第6回となる「リン・サラウンド体験記」は、長野県茅野市の避暑地、蓼科にあるSさん宅を訪問した。8年前に購入したログハウスに、ヘッドユニットのAKURATE DSMを中心とした4.0chイグザクトシステムを構築されているという。蓼科と都内の二拠点生活を実践されているSさんの日々の暮らし、音楽や映画との接し方、そしてリン・サラウンドへ辿り着いた経緯などをうかがった。

 信州・八ヶ岳山麓の雄大な自然と澄んだ空気をありのままに感じることができる蓼科高原。標高1200mを超える避暑地として長い歴史を持つこの場所に、今回の目的地であるSさんのログハウスはある。広々としたウッドデッキとログ材の風合いを活かしたダークブラウンの壁面。そして外側がホワイト、内側がグリーンに塗られた窓枠が外観のアクセントになっている。まずは、Sさんがこのログハウスとどのようにして出会ったのかを聞いた。

 「初めて蓼科にセカンドハウスを持ったのは15年前で、最初の7年はRC構造の低層ヴィラタイプの物件でした。その後、縁あってこのログハウスに出会ったのが8年前。フィンランドのログハウスメーカー、ホンカによる設計で、玄関からリビング、ダイニングまでがひとつに繋がった開放的な室内空間にひと目惚れしたんです。前オーナーがドイツ人ということもあり、日本人の私の感性では建てられないログハウスだと感じました。大きな買い物ですからとても悩みましたが、気持ちの良い空間に魅せられ購入を決めました」

 

画像1: 永く純粋に、音楽に浸れる場所。避暑地のログハウスに構築されたイグザクトシステム「リン・サラウンド体験記」

フルイグザクトシステムでのサラウンド再生を体験し、すぐに導入を決めたというSさん。メインソースは音楽でBS4K放送のサラウンド作品をよく楽しまれるそうだ

S邸の主な使用機器

●ディスプレイ : LG OLED55B9PJA
●ネットワークプレーヤー+コントールアンプ : リン AKURATE DSM
●スピーカーシステム : リン EXAKT AKUDORIK(L/R)、302(LS/RS)
●4Kレコーダー : パナソニック DMR-ZR1、DMR-S100
●BDプレーヤー : オッポデジタル BDP-105D JAPAN LIMITED
●アナログプレーヤー : リン LP12 / KORE / RADIKAL-AK / AKITO / KRYSTAL / URIKAII

 

 

 現在は1年の7〜8割をここ蓼科で過ごすというSさん。当初は週末利用に限られていたが、40年近く勤めた不動産関係の会社を4年前にリタイアして以降は、コロナ禍も重なり足を運ぶ機会が自然と増え、いまでは都内の自宅に戻るのは「帰る必要のあるときだけ」だという。

 Sさん宅に使用されているポーラーパインと呼ばれるフィンランド産の無垢の松材は、硬すぎず軟らかすぎず、湿度が高い日は水分を吸収し、湿度が低い日は水分を放出する。そのため、室内の湿度は年間を通して60%前後で安定しており、真夏でも冷房がいらないほどカラッとして過ごしやすい。冬は薪ストーブひとつで室内全体を暖める必要があり、それは薪の調達や保管、薪割りを含めてなかなか骨の折れる作業だが、そういった手間も含めてSさんは蓼科での生活を楽しまれているようだ。

 また、リンを中心とする現在のAVシステムを実際に室内に設置し、音を鳴らしてみて初めて、AVとこのログハウスの相性がいいことに気づいたという。

 「ポーラーパインは、もともとオーディオと親和性の高い木材のようです。我が家のメインスピーカーであるリンEXAKT AKUDORIKは、部屋の大きさからすると小ぶりかもしれませんが、そのぶん部屋が一緒になって音楽を響かせてくれているという感覚があります。ですから不満は一切ありません」

 

少年期からクラシックを聴き始め、旅先でのホールの「響き」に目覚める

 本稿の主題であるリン・サラウンドの話に移る前に、Sさんとオーディオビジュアルの関わりについても聞いておこう。

 「音楽については、父の影響で子どもの頃からクラシック音楽を聴き始めました。中学3年生のときにロリン・マゼール指揮ベルリン放送交響楽団の演奏を千葉市民会館に聴きに行ったのが最初のコンサート体験です。とはいえ、音楽にもオーディオにもそれほど入れ込んでいたわけではありません。ただ、後年になってヨーロッパに旅行をする機会が何度かあり、その際に現地のコンサートホールを周り、それぞれのホールに特有の響きがあることを知りました。それが自分の音楽体験として大きかったと思います。映像コンテンツという意味では映画というよりも、コンサートの映像作品を観ることが多いですね」

 ヨーロッパのコンサートホールで得た音響体験が、Sさんの音楽鑑賞における価値基準を形作ったわけだが、それをオーディオで追体験しようと考えたことはなかった。当時はオーケストラの迫力や包囲感、ヴァイオリンの生々しい音色がオーディオで再現できるとは思えなかったからだ。

 「実は、随分前に一度、リンの試聴会に参加したことがありました。いま思えば不遜ですが、そのときは『デジタルっぽい音ですね』などと言って帰ってきた記憶があります(笑)。しかしその後、別のショールームで聴いた音が素晴らしかった。ヴァイオリンの音色に艶と実在感があり、これなら自宅でも納得のいく音が聴けるかもしれないと考えを改め、MAJIK DSMを導入したんです」

 手持ちのCDを片っ端からリッピングして聴くなかで、「音の粒だちや明瞭度が高く、やはりオーディオは楽しい」と思うようになったSさん。東京の自宅ではサブシステムとして同じくリンのSNEAKY DSMも導入するなど、次第にオーディオ熱が高まっていく。

