画像: フレッシュな音が魅力。デノンが本気で作った9chアンプ内蔵AVセンターの最高峰「AVR-X4800H」について考える

はじめに デノンのAVセンターのコンセプトとは

AVセンターの名品を数々送り届けているデノン。同社は、シンプルな5.1chモデルから、13chアンプ内蔵のフラッグシップ機まで多彩なラインナップで製品を展開し、様々なニーズにフィットするモデルを用意している。

デノンのAVセンターはブランドを通して、太い幹のような明確なコンセプトが貫かれていると常々思っている。具体的には「音質が磨き上げられていること」「使い勝手がこなれていること」「最新AVフォーマットに万全に対応していること」「高い性能がいつでも安定的に発揮できること」など。これらの要素がデノン製のどのAVセンターからも色濃く感じられるが、それが「伝統のブランド」としての矜持の現れなのだろう。

AVR-X4800Hの注目ポイント1「第一級のエンジニアが開発した本気の製品」

先日発表され、店頭では本日1/27に並ぶというAVR-X4800Hの音を聴く機会があった。X4800Hは前述したデノンらしさがしっかりと感じられる期待の製品であり、なるほどと膝を打った。製品自体の詳細は、別記事で紹介されている通りではあるが、違う角度から本機のポイントについて少し紹介したい。

本機は、本原稿執筆時点でのデノンのAVセンターのラインナップで見ると、AVC-X8500HAAVC-X6700Hに続く、上から3番目の製品となる。

ただし、デノンからは、昨年の東京インターナショナルオーディオショウでサプライズでお披露目され、海外では発表済となっているフラッグシップグレードのAVセンターAVC-A1Hが、そう遠くないタイミングで国内でも登場する見込み。ということでX4800Hは、この最上位のAVC-A1Hを含めて考えると、上から4番目のグレードの製品になるはずだが、開発自体はエース級のスタッフが中心になったのだそう。具体的には、かつての名機A1を開発した、凄腕エンジニアたちが開発を受け持っているとのことだ。

つまり本機は、デノンのAVセンターの中で上から4番目のラインナップ、すなわち同社にとっては「ミドルクラス」の製品でありながらも、開発体制そのものは、本気のものとして取り組まれており、相当な意気込みで開発された製品なのである。これはデノンのように、AVセンターという製品ジャンルを専任で受け持つエンジニアたちが組織的に構築されていなければできない芸当だろう。

デノンでは白河工場(正式には白河オーディオワークス)でHiFi系製品のほかに、高級グレードのAVセンターの生産を行なっている。X4800Hの前衛機AVC-X4700Hでは白河生産ではなく海外生産だったが、日本生産のメリットが出てきた昨今の状況も鑑み、本機は白河工場で生産される。

実はデノンのAVセンター開発の拠点は白河工場内にあって、生産現場と一体になっての品質向上体制が設計段階から有機的に構築されている。AVセンターの開発と生産を一体に行なっていることは世界的にみても稀なはずだ。デノンがことあるごとに「白河生産」とか「ジャパン・イン・白河」と喧伝しているのは、そうした背景があるからである。

画像: AVR-X4800Hは、白河工場で「1台1台心を込めて生産されております」とのことだ

AVR-X4800Hは、白河工場で「1台1台心を込めて生産されております」とのことだ

画像: サイズは従来モデルAVC-X4700Hと同等だ

サイズは従来モデルAVC-X4700Hと同等だ

AVR-X4800Hの注目ポイント2「最新かつ最高峰のデジタルデコード回路を搭載」

X4800Hは、投入されている技術的なこだわりも凄い。一体型AVセンターは、「サラウンドプロセッサー/プリアンプ」と「パワーアンプ」の大きく2要素が融合しているコンポーネントだが、それぞれに新しい発想の試みがなされている。

「サラウンドプロセッサー/プリアンプ」部分では、最新世代デコーダーとチップセット、さらに最先端の設計手法が盛り込まれている。具体的にはAVコンテンツから受け渡されたビットストリーム信号を解凍(デコード)するDSP(デジタル・シグナル・プロセッサー)と呼ばれる<AVセンターの頭脳>に、デノンが「最新・最高グレード品」と考えているアナログ・デバイセズ製SHARCチップの最新世代「Griffin Lite XP」というデバイスを用いている。

