AVセンター市場におけるマランツのポジションはたいそうユニークだ。スリムモデルNR1711の売上げは単品製品としてナンバーワンを記録しているそうだが、AVセンターの製品構成/ラインナップは、決して王道的なものではない。端的に言えば、ニッチな製品ラインナップなのだ。たとえばNR1711は機能を絞り込んだ薄型モデルであり、HDMI端子を備えたプリメインアンプ的なAVセンターなのだが、本機が市場に与えたインパクトは大きく、「新しい価値観」を生み出したといってよい。

 この度、マランツのAVセンターのラインナップが全面的に刷新されることとなった。シリーズ名称も新たに「CINEMA」と銘打ち、これまでのコンセプトを継承しつつ、上質なインテリアとしてのオーディオシステム、さらにはリビングルームに調和するデザインという点をより明確に推し進めることとなった。

 2022年は2モデルを投入する。NR1711等のスリムなデザインと同社のハイファイコンポーネントに相通ずる流れに基づくCINEMA 70sと本格機CINEMA 50の2機種だ。

画像1: 「CINEMA」の名は伊達ではない!革新を遂げたマランツの新AVセンター製品群登場 MARANTZ「CINEMA 70s」「CINEMA 50」
画像2: 「CINEMA」の名は伊達ではない!革新を遂げたマランツの新AVセンター製品群登場 MARANTZ「CINEMA 70s」「CINEMA 50」

CINEMA 70s
¥154,000 税込
●寸法/質量:W442×H109×D384mm/8.7kg

ベストセラーを続けたNR1711の後継機種がCINEMA 70s。スリムな筐体ながら、HDMI入出力やフォノ入力、アンテナ入力などを含む豊富な接続コネクターとドルビーアトモスやDTS:Xの再生に対応した7chアンプを搭載している。Amazon MusicやSpotify、AirPlay2などの話題の音楽ストリーミングサービスに対応した「HEOS」をサポートしている点にも注目したい。テレビを含むリビングルームのオーディオならびにAV再生の「中心」に位置する製品だ

 

画像3: 「CINEMA」の名は伊達ではない!革新を遂げたマランツの新AVセンター製品群登場 MARANTZ「CINEMA 70s」「CINEMA 50」

CINEMA 50
¥286,000 税込
●寸法/質量:W442×H165×D404mm/13.5kg

CINEMAシリーズの中核を担う本格モデルがCINEMA 50。大型EIコアトランスと専用開発されたカスタムコンデンサーを擁した強力な電源部と9chフルディスクリートアンプにより、本機単体で最大5.4.4あるいは7.4.2再生を実現。信号プロセッシング自体は11.4chに対応しているので、外部ステレオパワーアンプを組み合わせることで、5.4.6再生もサポートしている。また、本文で触れている通り、サブウーファーの4個遣いにも可能で、こちらはデノン機(AVR-X3800H)で搭載されている機能と同様のものとなる

 

新時代のマランツデザインの筐体に現代のAV再生で求められる機能を投入

 一般的なAVセンターのオーソドックスな顔つきといえば、大型ディスプレイに無垢なフラットパネルフェイスで、シーリングドアの奥に各種ボタンがあり、左右に大型ノブの入力セレクターとボリュウムが備わったもの。

 マランツの新CINEMAシリーズは、同社のハイファイコンポーネントと同じ小さな丸型ディスプレイ(フルドット有機EL)と、独特のカッティング処理が施されたパネル仕上げである。まったくAVセンターらしからぬ顔つきなのだ。実機を前にした印象は、実に美しい佇まいといったところで、ハイファイコンポーネント然としている。

 もちろん装備面には抜かりはない。内蔵パワーアンプとプロセッシング能力は、CINEMA 70sが100W×7chアンプを搭載し、サラウンドバック付きの7.2chシステムあるいはオーバーヘッドスピーカー1組2本を使った5.2.2構成のアトモスシステムに対応する。CINEMA 50は、220W×9chアンプを搭載、7.4.2あるいは5.2.4構成のアトモスシステムに単独で対応している(外部アンプを追加すれば、5.4.6構成も可能だ)。

 いずれもアンプは、フルディクリート構成であるのはいうまでもない。両機種ともドルビーアトモス/DTS:Xのイマーシブオーデオの最新フォーマットにもしっかり準拠している(CINEMA 50はAuro-3Dと360 Reality Audioにも対応)。

 加えてCINEMA 50には、実にユニークなフィーチャーがふたつある。ひとつはサブウーファーの設定だ。実に最大4台のサブウーファーが使える上、使用モードを「スタンダード」「指向性」の2パターンから選択できる。前者は通常の使い方(すべて同じ低音を再生)だが、後者はスピーカーコンフィグレーショで「小」に設定された特定のチャンネルのスピーカー(ドルビーアトモスでいうところのベッド・スピーカー、つまり床置きスピーカー)のクロスオーバー設定周波数以下の低音をサブウーファーにサミングすることができる。それをエリア毎に分けられるのが名称の由来だろう。

 ちなみにCINEMA 50のプリアンプ部は、マランツの自家薬篭中の技術である電流帰還型増幅モジュール回路「HDAM-SA2」を採用している点にも注目だ。これによりハイファイアンプと同様のハイスルーレートと広帯域再生が期待できる。

 両機種共通のもうひとつの注目フィーチャーは、「プリアンプ・モード」である。従来は固定されたチャンネルのアンプだけだった機能を、内蔵パワーアンプを個別にオン/オフでできるようにした。これで手持ちのパワーアンプやステレオシステムとの親和性を高めることができる。

