7年ぶりとなるガンダムシリーズのTVアニメ最新作『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(10月2日より放送開始)。新しいガンダムについてプロデューサーを務める岡本拓也さんにお話を伺った。学園を舞台にした物語で、少女が主人公であるなど、新たな試みが話題となっているが、果たして、どのような展開になるのだろうか。
――『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の企画のはじまりについて教えてください。
私のところの話がきて、具体的に進め始めたのは2020年の初春ですが、企画自体は2018年からスタートしていました。7年ぶりのTVシリーズですし、ガンダム50周年を控えて次の世代の少年少女に向けたものを作ろうというのがはじまりです。女性の主人公でガンダムをやって欲しい、という話が来ました。
――歴代の作品を振り返ると、主人公が学生というのは少なくなかったし、学校生活のシーンが描かれることもありましたが、多くはすぐに戦争に巻き込まれていきました。その点で学園が物語の舞台になるのは新しい試みですね。
『水星の魔女』は、当初は重い内容でスタートする方向も考えていましたが、たまたま10代の人たちから話を聞く機会があって、その時に「ガンダムは僕らのものじゃない」という言葉があって、それが結構刺さりました。特に『機動戦士ガンダム』から続く、宇宙世紀を舞台した作品群は長い歴史が積み上がっていて、ガンダムを見たことがない方には、どうしても敷居の高さがあると思います。宇宙世紀ではない作品もありますが、『機動戦士ガンダムSEED』も、放送からすでに20年以上経っていますから、ガンダムならではの時間の積み重ねが、若い世代には入りづらいと感じてしまっているではないか、と。そこで、彼ら彼女らが今身近にある環境、つまり学校を舞台にスタートするのがいいのではないかと考えたのです。なるべく身近なところから「これは僕らの話なのかも」と感じてもらえることを意識しています。
――テレビシリーズ初の女性主人公というのも話題ですが、女性が主人公だからこそ描けることが大きなテーマになるのでしょうか。
『水星の魔女』の世界は、地球だけでなく水星にまで人類が進出しているような世界ですから、今言われている多様性などはもはや当たり前になっていて、主人公が男性だから女性だからということは特別に意識していません。少女が主人公ということで、友情にしろ恋愛にしろ、描き方は変わるでしょうが、その根本は変わらないというのは、小林寛監督も意識されていると思います。
――GUND ARM(ガンドアーム)というこの世界における「ガンダム」の語源にもなる技術があります。これは、物語にも関わる重要な要素になるのでしょうか。
もともとはGUNDという義手や義足を拡張した技術で、それが軍事転用されたものがGUND+ARM。この世界での「ガンダム」がどのようなものかを描くために必要な設定となります。医療用技術の発達で生まれたというのも、より身近なところ、想像しやすいところから出た小林監督のアイデアですが、最初の『機動戦士ガンダム』の時からモビルスーツは身体の拡張であり、究極的には意識の拡張であるという着想に基づいて作られたと記憶しています。いきなり兵器としてのモビルスーツが当たり前にある世界よりも、少し身近なものに感じてもらえると嬉しいですね。いずれにしても、物語を見ていただけると、こういうことなんだと分かるようになっています。作品のテーマ的なところにつながるので、これ以上は放送を見ていただければ、と。
――こちらも物語の重要な要素になると思いますが、ずばり「魔女」とは何でしょう?
ストーリー上の具体的な話をすると、GUNDフォーマットを生み出したヴァナディース機関という研究機関があり、その技術を持つ人たちが「魔女」と呼ばれていますね。「魔女」の意味は、見る人によって受け取り方も変わってくるかと思います。ぜひ最後まで見ていただいて、魔女とは何だったのかを考えてほしいです。
――物語を作るにあたって、ガンダムシリーズ過去作を意識した部分はありますか?