これらの回路の基本は、前述した今年登場予定のデノン製最高峰AVC-A1Hに搭載することを前提に開発されたものだそうだが、それを大いに活用して搭載しているかたちだ。その意味では相当にハイスペックなデバイスが使われている強力な回路構成であり、お得感が高い。

余談ながら、昨2022年に発売されたAVR-X3800Hも同じDSPが使われおり、価格を考えるとX3800Hはさらにお得に思える。DSP周りの開発をまとめて行なったほうが効率的だった、という事情も透けてみえるが、だからといってX4800H(とX3800H)の魅力が減じるわけでもなかろう。

画像: 銀色の四角いデバイスがアナログ・デバイセズ製SHARCチップの最新世代「Griffin Lite XP」

銀色の四角いデバイスがアナログ・デバイセズ製SHARCチップの最新世代「Griffin Lite XP」

AVR-X4800Hの注目ポイント3「高度なパワーアンプ回路を採用」

「パワーアンプ」に関しては、上位モデルであるAVC-X8500H/HAやAVC-X6700Hで採用されている個別アンプ基板を多数搭載する、という手法に注目したい。

全チャンネル同一パワー/同一クォリティというのがデノンAVセンターの長らくのポリシーだが、X8500H/HAにおいては、パワーアンプの基板を1chに分離させ、それを13個組み込むという「モノリス・コンストラクション・パワーアンプ・レイアウト」という設計手法を採用している。X6700Hでも同様の構造が採用され、こちらは11chアンプを搭載している。

X4800Hの前衛機のAVC-X4700Hでは、5chと4ch分に基板を分けてパワーアンプを構成し、本体に搭載していた。X4800Hでは、上位機と同じ発想の個別アンプ基板を複数搭載する手法に変更された。この9chアンプ仕様の「モノリス・コンストラクション・パワーアンプ・レイアウト」を採用したのが本機のアンプとしてのポイントである。

サラウンド再生では、チャンネル/スピーカーごとの音のつながりがなによりも重要だが、それをAVセンターの駆動面で支えるアンプの品質要素として「同一クォリティ/同一パワー」をデノンでは重視している。そのAVセンターの基本動作がより高度になったわけである。まぁアンプ回路を個別化すればよい、という単純な話ではないとは思うが、個別化したほうがチャンネルごとの相互干渉などの点では有利になるのはやはり当然のことではある。

画像: 「モノリス・コンストラクション・パワーアンプ・レイアウト」。アンプ基板がチャンネルごとに分離され、9枚がヒートシンクに固定されている

「モノリス・コンストラクション・パワーアンプ・レイアウト」。アンプ基板がチャンネルごとに分離され、9枚がヒートシンクに固定されている

AVR-X4800Hの音は?

本機のポイントを上記3点に絞って述べてきたが、実際の音はどうだろうか。デノンの視聴室で開催された本機の説明会でBowers &Wlikinsの700S3シリーズを用いて5.3.4構成での音を聴かせてもらった際の印象を少し述べたい。

まず2ch再生での旧モデル(AVC-X4700H)との比較だ。女性ジャズ・ヴォーカルのマルチトラック録音作品のCDをDCD-1700NE(こちらも注目の新製品だ)でRCAアンバランス接続で鳴らすと、旧モデルが聴かせる「低音をしっかり描き出し、太い幹が根を張ったような音」はそれはそれでとても魅力的だった。いっぽうのX4800Hは基本的な情報量が豊富ですっきりと伸び切った鮮明な音という違いがあり興味深い。いずれにしても、9chものアンプを内蔵したAVセンターとしては立派な音、としかいいようがなく、方向性が異なるが両機種ともにいい音であることは違いない。それでも強いていえば、X4800Hのもぎたてのフレッシュさというべき感触が印象に残った。一般的にはX4700Hよりもオーディオ的な特性に優れた音である、ともいえよう。

サラウンド再生では、このオーディオ的な特性に優れた音という印象がさらに強く感じられたのが面白い。ドルビーアトモス音声を収録した最新のアクション映画やSF映画の音を聴くと、広大な音場の中に、実在感のある音像がクリアーに定位し、最新映画の緻密なサウンドデザインがしっかりと感じられた。なるほどこれが最新世代のデコーダーの威力かと思った次第。

