こんにちマルチチャンネル再生に対応したサラウンドスピーカー群をラインナップしているメーカーは決して多くない。スイスを拠点にグローバルな人気を博し、ここ日本でも熱心な愛用者の多いピエガはそのひとつだ。昨年新たにラインナップに加わったACEシリーズは、TMicroシリーズに代わるエントリーライン。今回はコンパクトなACE30をリアスピーカーに回し、トールボーイ型のACE50やセンター専用機ACE Centerと合わせてサラウンドシステムを組んでみた。

 

高性能リボントゥイーターを細身エンクロージャーに搭載

 シリーズ共通の特色は、アルミ押出し材によるエレガントで洗練された細身のエンクロージャーとドライバーユニット構成だ。特にリボントゥイーターAMT-1は同社のシンボリックなもので、折り畳まれたプリーツ状の振動板から一定範囲に均一かつ強いエネルギーを放射することができる。その後ろ盾となっているのは、小型とはいえ強力な磁力線を有する高純度ネオジウム磁石の威力だろう。ちなみに型番のAMTは、「エアー・モーション・トランスフォーマー」の略で、24mm×36mmのサイズに折り畳まれたアルミ製振動板である。

 ダイナミック型のミッドレンジまたはウーファーには、12cm口径のMDS(マキシマム・ディスプレイスメント・サスペンション)コーンを採用。トールボーイ型のACE50は、ミッドレンジ+ダブルウーファーの3ウェイ、ブックシェルフ型のACE30は2ウェイとなっている。特にウーファーは特殊なサスペンション(センタリング・スパイダーとラバー・サラウンド)によって、ロングストロークと高耐入力を獲得している点が見逃せない。

 ACE Centerは、前述のAMT-1トゥイーター+12cm口径のMDSウーファー2基という組合せで、シリーズ中で唯一の密閉型となる。

 エンクロージャーは前述した通りアルミ押出し材で、内部の定材波が発生しにくい楕円形断面のフォルムになっている。また、木材等をブレーシングに適宜用い、強度と響きをコントロールしている点も特徴だ。フロントバッフルをウーファーユニットのフレームのギリギリまで絞り込んでいるのも、反射や回折現象を避けるための得策といってよい。ちなみにこの意匠は、スイスのデザイナー/ステファン・ヒュールマンによるもので、独特の楕円形/円形のフロアスタンドの仕上げも含め、優美さと精悍さを兼ね備えたスタイリングといえよう。

 サブウーファーのみACEシリーズには用意がないため、今回は旧シリーズのサブウーファーTMicro Sub2を組み合わせた。同社製スピーカーに共通したアルミ押出し材を用いた非常にコンパクトな本体には、18cmウーファーをダウンファイヤリング方式で搭載。底面から全方位にエネルギーを放出する形で、150Wのアンプで駆動される。連続可変型のクロスオーバー調整やボリュウム、位相切替えなど、付帯機能も必要にして充分だ。

 

Speaker System
PIEGA

画像1: 洗練された外観とは裏腹の実に説得力の高いサラウンド音響を満喫!─ ピエガ」5.1ch ─

ACE 30
¥198,000(ペア/シルバー仕上げ)税込

●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:AMT-1リボン型トゥイーター、120mmコーン型ウーファー
●クロスオーバー周波数:4kHz
●出力音圧レベル:87dB/W/m
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W140×H220×D160mm/3kg
●カラリング:シルバー、ブラック/ホワイト(¥220,000ペア税込/受注生産)

 

ACE 50
¥418,000(ペア/シルバー仕上げ)税込

●型式:3ウェイ4スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:AMT-1リボン型トゥイーター、120mmコーン型ミッドレンジ、120mmコーン型ウーファー×2
●クロスオーバー周波数:200Hz、4kHz
●出力音圧レベル:90dB/W/m
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W140×H1,040×D160mm(ボトムプレート直径250mm)/12kg
●カラリング:シルバー、ブラック/ホワイト(¥440,000ペア税込/受注生産)

 

画像2: 洗練された外観とは裏腹の実に説得力の高いサラウンド音響を満喫!─ ピエガ」5.1ch ─

ACE Center
¥132,000(本/シルバー仕上げ)税込

●型式:2ウェイ3スピーカー・密閉型
●使用ユニット:AMT-1リボン型トゥイーター、120mmコーン型ウーファー×2
●クロスオーバー周波数:4kHz
●出力音圧レベル:87dB/W/m
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W340×H140×D160mm/4kg
●カラリング:シルバー、ブラック/ホワイト(¥154,000税込/受注生産)

 

画像3: 洗練された外観とは裏腹の実に説得力の高いサラウンド音響を満喫!─ ピエガ」5.1ch ─

TMicro Sub2
¥231,000(台/ブラック、ホワイト仕上げ)税込

●型式:アンプ内蔵サブウーファー・バスレフ型
●使用ユニット:180mmコーン型ウーファー
●アンプ出力:150W
●接続端子:ライン入力1系統(RCA)、スピーカー入出力各1系統
●寸法/質量:W257×H352×D317mm/12kg
●カラリング:シルバー(¥220,000税込)、ブラック/ホワイト

問合せ先:フューレンコーディネート TEL.0120-004884

 

 

