興味の尽きない芸術家、サルバドール・ダリを、おそらくかつてない角度から描いたドラマ映画が公開される。主な舞台は1974年のニューヨーク。ダリと妻のガラに気に入られた青年ジェームスの視点を中心に、物語が繰り広げられてゆく。
ジェームスがいかにしてダリ夫妻と知り合ったかは本編にガッチリ描かれているので割愛するが、なにしろダリとガラのキャラクターが超強烈なので、見ているうちに「ジェームス、大変だったろうな」と感情移入してしまうのは私だけではないはずだ。ダリはもう“晩年”、すでにエスタブリッシュメントの域になって久しく、年上妻のガラも老いが目立ち始めた。なのだがガラは、たいして才能があるとも思われないラリッた若い俳優だかシンガーソングライターだかに熱をあげていて、彼の若さを浴びることこそが生きる源であり、その売り込みにも、彼の前で着飾るのにもいろいろとカネがいるから、とにかく作品を出せばそこに高い価値が生まれる有名芸術家のダリに、圧いっぱいの態度や言動を示して絵を描かせる。
だがガラはダリにとって決して悪妻ではなく、依然としてミューズなのだ。このあたりの、第三者にはなかなか理解しがたい関係(しかも非常にセンシティヴな要素も含む)も丹念に描かれている。「1974年」といえば、ダリと同じくスペインで生まれた芸術家パブロ・ピカソ他界の翌年。この映画に描かれているダリの気持ちや行動の“揺れ”が、彼の死と関係がないとは個人的には思えない。
自分のことを「ダリ」と苗字で呼び、ふと「(天才=変わり者を)演じるつらさ」をこぼし、当時賛否両論を呼んでいたロックの旗手アリス・クーパーとも交流していたダリ。後半に登場するジェームスとダリの再会シーンでの、4コマ漫画のような展開も実にほほえましかった。ダリには『ガンジー』のオスカー俳優ベン・キングズレー、ガラには『ふたつの部屋、ふたつの暮らし』のバルバラ・スコヴァが扮し、ジェームスに扮するクリストファー・ブライニーは本作が長編映画デビュー作であるとのこと。監督は『アメリカン・サイコ』のメアリー・ハロン。
映画『ウェルカム トゥ ダリ』
9月1日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
監督:メアリー・ハロン
出演:ベン・キングズレー バルバラ・スコヴァ クリストファー・ブライニー ルパート・グレイヴス アレクサンダー・ベイヤー アンドレア・ペジック withスキ・ウォーターハウス andエズラ・ミラー
2022年/イギリス/英語/98分/カラー/ビスタ/5.1ch/字幕翻訳・渡邉貴子/PG12/
提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ
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