今週末(1月13日、金)に公開される『モリコーネ 映画が恋した音楽家』は、数々の名曲を生み出した映画音楽のマエストロ、エンリオ・モリコーネのドキュメンタリーだ。これまでほとんど語られることのなかった彼の生い立ちから、名曲誕生のいきさつ、さらには多くの映画関係者のコメントがちりばめられ、ジュゼッペ・トルナトーレが監督を務めたことも話題となっている。今回は、モリコーネの楽曲を愛する潮 晴男さんに本作をご紹介いただく。(StereoSound ONLINE編集部)

画像1: 『モリコーネ 映画が恋した音楽家』は、天才マエストロの苦悩と創造性に迫った力作だ。本作を観終えて、もう一度エンリオ・モリコーネが携わってきた映画を観(聴き)直したくなった

 エンニオ・モリコーネの半生を描いたドキュメンタリー映画である。この作品は二人のプロデューサーが企画し、『ニュー・シネマ・パラダイス』の監督でもあるジュゼッペ・トルナトーレが5年の歳月をかけ完成させた。

 モリコーネは生前、トルナトーレが撮るならという条件を出し、トルナトーレは二人のプロデューサーにモリコーネが携わった映画のシーンを自由に使えるようにしてほしいと伝えたという。ドキュメンタリー映画は作品の使用承諾を取ることが難しく、写真やアニメで代用するケースも多いが、それでは本質に迫れないというトルナトーレの意向を受けて、本作はすべての映像がオリジナルという点にも驚かされた。

 作品は、ミュージシャンや作曲家、そして映画監督がモリコーネの人なりを話すところから始まる。登場人物の詳細には触れないが、それにしてもインタビューに応じた顔ぶれの凄いこと。またモリコーネ本人がこれだけ出演して語っていることも貴重だ。それだけトルナトーレに全幅の信頼を寄せていることがよくわかる。

画像2: 『モリコーネ 映画が恋した音楽家』は、天才マエストロの苦悩と創造性に迫った力作だ。本作を観終えて、もう一度エンリオ・モリコーネが携わってきた映画を観(聴き)直したくなった

 モリコーネはこの作品の編集作業中、2020年7月6日に亡くなっているが、トルナトーレは彼が今も生きて元気に作曲しているように見せたかったという。実際にモリコーネの語り口を観ているとそうした思いが伝わってくるし、多面的に、そしてモリコーネの内面にまで迫った作品に仕上がっているのでファンにも多くの発見があると思う。

 さて、僕がモリコーネの名前を知ったのは『荒野の用心棒』や『夕陽のガンマン』のテーマだった。映画を観れば監督や主演俳優の名前を真っ先に覚えるのだが、この時ばかりはクリント・イーストウッドでもセルジオ・レオーネでもなく、エンニオ・モリコーネという作曲家の名前が、まず記憶に残った。

 マカロニ・ウエスタンという和製英語で語られるこれらの映画は、低予算だったこともあり、テクニスコープで撮られている(テクニスコープについてはこちらの記事を参照 → https://online.stereosound.co.jp/_ct/17556190 )。そのため画質は荒かったが、一方で斬新な音楽と独得のメロディが頭に残り、サントラ盤レコードを買いに走ったことを覚えている。本作の中で、モリコーネに影響を受けたというブルース・スプリングスティーンも同じことを話しているのにはちょっとびっくりした。

画像3: 『モリコーネ 映画が恋した音楽家』は、天才マエストロの苦悩と創造性に迫った力作だ。本作を観終えて、もう一度エンリオ・モリコーネが携わってきた映画を観(聴き)直したくなった

 今回の試写を観て、映画音楽の巨匠にも様々な経緯があったことがよくわかった。というよりそうした部分がていねいに、しかも正確に描かれている。父親がトランペット奏者だったこともあり、音楽学校に入学した後、病に倒れた父に代わって生計を支える。やがて作曲家としてデビューするが、映画音楽に携わる前のモリコーネがイタリアン・ポップスの作編曲を手がけていたことを本作で知った。個人的には、ジャンニ・モランディが歌ってヒットした「貴方にひざまずいて」(1964年)に関する下りもなかなかに興味深いものがあった。

 物語が時系列で進んでいく中で、モリコーネが師と仰ぐゴッフレード・ペトラッシが登場する。現代音楽の作曲家になりたかったモリコーネは、彼から反芸術的と呼ばれる映画音楽の道に進むことで苦悩し、劣等感を抱くことになる。60年代から70年代にかけてはコマーシャリズムに載ることを潔しとしない風潮があったことは確かだが、逆にモリコーネに嫉妬したイタリアの作曲家達がその才能を認めたくなかったことも、本作では描かれている。

画像4: 『モリコーネ 映画が恋した音楽家』は、天才マエストロの苦悩と創造性に迫った力作だ。本作を観終えて、もう一度エンリオ・モリコーネが携わってきた映画を観(聴き)直したくなった

 そういった経緯もあり、モリコーネは映画音楽から離れたいという葛藤と闘ってきたようだ。おそらく、アカデミー賞に何度もノミネートされながら6度目にしてようやく作曲賞を受賞したという苦難の道のりとも関係があったのかもしれない(名誉賞は除く)。そうした壁を乗り越えたからこそ “絶対音楽” と “映画音楽” が収斂してきたともモリコーネは最後に解き明かす。

 それにしてもモリコーネは本作の中で、作曲や編曲についての彼の流儀を、これでもかというほどこと細かく語っている。ここも本作の見どころだ。効果音まで指定したり、壮大なコーラスを用いる点も音のマジシャンと呼ぶにふさわしい。

 映像はドユメンタリー作品には珍しくシネスコサイズで撮られているし、オーケストラの演奏シーンでは臨場感の豊かな音作りにすることで、心に残る音楽を生み出した才気あふれる音楽家の姿が描き出されている。本作を観終えて、もう一度エンリオ・モリコーネが携わってきた映画を観(聴き)直したくなった。劇場に足を運べばきっと、この気持ちを理解してもらえると思う。

『モリコーネ 映画が恋した音楽家』

画像5: 『モリコーネ 映画が恋した音楽家』は、天才マエストロの苦悩と創造性に迫った力作だ。本作を観終えて、もう一度エンリオ・モリコーネが携わってきた映画を観(聴き)直したくなった

●監督:ジュゼッペ・トルナトーレ『ニュー・シネマ・パラダイス』『海の上のピアニスト』●原題:Ennio●157分●イタリア●カラー●シネスコ●5.1chデジタル●字幕翻訳:松浦美奈●字幕監修:前島秀国
<出演>エンニオ・モリコーネ、クリント・イーストウッド、クエンティン・タランティーノほか
※2023年1月13日(金)TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか 全国順次ロードショー
©2021 Piano bproduzioni, gaga, potemkino, terras

画像: 映画『モリコーネ 映画が恋した音楽家』本予告 1.13 Fri 公開 【公式】 youtu.be

映画『モリコーネ 映画が恋した音楽家』本予告 1.13 Fri 公開 【公式】

youtu.be

This article is a sponsored article by
''.