【再生システム研究】テレビからの発展。シンプル5.1ch再生で大感動を実現
『トップガン マーヴェリック』の豪華絢爛な音響は入門的なシステムで、どこまで再現できるか。再生するはチャプター12から13。蛇行する狭い峡谷の底、谷間中心の地下ウラン濃縮プラントを破壊するオペレーション。レーダーに捕捉されないよう峡谷に300フィートの低高度、高速度で侵入するが、プラントの前には高い山が立ち塞がり、背面飛行で飛び超えなければならない。設定した2分15秒以内にたとえ攻撃に成功しても、地対空ミサイルSAMが直ぐに襲ってくる、GPSも効かない……というまさにミッション・インポッシブル。
この場面には本作の音響のエッセンスが凝縮されている。効果音(Sound Effect)は戦闘機の飛行音、ミサイル発射音、爆発音、さらにSAMを誤爆発させるフレアの破裂音……と、たいへん豊富。ダイアローグ(台詞、Dialogue)も、戦闘中に「僕に任せろ」、「6時方向」、「回避した」、「防御中」、「フレアなし!」「ダメだ追ってくる!」……と現状報告から危機の叫びまで多彩。音楽(Music)も、緊迫シーンをエモーショナルに盛り上げる。「DMS」が大活躍なのだ。チャプター12と13を「シンプルな5.1ch」で、どこまで追求できるだろうか。
ここでは最近のベストバイで高評価を得ているイクリプスTD307MK3を選び様々なパターンでの再生を試す。TD307MK3は、正確な波形再生に基づいたHi-Fi性、点音源のシングルコーンによるつながりの良さ、正確な音場再生が美質だ。
ECLIPSE
TD307THMK3
¥280,500(セット)税込
[TD307MK3]
●型式:フルレンジ1スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:65mmコーン型フルレンジ
●出力音圧レベル:80dB/W/m
●インピーダンス:8Ω
●寸法/質量:W135×H212×D184mm/2kg
●カラリング:ブラック、ホワイト
[TD316SWMK2]
●型式:アンプ内蔵サブウーファー・密閉型
●使用ユニット:160mmコーン型ウーファー×2
●アンプ出力:125W
●接続端子:LFE入力1系統(RCA)、スピーカー入力1系統、スピーカー出力1系統
●寸法/質量:W399×H360×D384mm/約23kg
●問合せ先:(株)デンソーテンTEL. 0120(02)7755
接続❶ テレビ単体で『マーヴェリック』再生
まずテレビ自体の音を聴く(接続❶)。レグザ48X9400Sは小さなフルレンジスピーカー4個(12W)+トゥイーター2個(12W)を搭載。フツーのテレビの音で、低域と高域が乏しく、中域のみ。質感がたいへん薄く、金属的で耳に痛い。プレシャスな本作品を愉しむには、まったく力不足だ。
接続❶ 48X9400Sのサウンドシステムで再生
まずレグザ48X9400Sのスピーカーシステムで再生した。「レグザパワーオーディオX-PROⅡ」というサウンド・システムが搭載されているが、『マーヴェリック』の強烈音響には少々荷が重かったようだ
接続❷ テレビ内蔵アンプで2ch再生
でも、ちょっと待て。X9400Sシリーズには、外部スピーカー端子が2ch分あるので、そこにTD307MK3をつないだらどうか(接続❷)。結果は大成功! まったく違うではないか。レンジ感が拡がり、音像がクリアーに立ち、輪郭もしっかりと感じられる。格段に違うのが音場。内蔵スピーカーでは、そもそも音像移動はまったくもって不明瞭だが、外部スピーカーなのだから、適度な幅をもたせて左右スピーカーを置けば(この場合は約2.5m)、2チャンネルながら音場面積は桁違いに拡大された。何しろ高性能なTD307MK3なのだから、音場の緻密さ、音像の彫塑感は圧倒的に違う。ダイアローグが明瞭になり、効果音のイメージも明確。テレビスピーカーではまったく不明だったミサイルの軌跡も、ビジュアル化され「見えた」。音場系だけでなく、音質ももちろん、TD307MK3は格段に良い。伸びがクリアーで、DMSのクォリティが別格的に上がった。