 

コンパクトなスタイルながら、4ウェイ構成の4つのスピーカーを、それぞれ100Wアンプで駆動する凝ったリンのEXAKT AKUDORIK。「イグザクト」はリン独自のデジタル信号伝送からスピーカー駆動までを網羅した技術名称で、「ロスレス(情報損失のない)」の状態で、ソース機器からスピーカーまで一気通貫でダイレクトに結ぶテクノロジーだ

 

画像3: 永く純粋に、音楽に浸れる場所。避暑地のログハウスに構築されたイグザクトシステム「リン・サラウンド体験記」

Sさんのシステムのまさに頭脳となるのが、リンAKURATE DSMだ。シンプルな筐体デザインながら純正アプリにより多機能を実現。4K映像対応のHDMI入出力端子も備えて、オーディオビジュアル再生にも最適なコンポーネントだ

 

サラウンドスピーカーもイグザクト対応モデルが使われている。独特のフォルムが特徴的な、リンのアンプ内蔵スピーカー「302」を壁掛けして取り付けている。2ウェイ構成、密閉型エンクロージャーに100W×2アンプを内蔵する強力なモデルだ。この壁掛け金具は最近登場したもので、シンプルな構成ながら、水平方向の角度調整にも対応している

 

 

イグザクトシステムに大きな衝撃。明らかに従来の音とは次元が違う!

 「そうこうしているうちに、ダイナミックオーディオの柴田(学也)さんと知り合いました。あれは確か、イグザクトスピーカーにカタリストDACが搭載された時期だったと思います。柴田さんがブログに『いままでと次元が違う』と熱っぽく書いていた。だからずっと気になっていたのですが、半年か1年ほど経ったあとにそのときの展示品が販売されることを同ブログで知り、すぐに購入しました。それがこのAKURATE DSMとEXAKT AKUDORIKです」

 かくして蓼科に導入されたリンのイグザクトシステム。AKURATE DSMとEXAKT AKUDORIKで聴く2chの音は、それまでのシステムの音とは明らかに次元の異なるものだった。

 ただし、この時点ではサラウンドスピーカーに東京で使っていたB&WのPM1をあてがっており、「スピーカーが鳴っていると感じてしまうことに不満を覚えた」という。そこで柴田さんのアドバイスにより、シリーズ3スピーカー(302)を壁掛け金具を使って使用することに。イグザクトシステムの真の効力を知り、驚愕した。

 「やはり、すべてのチャンネルをイグザクト化するメリットが大きいのでしょう。サラウンドスピーカーの存在が消えて、ただ音場のなかに自分が没入しているという感覚を得ることができました。サラウンドのPM1はスピーカースタンドに置いて使用していましたが、302は壁掛けにしたことで少し高めに設置することができました。それもサラウンド感の向上に寄与しているのかもしれませんね」

 リン独自の定在波除去システム「Space Optimisation」の効果も大きいとSさんは語る。「東京からの設置の際に設定をしてくれたのですが、ビフォー&アフターではスピーカーの存在感がまるで違いました」

 イグザクトシステムの導入と同時に、Sさんはアナログレコード再生も30年ぶりに再開させた。柴田さんのブログを読むと「いかにその製品が素晴らしいかがとても熱っぽい文章で書かれているので、ついつい自分も聴きたくなってしまう」のだとか。柴田さんが絶賛するMCフォノステージ、URIKAⅡなどを搭載するLP12をリスニングポイントのすぐ左手に置き、若かりし日々の愛聴盤に針を落しては聴き返す日々だという。

 

画像6: 永く純粋に、音楽に浸れる場所。避暑地のログハウスに構築されたイグザクトシステム「リン・サラウンド体験記」

リスニングルームは天井高も高く、非常に広々とした空間だ、玄関やダイニング・キッチンなどとも空間的に分離されていないこともあり、音響面でも有利だろう。そんな陽光に溢れた暖かな空間を、「音楽」で満たすのがリン・イグザクトだ。

 

リスニングポイントの脇には、リンのアナログプレーヤーLP12をセット。フォノイコライザー回路を本体に内蔵し、「EXAKT」信号として出力できるURIKAⅡを内蔵させて、LANケーブルでAKURATE DSMと繋いでいる。オーディオ信号でもっとも微弱なアナログフォノ信号を長く引き回すのはノイズの点でタブーとされているが、EXAKT伝送ではそうした心配がない点も注目したい

 

 

「アップグレーダブルな製品企画」と「音楽的な再生」こそがリンの魅力

 パナソニックの4KレコーダーDMR-ZR1で録画したNHK BS4Kのクラシック音楽番組を再生しながら、Sさんはリン製品の魅力について語る。

 「私にとって、リン製品の魅力は大きくふたつあります。ひとつは、購入後もアップグレードを積み重ねていけるところ。それは、イグザクトシステムでもLP12でも同じです。できないことを少しずつ減らし、できることに変えていく。その姿勢がメーカーとして素晴らしいと思います。

 もうひとつは、『スピーカーを聴いている』のではなく、『音楽を聴いている』という気持ちにさせてくれるところ。オーディオ機器としての個性を押し出すのではなく、あくまでも音楽そのもののよさを引き出す。リンにはそういう製品が多いように思うんです。我々ユーザーにとっては、けっして安い買い物ではありません。だからこそ頑張って買ったモノは、できるだけ永く使い続けたいと思っています」

 今後もリン製品のアップグレードとともに、SさんのAVシステムは進化を続けるに違いない。そして「価値あるモノを、永く使いたい」というSさんの思いは、第二の人生の拠点としてこのログハウスを選んだことにも表れていると感じた。

 

 

 

本記事の掲載は『HiVi 2023年夏号』

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