去る2020年7月、世界は類稀なる存在を失った。エンニオ・モリコーネ、享年91歳。500作品以上の映画とTVの音楽を手掛けた。アカデミー賞には6度ノミネートされ『ヘイトフル・エイト』で受賞。全功績を称える名誉賞にも輝いた。そんな伝説のマエストロに、弟子であり友でもあるジュゼッペ・トルナトーレ監督(『ニュー・シネマ・パラダイス』)が密着、結果的に生前の姿を捉える最後の作品となったドキュメンタリー映画『モリコーネ映画が恋した音楽家』が2023年1月13日より日本公開。

 「ジュゼッペ以外はダメだ」とモリコーネ自らが指名したトルナトーレ監督の前だからこそ半生を赤裸々に回想、かつては映画音楽の芸術的地位が低かったため、幾度もやめようとしたという衝撃の事実を告白。いかにして誇りを手にしたかが数多の傑作の名場面やワールドコンサートツアーの演奏と共に紐解かれていく。

 さらに70人以上の著名人のインタビューによって巨匠の仕事術の秘密が明かされる。そのメロディを聴くだけで、あの日あの映画に胸を高鳴らせ涙した瞬間が蘇る。同じ時代を生きた私たちの人生を豊かに彩ってくれたマエストロに感謝を捧げる、愛と幸福に満ちた音楽ドキュメンタリー。

 このたび今期のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」をはじめ、『噓八百』シリーズ『検察側の罪人』『そして、バトンは渡された』など数々の映画音楽を手掛けている富貴晴美と、本作の字幕監修を担当のサウンド&ビジュアルライター前島秀国によるより深く、より広く、“モリコーネ”“映画音楽”の魅力を知る貴重なトークイベントが開催された。
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 現在放映中の連続テレビ小説「舞い上がれ!」のほか、ヒットシリーズの劇場映画『嘘八百なにわ夢の陣』(2023-1/6公開)を担当するなど、モリコーネと同じく、テレビや映画で大活躍中であり、過去、NHKの大河ドラマの音楽を担当したという共通点もあるモリコーネ(「MUSASHI」)と富貴晴美(「西郷どん」)。本作について「素晴らしすぎて<トルナトーレ監督の最高傑作になっているんじゃないか>」「ドキュメンタリーって色々あると思うんですけど、ここまで素晴らしい、一体どれだけのフィルムを回したんだろうっていう風に思いました。映画としても素晴らしいので、もう多くの人に観ていただきたいなと思います」と大絶賛!

 自身のモリコーネとの出会いが「小学生の時に観た『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(84)」だったと言う富貴は「『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(84)を聴いて映画音楽の作曲家になろうと思ったっていう人がたくさんいるはず」という前島の意見にも賛同、同作劇中に流れる<デボラのテーマ>を例に挙げ「映画を1本観終わったら<その世界>にしかいなかった自分が<あの世界>にいるような感じがして、すぐさまピアノでそのメロディーをずっと弾いて、それが最初の出会いでしたね」「永遠にモリコーネの珠玉の1曲みたいに、本当に思います」と振り返る。

 続いて、自身の「好きな作品であり、一番モリコーネらしい作品」という『ミッション』について、「聞いてるとドキドキしますし、モリコーネさんが、自分が代表作っていうか、自信があるって言ってるのもすごく頷ける作品だなって」と明かす。

 同作は、ルネサンスからバロックにかけての音楽と現代音楽の前衛的なかけ離れた音楽2つが融合した楽曲が特徴的だが、通常「前衛的な音楽、現代音楽になると、乾いた音楽が多くて、メロディックではない」。しかし「モリコーネさんは、前衛的なものと豊かなメロディー、彼しか書けないメロディが異質に感じないというか、それがすごい組み合わさっている」「現代音楽だけで言うと<泣ける>とか<心に沁みる>とか、映画音楽でもいろんな作曲家がそういう風にやっていると思うんですけれど、そこの域まで達してない」「だからエンニオ・モリコーネという人が素晴らしいと言われているのは、高次元のところで融合してるだけでなく、そこからその音楽を聞いて、涙が出る。あったかい気持ちになるっていう、心に訴えかけるメロディを書ける。そこが素晴らしいと思いますね」とその魅力を熱く語り、前島も「今の言い方で言うと<エモい>、つまり<エモーショナル>を部分っていうのを、絶対に忘れてない」と、一見矛盾したこの2つの要素を映画音楽の中で1つにしてしまうモリコーネの凄さを解説した。

