別記事(HiVi2022年秋号の68ページ)で「5.1chやドルビーアトモス収録の映画作品を2本のステレオスピーカーで鳴らして満足できるのか。その答えはイエスであり、ノーである」と述べた。
そこでここでは、この企画でもっとも安価なスピーカーだったソナス・ファベールのLUMINA IIIをメインスピーカーに据え、同シリーズで組み上げた5.1chシステムをテストしてみることにした。サラウンドスピーカーに用いるのはLUMINA Ⅰ、センター用はLUMINA CENTER、サブウーファーはGravis Ⅰである。
光を意味するソナス・ファベールのLUMINAシリーズで5.1chを組む
ソナス・ファベールは、1980年代半ばに北イタリアのヴィチェンツァで創設された。創業者の故フランコ・セルブリンが2005年に同社を去るまでは、寄せ木細工を思わせる工芸品のような美しいスピーカーを小規模生産する工房だったが、フランコの薫陶を受けたパオロ・テッツォン(1976年生れ)がその衣鉢を継いだのち、同社は米国のマッキントッシュを中心としたオーディオ企業体の傘下に入った。そして、幅広い価格帯のスピーカーをラインナップするようになり、世界中でいっそう高い評価を受けることになったのはご承知の通り。
さてLUMINAというシリーズ名、これはラテン語で「光」を意味する。と同時に“LU”はLUXURY、“MI”はMINIMAL、“NA”はNATURALのアタマ2文字を取ってつないだものだそうだ。
LUMINAシリーズのスピーカーは、同社製品の中では断然安価だが、仕上げは美しくゴージャス(外観デザインを担当するのは1980年生れのリヴィオ・ククッツァ)。本体の天面および側面は同社伝統のブラックレザー貼りで、フロントバッフルには薄い木板を7層貼り合わせたプライウッドが採用され、表面の突き板間の接合部にはメープル材が挟み込まれている(キャビネット材はMDF)。
この美しい仕上げはもちろん音響的に吟味されたもので、不要振動や共振をダンプする役割を果たしている。仕上げはウォルナット、ウェンゲ、ピアノブラックの3種類。白基調の明るいリビングルームにはウォルナットが、暗めに調色されたシアタールームにはウェンゲとピアノブラックが映えるだろう。
ちなみにLUMINAシリーズも他のすべてのソナス・ファベール製スピーカー同様、ヴィチェンツァの地で生産されているそうだ。
LUMINA Ⅰはセルロースパルプに天然繊維を混ぜ合わせた120mmウーファーと29mmソフトドーム・トゥイーターの2ウェイ機。トゥイーターは素直な超高域特性を得るために頭頂部をダンプした同社お馴染みのアローポイントDADテクノロジーが採用されている。LUMINA IIIは、パルプに数種類の天然繊維をブレンドした150mmウーファー2基と同口径の振動板の中心にフェーズプラグを配置したミッドレンジ・ドライバー、LUMINA Ⅰと同じシルクドーム・トゥイーターによる3ウェイ4スピーカー構成である。
LUMINA CENTERは同トゥイーターの両サイドにLUMINA Ⅰと同じ120mmウーファーが2基配置されている。3モデルともにバスレフポートは底面にあり、LUMINA IIIは低域成分を360度方向に放射し、LUMINA ⅠとLUMINA CENTERはボトムポートからの低域成分を前方に放射するように設計されている。サブウーファーのGravisⅠは、底面に210mmドライバーを装填したダウンファイヤー方式の密閉型で、AB級アンプで駆動される。
Speaker System
Sonus faber
ソナス・ファベールは以前から多くの製品シリーズで、センター用モデルをラインナップしており、ホームシアター用途のサラウンド再生にしっかり配慮したシステム提案を行なってきている。LUMINAシリーズもデビュー当初からセンター専用機を用意している。いずれもスクエアなウッド製ボディをベースにブラックレザー仕上げという、ソナス・ファベールらしい意匠となっている。
LUMINA Ⅰ
¥118,800(ペア)税込
●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:29mmドーム型トゥイーター、120mmコーン型ウーファー
●クロスオーバー周波数:2kHz
●出力音圧レベル:84dB/W/m
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W148×H280×D220mm/4.5kg
LUMINA III
¥297,000(ペア) 税込
●型式:3ウェイ4スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:29mmドーム型トゥイーター、150mmコーン型ミッドレンジ、150mmコーン型ウーファー×2
●クロスオーバー周波数:350Hz、3.5kHz
●出力音圧レベル:89dB/W/m
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W229×H985×D278mm/16kg
LUMINA CENTER
¥99,000(本)税込
●型式:2ウェイ3スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:29mmドーム型トゥイーター、120mmコーン型ウーファー×2
●クロスオーバー周波数:2kHz
●出力音圧レベル:87dB/W/m
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W524×H169×D213mm/7.6kg
GravisⅠは、ラインレベル入力とLFE入力のほか、スピーカーレベル用入力端子としてスピコン端子も備わっている。今回はAVセンターからのサブウーファー信号を再生するので、LFE入力を用いて接続している