このあたりは本作が宇宙世紀以外を舞台にした作品ということで、自由な発想で作っています。もちろん、ガンダムである以上は、押さえておくポイントもあります。が、良い意味で今までの『ガンダム』とは違う、想定を外れていくようなガンダム像であり、同時にこれまでの『ガンダム』に求められるものも備えたものにしたいです。若い人に向けたものですが、『ファーストガンダム』からのオールドファンにも許容できるものになっていると思います。
――今度はスタッフについてです。キャラクターデザインはモグモさんが原案で、アニメーション用のキャラクターデザインは3人の方が担当しています。
基本的には物語の中心となるキャラクターを田頭真理恵さん、その周りを固めるキャラクターを戸井田珠里さんと高谷浩利さんにお願いしています。『水星の魔女』はとにかくキャラクターの数が多いので、こういう体制にしました。また、小林寛監督もひじょうに絵が上手い方で、しかも仕事も速い。ですから、監督から絵でキャラクターのアイデアが出てくることもあります。
――一方、メカデザインでは、JNTHEDさんをはじめ、5人のデザイナーが参加しています。
モビルスーツのデザインについては、JNTHEDさんにはガンダム・エアリアルとガンダム・ルブリス、主役系のモビルスーツをお願いしています。海老川兼武さんはグラスレー社のミカエリス、形部一平さんにはジェターク社のディランザ、稲田航さんにはペイル社のガンダム・ファラクトという具合に、いくつかあるモビルスーツのメーカー・陣営ごとに、デザイナーさんには担当していただいています。そのほか、モビルスーツ以外のメカについても色々とお願いしています。
――主役モビルスーツのガンダム・エアリアルは、これまでとはまた違う独特なプロポーションです。その狙いはどんなものでしょう。
手足などの末端は細身で、胸が厚く太ももは極太です。ボディビルダー的な筋肉質な感じですね。これまでのガンダムらしさなどもミックスしつつ、モビルスーツとして説得力のあるデザインを目指しています。
――リアルを突き詰めると、宇宙特化ならば足は要らないという考え方もあります。足や手が細いのはそういう意味かなと思いました。
デザインの議論の中で、宇宙専用ならば足はいらない。あるいは地上の時だけ足を付けるとか、そういう話はありましたね。今後もそのあたりの発想は自由に広げつつ、モビルスーツらしさやガンダムらしさのバランスをうまくまとめていきたいです。
――モビルスーツの作画について伺います。『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』では、モビルスーツの作画に3DCGを導入しましたが、本作はどうでしょうか。
モビルスーツについては作画(手描き)ですが、コクピット内や、戦艦などはCGを使っています。最終までCGのものもあれば、作画と組み合わせているパターンもあります。全体のバランスを見て使い分ける感じですね。ガンダム・エアリアルが使用する特徴的な武器、ガンビットはこれまでのシリーズ作品で言うと、いわばファンネルのような無線誘導で動く兵器ですが、ファンネルの直線的な動きとは違って、有機的な動きを目指しています。そのあたりの動きはCGを駆使して表現しています。
――音響についてはどうでしょうか。TVシリーズということでサラウンドの採用などは難しいとは思いますが。
音楽を担当していただいている大間々昂さんはドラマや実写映画の音楽をたくさん手掛けている方で、ガンダム作品では『機動戦士ガンダム Twilight AXIS』にも参加されています。ひじょうに重厚感のある音楽を提供してもらえました。学園が舞台で少しコミカルなシーンもあるので、軽めの楽曲もありますが、世界観としてはリアルさや説得力のある曲も欲しいので、そこをうまくチューニングしていただきながら、劇伴として仕上げてもらっています。ぜひ音楽にも注目してほしいです。
――最後に、岡本さんの考える『ガンダム』らしさについて教えてください。
私にとっての『ガンダム』は、やっぱり人間ドラマが本質なんだと思っています。戦争や群像劇という要素もありますが、これまでに多くの方々が作ってきた作品でも、人間ドラマを描くことをしっかり継承してきているなと思っています。本作でも、少年少女だけでなく、大人のキャラクターもたくさん出てきて、いろいろな形で関わっていきます。人間ドラマを楽しんで頂けること、それが本作の魅力になればいいなと思っています。
――ありがとうございました。
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』
毎週日曜午後5時~
MBS/TBS 系全国28 局ネットにて放送中
前日譚「PROLOGUE」 各動画サービスにて配信中
〈スタッフ〉
企画・制作:サンライズ
原作:矢立 肇/富野由悠季
監督:小林 寛
シリーズ構成・脚本:大河内一楼
キャラクターデザイン原案:モグモ
メインキャラクターデザイン:田頭真理恵
キャラクターデザイン:戸井田珠里/高谷浩利
メカニカルデザイン:JNTHED/海老川兼武/稲田 航/形部一平/寺岡賢司/柳瀬敬之
音楽:大間々 昂 ほか
〈キャスト〉
スレッタ・マーキュリー:市ノ瀬加那
ミオリネ・レンブラン:Lynn
グエル・ジェターク:阿座上洋平
エラン・ケレス:花江夏樹
シャディク・ゼネリ:古川 慎
ニカ・ナナウラ:宮本侑芽
チュアチュリー・パンランチ:富田美憂 他
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