 劇中でのモリコーネと同じく、ドラマや映画などの商業的な音楽と、芸術的な音楽を書くときの葛藤についてのシーンも共感したという富貴。自身も「ドラマとか映画の音楽を作る時の頭と、現代音楽を書く時の頭って、全然違う風に考えて、頭を切り替えて作曲している」「モリコーネさんは同じ舞台の上に2つをうまく組み合わせているっていうのは、すごい! 真似したいけど、なかなか難しいなっていう風に思う」と感嘆。しかし「多分、最後まで彼はずっと葛藤し続けていたんだろうな、っていうのはわかる」。同じ作曲家としての苦悩を重ね合わせた上で、しかし動物の鳴き声を作曲の一部として採用するという、現代音楽があったからこそ生まれたモリコーネ独特の表現である『続・夕陽のガンマン』での有名な<コヨーテの遠吠え>などを例をあげ「現代音楽があるから、彼はいろんなところの引き出しが増えて、それで彼の世界が出来上がっているっていう風に思ってます」。「映画音楽も<現代音楽>が彼から無かったとしたら、もしかしたら、映画音楽作曲家として、そこまで大成していなかったかもしれない、っていう風に私は思っていて。やっぱり2つの要素、2つの顔を持つことで、新しいステージに行けたんじゃないかな、っていう風に思っています」とその魅力を語った。

 富貴自身がNHK大河ドラマ「西郷どん」(18)で作曲を担当していたという縁もあり、モリコーネが音楽を手がけたNHK大河ドラマ「MUSASHI」(03)にも言及。「彼の全てが詰まっているようなサウンドトラックだな、っていう風に思っています」と言い、前島も「メインテーマもね。トラペットで主題を出して、もう、トランペットはもう、そういう意味でも今日の映画ご覧になってわかるように、モリコーネの1番得意な楽器ですよね。<ここぞ>っていう時に使う」「もう必殺技ですよね。トランペットはね、本当に真正面から勝負をかけてるっていう」「ある意味で西洋のヒーロードラマと全く同じスタンスで、すごかった」と、振り返った。

 劇中「作曲したら、まず奥さんに曲を聞かせる」「お父さんや師からその受けた、教えとか、愛情とか、そういうものをひじょうに大切にして生きてる」など、溢れ出るモリコーネの温かかった人柄のシーンの話題にも触れながら、富貴が“同じ作曲家として思わず笑ってしまった”シーンとして、モリコーネが『アンタッチャブル』(87)への作曲リストをブライアン・デ・パルマ監督に提案した際、絶対に採用して欲しく無いが“一応の候補”としてリストの最後に入れておいた楽曲が採用されてしまい、ショックを受けた、と明かす箇所に言及。富貴自身も「デモで6曲を書いて(一応面白いからリストに入れるけど)『最後の6番目を採用するのはやめてね』って言ったのに」「なぜか6番目が採用されてしまう」“作曲家あるある”を明かし「こんな大巨匠になっても同じことをやっているんだなって、思わず笑ってしまった」と言い、前島も「洋の東西、この業界は同じということですね」と笑った。

 最後、トークに聞き入っていた満席の客席に向かって、富貴の「本当に傑作だと思っていて、映画音楽仲間だけじゃなく、一般の人たちにいっぱい宣伝したいなと思うので、ぜひ皆さんもいっぱい宣伝してください」という熱い言葉でイベントは締めくくられた。

<本作に登場する著名人・名作>
★著名人★ クリント・イーストウッド、クエンティン・タランティーノ、ウォン・カーウァイ、オリバー・ストーン、ベルナルド・ベルトルッチ等の監督、ハンス・ジマー、ブルース・スプリングスティーン、ジョン・ウィリアムズ、ジェイムズ・ヘッドフィールド、クインシー・ジョーンズなどのアーティスト他

★名作★『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』『天国の日々』『アンタッチャブル』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』『ニュー・シネマ・パラダイス』『ミッション』『1900年』『革命前夜』『殺しが静かにやって来る』『Uターン』『海の上のピアニスト』『ヘイトフル・エイト』など

映画『モリコーネ 映画が恋した音楽家』

2023年1月13日(金)より全国順次ロードショー

■監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
■出演:エンニオ・モリコーネ、クリント・イーストウッド、クエンティン・タランティーノ、ベルナルド・ベルトルッチ、ウォン・カーウァイ、ハンス・ジマー、ほか
原題:Ennio/157分/イタリア/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/字幕翻訳:松浦美奈 字幕監修:前島秀国/配給ギャガ
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