきた。こうしてあれこれと手を掛けた結果、当初の素っ気ない鳴り方から一変して、リアルさと生の音の感触を感じさせる音が出てくるようになってきた。まだ十分ではないが、ようやくAVセンターが心を開いてくれたような実感がある。

 

画像2: 使い手自身の研鑽を要求するマランツの旗艦機の潜在能力は『映画のリアル』へと直結する。Marantz AVセンター「AV10+AMP10」【HiVi流『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』最高再生術】

マランツのコントロールAVセンターの最新機種にして同社史上最高峰のモデルAV10。最新のAVフォーマットに事実上すべてに対応する強力な15.4chプロセッシング回路を装備するほか、マランツが磨き上げてきた、高速電圧増幅モジュール回路HDAM(Hyper-Dynamic Amplifier Modules)の最新ヴァージョンSA3を全チャンネルに搭載した、まさにフラッグシップグレードのコントロールAVセンターだ

 

AV10からパワーアンプへは、すべてXLRバランスケーブルで接続。フロントL/Rは、ベンチマークのコントロールアンプHPA4につなぎ、ユニティゲイン(パススルー)設定で連携し、2ch再生とサラウンド再生の高度な連携をはかっている

 

 

画像4: 使い手自身の研鑽を要求するマランツの旗艦機の潜在能力は『映画のリアル』へと直結する。Marantz AVセンター「AV10+AMP10」【HiVi流『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』最高再生術】

フロントL/Rとサブウーファー以外はAV10と同時導入したマランツ製16chパワーアンプAMP10で駆動する。8Ω時の定格出力200Wを誇る、マランツオリジナルの高出力クラスDアンプを16ch回路を搭載。強力な16chアンプ内蔵モデルとしては異例のコンパクトさを誇る逸品だ

 

スピーカーケーブルはスープラ製を使用し、バナナプラグを介して接続している。AMP10のどのチャンネルに、どのスピーカーをつなぐかでも音場再現性が変化するため、筐体後方からみて、左側にあるCH1からCH8に左側に配置したスピーカーを、右側にあるCH9からCH16に右側スピーカーをつなぎ、AMP10自体のアンプ使用も左右対称になるように工夫している

 

 

画像6: 使い手自身の研鑽を要求するマランツの旗艦機の潜在能力は『映画のリアル』へと直結する。Marantz AVセンター「AV10+AMP10」【HiVi流『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』最高再生術】

AV10+AMP10グレードの製品の導入では、単にケーブルを配線し、諸設定を行なうだけでは、潜在能力のすべてを発揮することは難しいだろう。マイクを使った自動音場補正機能オーディシーに関しても、鳥居さんは、従来以上の緻密さで入念に測定を行なっている。レーザー距離計のほか、マイク設置用三脚も再現性を確保できる治具を自作、高精度な設定を目指す

 

映画の世界に「居る感覚」こそAV10+AMP10の最大の魅力だ

 では、いよいよ『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』を見てみよう。もちろんUHDブルーレイ版だ。配信版も映像についてはかなり優秀だが、音響については低音のエネルギー感など物足りなさがある。AV10+AMP10は、そうしたソースの違いもはっきりと画や音に表すような、ストレートさ、そして厳しさもあるが、それでも今では頼りになる味方だ。

 マランツAV10+AMP10を導入した魅力を一番に実感するのは、迫力たっぷりの戦闘シーンではなく、平和な家族の暮らしを描くような場面での“そこに居る感じ”だ。浮遊する岩山に築かれた砦では、硬い岩肌の上でキズを治療し、人類との戦いにはしゃいで兄をケガさせてしまった弟を叱る父ジェイクの厳しい言葉がよく伝わる。単独でなら最強の生き物と思われるネイティリの母らしい優しさも印象的だ。

 舞台が海に移ってからの生活も実にリアルだ。ジェイク一家は海の民の一員として海の生活に慣れようとしているが、移動手段として欠かせないイルの乗り方を学ぶシーンでは、現実世界で海に身体を浮かべたときの感覚、ざぶんと海中に身体を沈めたときの気持ちが甦る。映像的にもこれがほぼすべてCGかと驚くレベルだが、何気なく周囲で聞こえる波音、海中での独特な音の伝わり方、ごぼごぼと音を立てる水中の泡などがまさに自分が体感しているようにさえ感じる。

 こうして海で泳いだのは何年ぶりだったか。そう思うほどに海に来た感覚がある。そこにクジラを模した大型生物のトゥルクンとの交流が描かれる。ドキュメンタリーフィルムで見るクジラやイルカの映像とはひと味違う生の感覚、これぞ映画のリアリティだ。

 この感覚が得られるようになってこそ、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の世界だと思うし、自分がアバターとなって衛星パンドラにいると錯覚させることがこの映画の趣旨だとわかる。そこで初めて、人類が持ち込んだ巨大な船舶やロボット群との戦い、それに反抗するナヴィたちやトゥルクンの奮闘に心が躍るようになる。これは優れたホームシアターを持つ者の特権だし、ホームシアターを磨けば磨くほど、神秘の星パンドラが近づいてくる。今後の続編も含め、『アバター』シリーズは、ホームシアターに熱中する者ならずっと真正面から取り組むべき題材だ。

 

画像7: 使い手自身の研鑽を要求するマランツの旗艦機の潜在能力は『映画のリアル』へと直結する。Marantz AVセンター「AV10+AMP10」【HiVi流『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』最高再生術】

マランツのセパレートAVセンターAV10+AMP10へのリプレイスを今年の春に行なったが、スピーカーシステム自体は、センターレス6.2.4で、以前から変わらず。AV10とAMP10のセッティングを詰める毎日だ

 

 マランツAV10+AMP10の音は、いわゆる映画館的なリッチな感触は実はあまり感じさせない。なにより使い手自身がしっかりと取り組まないときちんと鳴ってくれない。そうした難しさはあるが、ポテンシャルの高さは従来のAVセンターの枠を超えている。現在はインシュレーター交換など足元の強化を考えており、まだまだ使いこなす余地がある。仲良しどころかケンカ相手みたいな感じだが、長い付き合いになりそうである。

 

画像: 映画の世界に「居る感覚」こそAV10+AMP10の最大の魅力だ

その他のシステム
●プロジェクター:ビクターDLA-V90R
●スクリーン:オーエス ピュアマットⅢ(120インチ/16:9)
●UHDブルーレイプレーヤー:パナソニックDP-UB9000(Japan Limited)
●コントロールアンプ:ベンチマークHPA4(AV再生時はユニティゲインで使用)
●パワーアンプ:ベンチマークAHB2(L/Rスピーカー駆動用)
●スピーカーシステム:B&W Matrix 801S3(L/R/LS/RS)、Matrix 802S3(LSB/RSB)、イクリプスTD508MK3(OVERHEAD SPEAKER×4)、TD725SWMK2(LFE×2)

 

本記事の掲載は『HiVi 2023年秋号』

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