天才とて親がいなければ生まれてこない、とはわかっていても、宮沢賢治の軌跡を本人からではなく、その父の側から描くという発想はやはり相当に斬新であり、まず私は着眼点に引きつけられた。そして見る前に――普段はまず、しないのだが――下調べしてしまった。宮沢賢治の父親はかなり裕福な家の育ちで(質屋を継いでいる)、息子が病没してからも40年以上長生きし、宗教活動にも熱心で、政治家にもなった。「あの宮沢賢治の父親」として、相当なヴァリューを誇っていたに違いない。

画像1: 宮沢賢治には、こんな父親がいた。直木賞受賞の人気小説を、豪華メンバーで映画化。『銀河鉄道の父』公開へ

 原作は門井慶喜の第158回直木賞受賞小説。父親・政次郎には、役所広司が扮する。この映画で描かれている賢治は、伝説化されたヒーローではない。不器用なまでに堅実に生きる男だ。教鞭にたち、農学に没頭し、人々とのコミュニケーションを重んじ、文学を愛し、クラシック音楽に耳を傾け、自らも楽団でチェロを弾く。生前の彼は、いわば「地方に住む、無名に近い(アマチュアの)作家」だった。東京・岩手間など、おいそれと行き来できなかったであろう時代の話である。

 が、政次郎は彼の文才を認め、支持した。挿入されるいくつものほほえましいエピソードが、しっかりした親子関係を物語る。また、賢治の妹・トシに対する心理には、「シスコン」的な愛情も感じられた。妹が他界した時、賢治の人生に対する意欲(それは病気に対する抵抗力とも無関係ではなかろう)は半ば失われたも同然だったのかもしれない。劇中に登場する賢治のオリジナル曲「星めぐりの歌」(近年は、まちだガールズ・クワイアも歌っている)における、音の並びも実に理知的で美しい。

画像2: 宮沢賢治には、こんな父親がいた。直木賞受賞の人気小説を、豪華メンバーで映画化。『銀河鉄道の父』公開へ

 コロナも落ち着いてきたらしいので、親を誘って観に行くのも一興ではないかと思う。親子間の話をはずませるにちがいない一作だ。賢治には菅田将暉、トシには森七菜が扮する。5月5日から全国公開。

映画『銀河鉄道の父』

2023年5月5日(金・祝)より全国公開
配給:キノフィルムズ
(C)2022「銀河鉄道の父」製作委員会

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