接続❷ 48X9400Sのスピーカー出力活用その1(2ch再生)
次に48X9400Sに備わる外部スピーカー出力機能を活用してみた。専用のアンプ回路を内蔵しており、使い勝手に優れたサウンド向上方法として注目されていた機能だ。2chスピーカーとスピーカーケーブルがあればOKだ
接続❸ サブウーファーを追加した2.1ch再生
ここまでクォリティアップしたなら、欲が出てきた。サブウーファー、イクリプスTD316SWMK2を加えてはどうか。LEFではなく、低音増強機器として、だ。テレビからの信号をスピーカーケーブルでサブウーファーに接続し、左右のメインスピーカーにローパス・フィルターで切った80Hz以上を出力する(接続❸)。サブウーファーのボリュウムは11時に設定。おお、さらに向上した。ミサイルの発射音、爆発音、戦闘機の飛翔音などの効果音に収載されている低音はたいへん豊かで、キレがシャープになり、サブウーファー追加の効果は驚くほどだ。もともとテレビ内蔵アンプは、それなりのものだが(接続❷の通りメリットは大きいが)、接続❸では低音領域がサブウーファー内部の強力なアンプで駆動されるので、低音自体に加え、左右のスピーカーの音にも良い影響を与える。低域の質や量の格段の向上に加え、全帯域での音質向上と臨場感の増加が確認できた。
接続❸ 48X9400Sのスピーカー出力活用その2(2.1ch再生)
さらに48X9400Sの外部スピーカー出力機能を活かし、イクリプスのサブウーファーTD316SWMK2にスピーカーケーブルでつなぎ、80Hz以上の帯域を出力する設定で、TD307MK3を鳴らしてみた
接続❹ デノンX580BTで2ch再生
でも価格を考えると、各スピーカーとサブウーファーを合わせ、約20万円となる。ここまで掛けるなら、テレビ内蔵アンプではなく、単品のAVセンターをあてがうべきではないか。でも出来る限り、ローコストで本作を愉しみたい。そんなニーズに最適なアンプがデノンのAVR-X580BTだ。価格に比して、驚くほどの高水準の音を聴かせてくれる傑作機として選択した(接続❹)。まずはX580BTでTD307MK3を2ch再生。左右のスピーカー間隔は2.5mだ。
当然と言えば当然だが、格段なる向上が得られた。音質は、非常に細かい部分まで階調が与えられ、微小信号の再現も上等。レンジが広く、解像感やレスポンス感も目立って高い。つまりX580BTはTD307MK3の高性能を、余すところなく引き出したというわけだ。その結果、効果音とダイアローグ、それに音楽が重なるシーンで、それらの重奏のレイヤー構造が明確に分かり、さらにそれぞれの要素がたいへん明瞭に再生され、音像がクリアーに立つ。ミサイル、戦闘機の飛翔の軌跡も2ch再生ながら、三角形の頂点で聴いている視聴位置までぐんぐんと迫ってくる。位相が正しく管理されているイクリプス・スピーカーならではの、優れた立体感再現だ。爆発音の輪郭は実に強靱だ。
接続❹ AVR-X580BTの活用その1(2ch再生)
次にデノンの5.1ch対応AVセンターの新製品AVR-X580BTを使った再生を試す。まずはシンプルにTD307MK3の2ch再生からトライした
接続❺ サブウーファーを追加した2.1ch再生
接続❹の状態のまま、サブウーファーのイクリプスTD316SWMK2を加えよう(接続❺)。ここでもLEFに加えてフロントLRの低音増強用にも使う。具体的にはX508BTをStereoモードにして、2.1ch再生(ローパス設定は80Hz)を行なう。圧倒的な素晴らしさ。サブウーファーを加えたことで、本作の本質的な魅力に到達した感覚が早くも得られた。それは「低音が表現するドラマツルギー」だ。
サブウーファーを加えると、本作の音響設計がいかに低音に支えられているかがよく分かる。それはDMSのすべてにいえることで、台詞もサブウーファーによって断然、安定し腰が座ってくる。音楽もより効果的で、感情表現がたいへん濃厚になる。最大のメリットが効果音だ。ミサイルやフレアの飛翔音に断然のリアリティが付与され、その飛行軌跡もより確実になる。サブウーファーはDMSのすべてを、作品世界へ没入させるターボの働きを成す。接続❸のテレビ内蔵アンプの場合も、サブウーファー追加効果はあったが、今回はアンプとスピーカーが抜群に高性能なので、その効用はさらに顕たかなのだ。