 フロントパネルの趣きだけでなく、オンスクリーンのGUIメニューの様式も一新された。従来と比べて文字のフォントが読みやすくなり、スピーカーの絵柄等もイラストによる見やすいものとなっている。

 

薄型ボディながらも生々しい緊迫感でアトモスサウンドを描くCINEMA 70s

 今回の取材は川崎のマランツ視聴室にて行なった。スピーカーシステムは、Bowers & Wilkins 800 D3シリーズで統一しており、オーバーヘッドスピーカーは部屋の四隅に設置したフロントハイト、リアハイトという状態である。つまり、5.1.4構成という按配だ。あいにくサブウーファー4基は間に合わず、「指向性」機能のテストができなかったのが残念ではあるが……。視聴ソフトは、UHDブルーレイ『フォードVS.フェラーリ』のチャプター17および30の2場面だ。

 最初に聴いたCINEMA 70sでは、フロントハイトのみの5.1.2で再生。テストコース上のフォードGT40のエキゾーストノートがシームレスにつながって聴こえる。その音の大半はフレーム外に位置するのだが、場面が運転席に切り替わってもサラウンド音場内のエキゾーストノートが違和感なくつながるのだ。強弱を伴なったその走行音の中に首脳陣の対話が克明に浮かび上がるのがわかる。

 ル・マン24時間のレースシーンのチャプター30では、フル・ブレーキングやクラッシュ時の衝撃音がたいそうリアルに定位した。また、戦況を伝える記者席のタイプライターの音がけたたましく響き、シーンの緊迫感が生々しい。

 

迫力と繊細さを両立した手に汗握るムービーサウンドが印象的なCINEMA 50

 続いてCINEMA 50。チャプター17では風の音、ギヤシフト時のメカニカル音など、微小な物音(効果音)がくっきりと浮かび上がった。驚かされたのは、首脳陣3人が対話している中で、手摺りから手を離した際の「サッ」という金属音が明瞭に聞き取れたことだ。もちろんフォードGT40のエキゾーストノートは鮮明に感じられるし、チャンネル間のつながりも申し分ない。

 チャプター30では、フォードとフェラーリのエンジンの気筒数の違いが走行音からしっかりと伝わってきた。V型8気筒のフォードは重心が低く太い音がするが、12気筒のフェラーリのそれはもっと硬質で高域成分が強い。それらが緩急を伴なってチャンネル間を移動する様子が手に汗握る感じでリアルに響いた。

 CDのステレオソースでもチェックしている。CINEMA 70sでは、薄型にもかかわらずがっちりとした押し出しで、ヴォーカル音像の明瞭なフォルムに加え、声の湿り気や温度感といったニュアンス描写もしっかりとしていた。

 一方のCINEMA 50は、より立体的なステレオイメージが感じられ、音場の奥行、声と伴奏楽器の前後感がいっそう明確に感じ取れた。こちらは総じて余裕を感じさせる再生音であった。

 この2機種から感じ取れたCINEMAシリーズの新しい方向性は、ともすれば音楽的な透明感や質感再現は申し分ないものの、これまでは映画再生に要求されるセリフの実体感やサウンドエフェクトの迫真性がやや弱いと指摘されることの多かったマランツAVセンターが、より十全な映画的パフォーマンスを獲得したことである。ドルビーアトモス時代に突入して以来、様々なアプローチで着実に達成してきた高音質化策の蓄積があって、映画に対する適応力が自ずと高まった側面もありそうだ。

 いずれにせよ、それらがいい形でこの新シリーズに作用していることは確かであり、そうしたポテンシャルとエンジニアの気概が、期しくもCINEMAというシリーズのネーミングに帰結したのかもしれない。

 マランツのCINEMAシリーズは、ここで紹介した今秋のCINEMA 50、CINEMA 70sを皮切りに、2023年以降さらに上位モデルの発表が予定されている。よりハイグレードなアンプを内蔵したCINEMA 40、さらにはセパレート構成の超弩級AV 10/AMP 10というものだ。同社の新しいコンセプトが今後どう昇華され、各モデルに反映されていくのかは実に興味深く、大いに期待して待ちたい。

超期待!
来年登場のCINEMAシリーズの高級AVセンターに注目

画像: CINEMA 40

CINEMA 40

画像: AV 10

AV 10

画像: AMP 10

AMP 10

マランツではAVセンターの新製品群CINEMAシリーズをまず5モデルで展開することを明らかにしている。先行して正式発表されたがのが、今回ご紹介しているCINEMA 70sとCINEMA 50だが、その上位モデルとして一体型モデルCINEMA 40とセパレートモデルAV 10+AMP 10がそれだ。ここでは現時点で判明しているラインナップの情報を整理しておこう。CINEMA 40はマランツ製一体型AVセンターの最上位機で、9chアンプを搭載。製品グレードとしては現行SR8015よりも上級になるという。価格は45〜50万円前後が見込まれている。AV 10+APM 10は、マランツ渾身のフラッグシップ・セパレートAVセンターだ。AV 10は15.4ch仕様のAVプリアンプで、17.4ch分のバランス・プリ出力にも対応する高度な製品。AMP 10はなんと16chパワーアンプを内蔵したモデル。アンプ増幅回路はスイッチング方式をとなる。こちらはそれぞれ100万円程度になる公算が高いとのこと。(編集部)

 

●問合せ先:デノン·マランツ·D&Mインポートオーディオお客様相談センターTEL. 0570(666)112

 

本記事の掲載は『HiVi 2023年冬号』

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