Gravis Ⅰ
¥137,500(台)税込
●型式:アンプ内蔵サブウーファー・密閉型
●使用ユニット:210mmコーン型ウーファー
●アンプ出力:150W(ノミナル)、250W(ピーク)
●接続端子:LFE入力1系統(RCA)、ライン入力1系統(RCA)、ハイレベル入力1系統(スピコン)
●寸法/質量:W286×H334×D316mm/14.5kg
問合せ先:(株)ノア ☎︎ 03(6902)0941
センターあり/なしを聴き比べ。使う場合は入念に調整しよう
まず2ch再生でLUMINA ⅠとLUMINA IIIを聴き比べてみよう(AVセンターはデノンAVC-X8500HA)。音調はよく似ていて、ともにしなやかさと剛性感を両立させたナチュラルなサウンドだが、やはりLUMINA IIIのほうが3ウェイのフロア型だけあって、音に余裕があり、声の厚みやスケール感で勝ることがわかる。ただし、近接試聴では低音が下から聞こえてくる憾みがあり、LUMINA Ⅰと比べると音像が縦伸びしたような印象もある。近接試聴時の音像のまとまりのよさならLUMINA Ⅰだろう。狭小空間でサラウンド再生するなら、LUMINA Ⅰを4本使うのもおすすめだ。
5.1ch再生時に時間をかけて追い込みたいのが、センタースピーカーのセッティングだ。ここでは視聴室に常備されているウッドブロック等を使ってスクリーン下端ぎりぎりまでLUMINA CENTERを持ち上げて、少し上向きの角度とした。こうすることで、映像と音像の乖離の違和感が薄らいでいくはず。
フロントスピーカーのLUMINA IIIとサラウンドスピーカーのLUMINA Ⅰはリスニングポイントから等距離に、サブウーファーのGravis ⅠはLchスピーカーの内側に置き、AVC-X8500HAで距離補正を行なった。LUMINAⅠは充分な低音再生能力があると判断し、ベースマネージメントを行なわない<LARGE>設定とした。
UHDブルーレイの『ウエスト・サイド・ストーリー』でセンタースピーカーのあり/なしを比較してみた。時間をかけてセッティングしたが、スクリーンから2m強の近接試聴では音が下から聴こえてくる違和感がないではない。が、映画の世界に没入するうちに、その意識が薄まっていくのもまた事実。
センターなしの4.1ch再生は、センター成分をファントム定位させることで、映像に映し出されている人物の口から声が聞こえてくる実感が得られるが、センターありに比べると、声の実体感が薄くなる印象。サウンド(孔開き)スクリーンを使わないかぎり、センタースピーカーを「使うか使わないか」は個々人で判断するしかないのだろう。
いずれにしても、サラウンドスピーカーを加えた効果は絶大だった。『ウエスト・サイド・ストーリー』で随所に貼り付けられた効果音(たとえば犬の遠吠えとか口笛、人々のざわめき)が側方や後方から聞こえてくるようになり、再生空間がワイドに拡張されていくのである。
また、LUMINA IIIとLUMINA CENTERの音色がよく揃っているせいもあり、前方のスクリーンサイドの音場がシームレスにつながるのも好ましい。ただし、音量を上げていくと、LUMINA CENTERの音が先に飽和する印象も。これはウーファー口径の違いに基づくパワーリニアリティの差によるものだろう。
『DUNE/デューン 砂の惑星』は、サブウーファーGravis Ⅰを加えた効果が絶大だった。教母モアヒムが主人公ポールをテストする場面では恐ろしい低音の効果音が使われているが、そのリアリティが格段に上がり、画面から目が離せなくなってしまうのである。また、アラビック・メロディを用いた音楽が、Gravis Ⅰを得たことによって厚みを伴なってより重層的に鳴り響くようになり、映画にいっそうの緊張と格調をもたらすことが実感できた。
ステレオ再生では実現できない360度音場の圧倒的な臨場感を実感
『最後の決闘裁判』はクライマックスの決闘場面を観たが、サラウンドスピーカーのLUMINA ⅠとGravis Ⅰを得たことで剣と剣がぶつかり合う音に痛さが内包されるようになり、手に汗握るスリルを味わった。決闘が終わった後に鳥たちの鳴き声が遠く立体的に定位するのだが、この効果音からバカバカしいマチズモに囚われた中世の貴族社会(いや、セクハラ、パワハラが取り沙汰される現代社会も同じかもしれない)を嗤うリドリー・スコット監督のシニカルな視線を感じるのはぼくだけだろうか。
『地獄の黙示録 ファイナル・カット』の導入部も、サラウンド再生することで圧倒的な臨場感が醸し出される。ヘリコプターのローター音が右側方から時計回りに右後方、左後方、左側方、左前方、(スクリーン上のヘリの映像とリンクして)センター、右前方へと移動していく軌跡が明瞭で、360度方向に展開されるこの音の軌道はどうがんばっても2ch再生では実現できない。
2ch再生が客観的な「鑑賞」体験だとすれば、5.1ch再生に進化させることで、映画がヒリヒリするような緊張感を伴なった「臨場」体験へと昇華していくのである。こういう作品が存在する以上、AVセンターを導入してサラウンドシステムを構築するのは必須! と断言したい気分になるのだった。
●視聴したシステム
プロジェクター:JVC DLA-V9R
スクリーン:キクチ グレースマット100(120インチ/16:9)
4Kレコーダー:パナソニックDMR-ZR1
AVセンター:デノンAVC-X8500HA
●視聴したソフト
UHDブルーレイ:
『ウエスト・サイド・ストーリー』
『DUNE/デューン 砂の惑星』
『最後の決闘裁判』
『地獄の黙示録 ファイナル・カット』(ドルビーアトモス)
本記事の掲載は『HiVi 2022年秋号』