接続❺ AVR-X580BTの活用その2(2.1ch再生)
さらに接続❹の状態にTD316SWMK2を加えた2.1ch再生を行なってみた。X580BTのスピーカー設定で、TD307MK3はスモール、クロスオーバー周波数は80Hzとしている
接続❻ センターを追加した3.1ch再生
次にセンターにTD307MK3を1本追加する。つまりフロント3.1ch再生だ(接続❻)。X508BTはドルビートゥルーHDモードで再生。これまではステレオ音場にてセンター音像はファントム再生だったが、リアルセンターでの実音源再生は、音場にたいへん大きな影響を与える。台詞が圧倒的な輪郭感とボディ感を伴ない、極めて明瞭に再現される。発音がクリアーになり、それが効果音と音楽に埋もれることなく、「9時方向にミサイル!」「防御中!」という緊迫したやり取りがハイテンションで立ってくるのだ。それは台詞だけの聞こえ方の向上だけではなく、DMS全体の解像感を高めてくれる。逆に言うと、効果音と音楽は、センターに台詞を任せればよいことになり、よりドラマティックに鳴らせる。つまりセンタースピーカーは、本作の再現性にトータルで大いに貢献するのである。
接続❻ AVR-X580BTの活用その3(3.1ch再生)
接続❺から、センタースピーカーとしてTD307MK3を1本追加、3.1chシステムの状態で鳴らす。フロント側に3本のスピーカーがセットされているものの、サラウンドスピーカーは未使用となるが、効果やいかに
接続❼ いよいよ大トリ、5.1ch再生
いよいよ大トリ、5.1ch再生である(接続❼)。接続❻にTD316SWMK2を2基、サラウンドスピーカーとして加えた状態となるが、当然ながら、後方の音場が生まれる。これまでもTD307MK3の音場再現力のお陰で、移動の軌跡がリスナー側にも来ていたが、本スピーカーの音場描写として美質は、単に後方音場が充実することを超え、音場全体が緻密になるのだ。天井スピーカーを用いたドルビーアトモス再生ではないけれど、上方向にも濃密な音場が形成されることに、正直驚いた。
さらに、さきほど述べたDMSの各要素の描写がより上質になった。戦闘機の飛行音、ミサイルの爆発音を背景にした司令官との無線のやり取りでは、冷静な司令官と、慌てまくるトップガンたち……という感情の対比が、さらに鮮やかになった。本来後方にあるべき効果音が前方スピーカーから発音された接続❻と比べて、その効果音がサラウンドスピーカーが受け持つことになったため、センタースピーカーの能力がより細やかに発揮されたのだ。その結果、5.1chではリスナーが、音場の中に居るイメージが濃くなってもくる。これまでは客体として音場と対峙していたが、5.1chでは主体的に音場に没入するとも言いかえられよう。すなわち『トップガン マーヴェリック』の世界により深く、入り込めることを意味する。
今回は、テレビ内蔵スピーカーから始まり、5.1chまでの音世界を体験してきたが、どの音環境においても、本作の音の素晴らしさは、それに応じて痛感された。もちろん5.1chがクォリティとフィディリティの点で、『トップガン マーヴェリック』の今回の最高体験を与えてくれたのはいうまでもない。
接続❼ AVR-X580BTの活用その4(5.1ch再生)
今回の最終形として5.1ch再生を行なった。オールスモールで80Hzのクロスオーバー設定だ。フロントLRとサラウンドLRのスピーカーはリニスニングポイントから等距離にセットしている
今回は比較的コンパクトな部屋をイメージして近接した状態でのセッティングとした。48インチサイズのテレビを用いたが、音響空間的にはもっと大きな画面サイズでも充分にバランスする迫力の『マーヴェリック』サウンドが獲得できた
●視聴したシステム
有機ELディスプレイ:レグザ48X9400S
4Kレコーダー:パナソニックDMR-ZR1
AVセンター:デノンAVR-X580BT
本記事の掲載は『HiVi 2023年冬号』