加えてオーバーヘッドスピーカーを含む9本ものスピーカーをたった1台のAVセンターでがっちりとグリップするように見事に鳴らした点も素晴らしいと思った。その要因が「パワーアンプ基板のチャンネルごとの個別化が寄与している」とは断言できないが、スピーカーをあっけらかんと鳴らす、そのタッチは、X4700Hとはちょっと異なる様子だった。そこに関してはX4800Hは、AVC-X8500HAと似た音のテイストも感じられ、ことさら駆動力の点で、X4700Hからの進化は大きいとも思った。

画像: デノン視聴室で音を体験した。写真上段左がAVR-X4800H、右がAVC-X4700H、下段左がDCD-1700NE(SACD/CDプレーヤー)、右がAVコンテンツ再生用に使ったパナソニックのDMR-ZR1(4Kレコーダー)

デノン視聴室で音を体験した。写真上段左がAVR-X4800H、右がAVC-X4700H、下段左がDCD-1700NE(SACD/CDプレーヤー)、右がAVコンテンツ再生用に使ったパナソニックのDMR-ZR1(4Kレコーダー)

結論 どんな方がAVR-X4800Hに最適なのか

では、本機はどんな人にフィットするのだろうか。まず、9chアンプ内蔵一体型AVセンターとして、「5.1.4構成のサラウンドシステムをシンプルに鳴らす最高峰モデル」を求める人に最適だ。

それに加えて、11.4chプロセッシング対応AVセンターとして「7.1.4構成のサラウンドシステムを使って、フロントL/Rスピーカーを外部パワーアンプで鳴らしつつ、それ以外のスピーカーはAVセンターで鳴らしたい」という向きにもマッチしそう。このようにしてシステムを組むと、内蔵している9chの全アンプ回路を使い切りつつ、信号プロセッシングもフルに使え、しかもオーディオシステムとの連携もスムーズに図れることができる。AVセンターを無駄なく使い切ることができれば精神的にも気持ちいいのではないかと思う。

X4800Hの下位モデルであるAVR-X3800Hも9chアンプ内蔵機であり、その意味ではX4800Hとどちらを選ぶは悩ましい。そこではやはり音質面の違いが鍵となろう。X3800Hは、この価格帯のAVセンターとしては傑出した音のグレード感があって、個人的には強くおすすめしたい製品だと思うが、X4800Hの駆動力の高さには残念ながら及ばない。AVセンターは短期間で製品をどんどん買い換えるというスタイルの人もいると思うが、そうした人には値ごろ感が異様に高いX3800Hが最適であり、X4800Hはある程度価格は高くともしっかりとしたグレードの製品を導入したうえで、じっくりと腰を据えて製品を愛用する、というスタイルにふさわしい。

これだけパフォーマンスと機能が高まってくると、X4800Hと価格が近い上位のAVC-X6700Hの存在意義が薄れてくるようにも思えてくるが、さにあらず。X6700Hは、11chアンプ内蔵ということを活かして、5.1.6構成のサラウンドシステムを1台で鳴らしたり、13.2chプロセッシング対応モデルとして7.1.6構成のサラウンドシステムを外部パワーアンプと併用して鳴らす、という上級のホームシアター構築を指向する方にぴったりである。

ただし、デコーダーなどデジタル信号処理回路の世代については、弟機のX4800Hがリードしている点には留意したい。機能面でも8K入力対応HDMIの端子数やサブウーファーの3個以上の複数遣いなどはX4800Hに明確なアドバンテージがある。こうした機能に注目している方、あるいは必要な人で、9chアンプ構成で用が足りるのであれば、最新のX4800Hを積極的に選ぶべきだろう。

蛇足だが、予算が豊富にある方で、最新/最高の一体型AVセンターがほしい、という向きは、もうしばらく待つのが吉かもしれない。AVC-A1Hの姿を詳しく紹介できる日もそう遠くない(?)はずだ。

(取材・文:HiVi編集部/辻潔)

画像: 背面右上に、コンポジットと色差コンポーネントのアナログ映像入力端子も搭載。アナログ映像をデジタル映像に変換出力できる点にも注目したい。貴重なレーザーディスクやビデオテープの再生も安心だ

背面右上に、コンポジットと色差コンポーネントのアナログ映像入力端子も搭載。アナログ映像をデジタル映像に変換出力できる点にも注目したい。貴重なレーザーディスクやビデオテープの再生も安心だ

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