1953年のパリ・モンマルトルが舞台。抑えに抑えた色彩は、「これは本当に新作映画なのか?」と不思議になってしまうほどだ。登場する自動車、街並み、ファッションからも、その時代のそれを徹底的に追求した印象を受ける。登場人物のセリフ回しはゆるやか、タメが利いていて、動きのひとつひとつに余剰が感じられない。何十年前のどこかからすっかり消え去ってしまっていた“レス・イズ・モア”という概念をこの作品に思う。
「メグレ」という名前をきくだけでニヤリとするミステリー・ファンは、世界中にいることだろう。1929年から1972年にかけてジョルジュ・シムノンのミステリー小説で大活躍した男こそ「メグレ」警視だ。日本のアニメ「名探偵コナン」に出てくる“目暮十三”のモデルでもある。過去チャールズ・ロートン、ジャン・ギャバン、ローワン・アトキンソンなどがメグレに扮してきたが、今回はフランスを代表するベテラン俳優ジェラール・ドパルデューがこの役を担う。『モンテ・クリスト伯』、『ダントン』などを残した往年に比べるとすっかり貫禄を増し、身長180センチ、体重100キロというサイズは「原作に最も忠実」であるという。
このジェラールが渋く、深く、時にチャーミングだ。あまり、というか、ほとんど動かず、淡々と、しかし相手に鋭いツッコミを入れて、事件を解決に導く。亡くなったのは若い女性、そしてメグレも愛娘を、とあるアクシデントで失くしている……。これが物語に奥行を与え、被害者と警視の距離を近づける。監督は、これが8年ぶりの長篇作品となるパトリス・ルコント。
映画『メグレと若い女の死』
3月17日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
原作:ジョルジュ・シムノン「メグレと若い女の死」
監督:パトリス・ルコント
脚本:パトリス・ルコント、ジェローム・トネール
撮影:イヴ・アンジェロ
音楽:ブリュノ・クーレ
出演:ジェラール・ドパルデュー、ジャド・ラベスト、メラニー・ベルニエ、オーロール・クレマン、アンドレ・ウィルム
配給:アンプラグド
2022 年/フランス/ 89 分/カラー/シネスコ/5.1ch/原題:Maigret/日本語字幕:手塚雅美
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