つい先ほどまで自分のそばにいたひとが、突然消えてしまった。それが血を分けた自分の子どもだった場合、悲哀はどれほどのものか。

 身代金目的の誘拐が、メキシコの一部ではビジネスになっているという。犯罪組織が巧妙かつ、ずるがしこく、事を遂行し、警察に助けを求めたところでどうにもならない。裏でガッチリ手を結んでいるからだ。日本で身代金誘拐といえば、昭和の時代はさておき今では少なくとも銀行強盗と並ぶ「すたれた犯罪」である。が、メキシコの一部ではいまだにヴィヴィッドなのだという。2020年に826件の誘拐事件が報告されたそうだが、これは氷山の一角に違いない。

 監督のテオドラ・アナ・ミハイは、ルーマニア生まれでベルギーを拠点に活動する気鋭。これが劇映画デビュー作になるそうだ。ずいぶん重厚なテーマを求めたものだと思うが、これをサポートしたのが『4ヶ月、3週と日』でカンヌ映画祭パルムドールを獲ったルーマニアのクリスティアン・ムンジウ監督、『或る終焉』等を手がけたメキシコのミシェル・フランコ監督たち。

 実話をベースにした物語展開には、傷口に塩をすりこまれるような“痛さ”がある。いい人もいればそうでないひともいる、金で動くひともいればそうでないひともいる、ずるいやつもいればそうでないひともいる。だが、小手先でうまくしのごうとする人間は、立場がどんなものであっても醜い。そんな当たり前のことを、ハラハラの連続する物語展開の中で痛感させてくれる。

 ふたたび母娘が一緒に暮らせるときは来るのか。娘は母と同居していた頃から彼女に好意「だけを」持っていたのか。心の中に浮かぶいろんなクエスチョンと照らし合わせながら、筆者は約2時間、流れの中にいた。第74回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で勇気賞、第34回東京国際映画祭で審査委員特別賞に輝く本作は1月20日から東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、東京・シネマカリテほかで全国上映。

映画『母の聖戦』

1月20日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー

出演:アルセリア・ラミレス、アルバロ・ゲレロ、アジェレン・ムソ、ホルヘ・A・ヒメネス
監督:テオドラ・アナ・ミハイ
製作:ハンス・エヴァラエル
共同製作:ダルデンヌ兄弟、クリスティアン・ムンジウ、ミシェル・フランコ
字幕翻訳:渡部美貴
配給:ハーク
配給協力:FLICKK
宣伝:ポイント・セット
2021年/ベルギー・ルーマニア・メキシコ合作/135分/カラー/スペイン語/5.1chデジタル/ビスタサイズ 映倫G
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