画像: TMicro Sub2の入力端子部。LFE専用入力は備わらないので、今回はLPF(低域カット用ローパスフィルター)を最高値の150Hzの状態として用いた

TMicro Sub2の入力端子部。LFE専用入力は備わらないので、今回はLPF(低域カット用ローパスフィルター)を最高値の150Hzの状態として用いた

多彩な音が数多く含まれる場面でも微細な音を曖昧にせずきっちり再現

 今回の5chスピーカーの組合せは、リボン型トゥイーターも12cm口径のウーファーも、言ってみれば素材も口径もまったく同一ドライバーによるサラウンド構成となる。そこに期待できるのは、音場のシームレスなつながりである。それらを鳴らすAVセンターはデノンAVC-X8500HAと、相手にとって不足はない。プロジェクターJVC DLA-V9Rによる120インチ大画面、プレーヤーはパナソニックDMR-ZR1という布陣だ。

 まず観たのはUHDブルーレイ『ブレードランナー2049』。傷付いた主人公ジョーが、雨中でホログラムの女性アンドロイドに話し掛けられるチャプター15から。降雨のサラウンドの様子が立体的に広がり、女性アンドロイドの声は、チャーミングなうえにリバーブが付いていてフワッと広がる。この控えめな実体感と広がりに、全チャンネルを同一シリーズスピーカーで揃えた恩恵が現われている。

 続いて雨中のスピナー(飛行車)同士の空中戦。シンセサイザーによる音楽が全方向から流れるが、歪み感の少ないメロディーがクリアーに響いた。緊張感の漂うシーンなので、ノイズっぽく聞こえてしまっては興醒めだ。また、ここで凄い音を鳴らすのがサブウーファーからのLFE(低音専用チャンネル)。轟音を立てて刻まれるビートは、軟弱なサブウーファーだとボトミング(底打ち)してクリップすることだろう。TMicro Sub2は怯むことなく、クリアーな効果音を繰り出してきた。

 銃撃を受けて砕け散る敵のスピナーの破片をすり抜ける主人公のスピナー。頭上で展開される攻防のチャンネル間の移動音がきわめてスムーズだ。海岸に軟着陸したビークルにどんどん海水が侵入する場面では、水上/水中にアングルが移動する都度、全チャンネルを使っての水圧の閉塞感が表現される。この辺りもACEシリーズで統一した良さが見事に現われていて、その間もシンセサイザーの音楽が終始流れて緊張感を盛り上げる。

 鈍い銃声や殴打の音、ナイフの鋭い音といった効果音の描き分けもさることながら、首を絞められてラヴが息絶えるシーンの一抹の淋しさを補間する効果音と音楽のハーモナイズが素晴らしい。その間も波の音、音楽はずっと続いている。きわめて音数の多いシーンだが、ピエガACEシリーズはそれを曖昧にすることなくきっちり再現してさすがという印象を持った。

 

美しいスタイルからは想像できない主張が強く芯のある5.1chサウンド

 次に観たのは、UHDブルーレイ『地獄の黙示録 ファィナル・カット』だ。ワーグナーの「ワルキューレの騎行」がかかるお馴染みのベトコン村襲撃シーン、チャプター6から観た。

画像: **視聴はHiVi視聴室で実施、120インチスクリーンとの組合せでの5.1chシステムのパフォーマンスチェックした。センタースピーカーは画面下端ギリギリまで上げて、画面と音声の一体感が高まるようにセッティングしている **

**視聴はHiVi視聴室で実施、120インチスクリーンとの組合せでの5.1chシステムのパフォーマンスチェックした。センタースピーカーは画面下端ギリギリまで上げて、画面と音声の一体感が高まるようにセッティングしている
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 まず感じたのは、ヘリコプター離陸前の進軍ラッパの定位の明瞭さだ。くっきりとした音像と、その余韻の広がりが雰囲気を盛り立てる。それに続くキーボードとコーラスの音楽のメロディーもなかなか不気味な雰囲気であった。

 「ワルキューレの騎行」がかかるシーンでは、ヘリコプターの音、ミサイルの音、地上からの機関銃の音が入り乱れてのカオスと化す。ティンパニー等の打楽器が連続するところでは、TMicro Sub2の音が孤立している印象があり、ACEシリーズの5本のスピーカーとのつながりがやや希薄に感じられたものの、がっちり揺るぎないビートではあり、設置場所や位相切替え等で改善できそうだ。

 それにしても機関銃の音やミサイル、ナパーム弾、さらに戦闘機の旋回音など、様々なエフェクト音が重なるシーンでも、ACE50を中心としたサラウンドシステムは、各々の音をきっちりと描き分け、たいそう立派な空間表現である。

 チャプター8では、「サーフボードを返せ」と訴えるキルゴア中佐のヘリコプターからの拡声音が生々しく頭上に定位し、臨場感が感じられた。鬱蒼としたジャングルの物音がグルッとサラウンドする様子もリアル。動物や鳥、虫の声には、ジメジメとした湿気さえ巧みに醸し出されている。

 ソフィスティケイトされた外観からは想像できない、主張の強い、しっかりとした芯のあるピエガACEシリーズの音。それがサラウンドとして360度に広がる様は、他ではなかなか味わえない説得力に満ちていた。ピエガのACEシリーズが侮れないポテンシャルを有していることが実感できた視聴であった。

 

●視聴したシステム
プロジェクター:JVC DLA-V9R
スクリーン:キクチ グレースマット100(120インチ/16:9)
4Kレコーダー:パナソニックDMR-ZR1
AVセンター:デノンAVC-X8500HA

●視聴したソフト
UHDブルーレイ:『ブレードランナー2049』、『地獄の黙示録 ファイナル・カット』(ドルビーアトモス)

 

 

本記事の掲載は『HiVi 2022年秋号』

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