野外ステージ特有のくつろぎ、今日この時点から未来に放たれてゆくサウンドの数々、幅広いオーディエンス層、体を揺らしたり踊ったり思い思いに笑顔で音に浸るひとたち。
フェスっていいなあ、とあらためて思った。そして、ネーミングに「ジャズ」という一節が含まれていることを、とてもうれしく感じる。
「至上の愛と至福の音楽体験を―」をキャッチフレーズとする野外フェスティバル「LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023」が5月13日と14日に秩父ミューズパークで開催され、2日間で8000人のファンを集めた。このフェスは2013年にイギリスで始まり、いまやヨーロッパ最大規模の野外ジャズ祭との声も高い。その日本版が、昨年に続いて行なわれたのだ。
会場は「THEATRE STAGE」(私はかつて開催されていたジャズフェス「Live Under the Sky」の後期開催場所“よみうりランド オープンシアターEAST”を思い出した)、芝生エリアの「GREEN STAGE」、さらに「DJ TENT」。どこをどう歩いても、フードエリアに行こうと、お手洗いに行こうと、どこかから良きグルーヴが聞こえてくる。
私は14日に足を運んだが、13日の出演者もとんでもなく豪華だった。ヘッドライナーには、この7月に82歳を迎えるジョージ・クリントン率いる“GEORGE CLINTON & PARLIAMENT FUNKADELIC”、つまりPファンク軍団が登場。日本の青年少年少女にファンクを大きく広めたといっても過言ではないギタリストの.ENDRECHERI.、故・菅沼孝三に師事した中学生ドラマーのCHITTAなどもゲスト参加し、まさにワン・ネイション・アンダー・ザ・グルーヴのステージを繰り広げたというし、彼らPファンク勢が年齢差と国籍を超えてファンクの快楽をぶちまけるいっぽうで、“Z世代”のデュオ・チーム、ドミ&JD・ベックも昨年リリースされて大反響を呼んだアルバム『ノット・タイト』からのナンバーを中心に、高速グルーヴでたたみかけたというではないか。「ブルーノート東京」での単独公演は即時ソールド・アウトになっただけに、彼ら見たさに当フェスに来たファンもけっこう多かったのではと思われる。
大ヒット映画『BLUE GIANT』で玉田俊二のドラム演奏を担当していた(<CV>キャラクターボイスという言葉に対して、<CS>キャラクターサウンドといえばいいのだろうか)石若駿はAnswer to Remember with HIMI / Juaで登場。ここにはまた、同映画で主人公・宮本大のサックス演奏を担当していた馬場智章も加わった。「玉田や大に扮しているのではない」彼ら自身のプレイに接して、改めてファンになった方も多々いらっしゃることだろう。
家入レオ with SOIL&”PIMP”SESSIONS、海野雅威 with Special Guest 藤原さくら、4 Aces with kiki vivi lilyなども、フェスならではの組み合わせであり、しかも家入レオ『Naked』、藤原さくら『AIRPORT』、kiki vivi lily『Blossom』の最新作3枚がどれも、分野としてはJ-POPなのだろうが、ジャズのダシがしっかりあって、聴き心地もいい。こういうスペシャルな出し物があると、見聴きする側としても、家に帰るまでの会話が弾むし、のちのちまで思い出に残るというものだ。
14日のヘッドライナーは、待ちに待ったスーパー・プロジェクト“ディナー・パーティー”。日本初上陸にして、この日が日本唯一のステージだ。ケンドリック・ラマーやトラヴィス・スコットのプロデュースでも知られるテラス・マーティン(伝説的ジャズマン、ジャッキー・マクリーンを信奉するサックス奏者でもある)、さらに現代ジャズシーンの雄であるキーボード奏者ロバート・グラスパーとサックス奏者カマシ・ワシントンがフロントを務める、豪華にも程がある顔ぶれ。私は3人のプレイに酔いしれつつ、ルート音を徹底的に省くようなアプローチに取り組んでいるかのようなベースのバーニス・トラヴィス+「ビートの細分化、ここに極まる」的に奔放に叩きまくるジャスティン・タイソンが導き出す、型にはまらない、だがグルーヴとしかいいようのない絶妙な律動に、たまらず喜びの声をあげてしまった。
二日間を通じて登場した今年のレジデンシャルバンド、SOIL&"PIMP"SESSIONSはこの日、“SKY-HI & BMSG POSSE with SOIL&"PIMP"SESSIONS”として登場。SOILの“社長”と、“社長(SKY-HI)”の共演だ。SOILの“社長”は、メンバーの良き兄貴分といったところ。共演者を暖かに盛り立て、懐の大きなトークで時に笑いを巻き起こし、オーディエンスを和ませる。SOILの生演奏に乗って歌い、踊るBMSG POSSEは本当に楽しそう。MANATOとREIKOが歌ったのは、ブラック・ミュージック界に輝くロウズ・ファミリーの末妹、デブラ・ロウズの持ち歌「ヴェリー・スペシャル」ではないか!
絶好調の馬場智章は「THEATRE STAGE」におけるPenthouse(最新アルバム『Balcony』は傑作だった)の共演のあと、自己のユニットで「GREEN STAGE」に登場。サックス奏者、コンポーザーとしての鋭い感性が爆発する圧巻のステージを繰り広げた。ラスト・ナンバー「ルーツ・オブ・ザ・ブラッド」での、未開の地を切り開くように勇壮なプレイには、『BLUE GIANT』での経験が彼に明らかにポジティヴな効果を与えたに違いない、と、ひとり確信させられてしまう力がある。
来日は二度目だが当フェスには初登場となる二人組ユニット、ブルー・ラブ・ビーツは黒田卓也、西口明宏、鈴木真海子(chelmico)らを迎えて、“反復と浮遊の快感”と呼びたくなるステージを披露。ミクスチャー色の濃いバンド・サウンドで人気を集めるBREIMEN、Kroiのライブを聴くのは初めてだったが、BREIMENで鳴り響く高木祥太の極太ベース、Kroiのステージで向かい合うように設置された益田英知のドラムと千葉大樹のキーボードの白熱したやりとりに接し、今後もライブに通いたいと思った。“推し”以外のものを見たら、それがすごく良くて、ファンになる喜び……これはワンマンでは不可能な、フェスならではの醍醐味だろう。
オープニング・アクトはジャズとJ-POPがごく自然に溶け込むデュオ“soraya”が務めたが、メンバーの壷阪健登(ピアノ)と石川紅奈(ベース、ヴォーカル)が持つセンスも本当に研ぎ澄まされている。「LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023」に来た方も来られなかった方も、「BAKU」という曲をぜひ一度、聴いてみてほしいと思うのだ。