ゼンハイザーのワイヤレスヘッドホン「MOMENTUM 4Wireless」(市場想定価格¥54,890前後、税込)が発8月23日に発売される。まずホワイト仕上げが登場し、ブラック仕上げは9月下旬の予定。
同ブランドのワイヤレスヘッドホン最新モデルとして、新開発の42mmドライバーを採用、さらにBluetooth用と信号処理用にふたつのチップを搭載して、それぞれに通信機能とDAC、ANC(アダプティブノイズキャンセリング)機能を受け持たせるなど、品質面にも細かな配慮がなされている。
Bluetoothコーデックは、SBC、AAC、aptX、aptX Adaptive(48kHz/24ビット)に対応済みで、この他に付属ケーブル(1.2m)を使えば有線での接続も可能。航空機用アダプターも付属しているので、旅行の際にもノイズキャンセリング機能が活躍するだろう。
そのノイズキャンセリング機能は、外側に4基、内側に2機のMEMSマイクを搭載。空気の乱れを抑制するために本体の角やエッジを最小限とし、風切り音やノイズが入りにくい位置にマイクを設置するといった工夫も施された。このマイクからの情報を元に、周囲の騒音に合わせてノイズキャンセリングを自動調整してくれるわけだ。
そして今回、発売に先立ってMOMENTUM 4Wirelessの試聴機を借用できたので、インプレッションを紹介したい。
ちなみにMOMENTUM 4 Wirelessの先代モデルとなる「MOMENTUM 3 Wireless」も42mmドライバー(MOMENTUM 4 Wirelessとは振動板素材が異なる)やアクティブノイズキャンセリング機能を備えたモデルで、音質も良好。以前、知人からノイズキャンセリングヘッドホンについて相談された時にMOMENTUM 3 Wirelessをお薦めして喜んでもらったこともある。
そんな満足度の高い製品がモデルチェンジしたということで、期待は高まる。まず外観は、キャリングケースが円形からおにぎり型になり、厚みが若干減った印象。MOMENTUM 3 Wirelessが金属製のバーに可動式エンクロージャーを取り付けた少し無骨なフォルムだったのに対し、MOMENTUM 4 Wirelessは伸縮式のヘッドバンドを採用するなど、よりシンプルなデザインが採用されている。
まずはスマートフォンのPixel6とペアリングして、ワイヤレスの音から確認する。この状態でpixel6を確認すると、MOMENTUM 4 WirelessとaptX HDで接続されている。上記のようにMOMENTUM 4 Wirelessは48kHz/24ビット対応なので、このクォリティの音質が楽しめることになる。
CDからリッピングした44.1kHz/16ビット/FLAC音源からエリカ・バドゥ『Baduizm』、マイケル・ジャクソン『BAD』、山下達郎『SOFTLY』などを再生する。
まずすべての楽曲で空間が静かだ。MOMENTUM 4Wireless はANCを常時オンで使う仕様で(ANCオフはできない)、そのため装着した瞬間に周囲の細かいノイズが消え、静かな空間で音楽を聴くことができる。楽曲はどれも明瞭かつ生々しく、肉声感を伴った豊かなニュアンスが聴き取れる。低音感もしっかり再現され、低域から高域までバランスのいいサウンドだ。
続いてハイレゾ音源(96kHz/24ビット/FLAC)の『アクロス・ザ・スターズ〜ジョン・ウィリスムズ:映画音楽傑作選』を聴いてみた。1曲目「レイのテーマ」では、ムターの奏でるヴァイオリンが、静かな音場の中にのもの悲しく響いてくる。
ここまでは自宅リビングでANCを初期値(アダプティブ=効果を自動調整)で聴いている。MOMENTUM 4Wirelessでは専用アプリ「Smart Connect」からANCの効果の切り替えも可能なので、その違いも試してみた。
メニュー画面からANCとトランスペアレント(外音取り込み)の割合を切り替えるもので、トランスペアレント量を多くすると確かに生活音が聞こえるようになる。ただ音質自体は大きく変化した印象はないので、ここはアダプティブのままで問題はないだろう。通勤バスや電車でも同じ状態で使って見たが、エンジン音や空調を気にすることなく音楽に浸ることができた。ANCの効果はアップしているが、あくまでも自然な音として楽しめるのがポイントだ。
ちなみにPixel6の設定でHDオーディオをオフにすると、とたんに音が寂しくなった。ヴォーカルも痩せて、楽器の余韻がなくなり、音場がひとまわり小さくなる。この状態ではSBCコーデックで音楽信号が送られているはずで、aptX HDとは明確な音質差がある。MOMENTUM 4 Wirelessを使うのであれば、aptX Adaptive対応再生機は必須と考えたい。
さてMOMENTUM4 Wirelessは付属の有線ケーブルを使った再生も可能だ。そこでMac Book Airのヘッドホンジャックにつないでハイレゾ音源を聴いてみた(再生ソフトはAudirvana)。
まずDSD2.8MHz音源を再生すると、アプリ画面上では88.2kHz/24ビットで再生しているという表示がでる。おそらくこれはMac BookAirのD/A変換の問題なのだろう。
とはいえ有線接続で聴くDSD2.8MHz音源はaptX HD伝送時より空気感が出てきて、ヴォーカルもより力強く響いてくる。アニメ作品のサントラでは楽器のひとつひとつが細かい音まで再現され、40年前の演奏と思えない迫力たっぷりの再現になった。
同じサントラを44.1kHz/16ビット音源で聴くと、こちらは44.1kHz/24ビット音源として処理している。どうやらAudirvanaではサンプリング周波数の補間は行わない仕様なのだろう。
その44.1kHz/16ビット音源は、DSD2.8MHzに比べて、めりはりがついて、音の輪郭がはっきりした音として聴こえる。リニアPCMの音の傾向としてこれは当然かもしれないが、その違いをMOMENTUM 4 Wirelessはしっかり再現しているということだ。
なおこのふたつの音源をMac Book AirからBluetoothで伝送(コーデックはAACのはず)すると、Audirvanaではどちらも48kHz/24ビットで処理をしている。MOMENTUM 4 Wirelessが48kHz/24ビット対応なので、それに合わせているということだろうか。
AAC伝送のサウンドは、一聴して不満のない、安定した音という印象。有線接続に比べると音場が狭くなるのは仕方ないが、ヴォーカルなどは明瞭だ。ただ、DSD2.8MHzと44.1kHz/16ビットの差が少なくなり、全体的にフラットな音に落ち着いている。自宅でしっかり音楽を楽しむ時はMOMENTUM 4 Wirelessの有線接続を試していただきたい。
最後にAmazon Prime Videoから映像作品をいくつか見てみた。まずはAAC接続で『ルパン三世PART6』から、小林清志さんが最後に次元を演じた「エピソード0」を再生する。
もともとテレビ放送用でそれほど凝った音作りではないが、ルパンや次元が牢屋に入れられている時と、そこを抜け出した後で声の響きを微妙に変えているなど、音響監督の気遣いがきちんと判別できる。声のニュアンスもこれくらい再現できれば映像鑑賞用に充分使えるだろう。
映像作品をワイヤレスヘッドホンで見る時に問題になるリップシンクは、『ブルース・ブラザーズ』でチェック。ディレイがないとはいわないが、作品を楽しむのに邪魔にならない範囲に収まっていると感じた。これなら移動中に映画を楽しむ用途にも使えるだろう。
スマホとPC、屋内と外での使用などソースや環境を変えて試してみたが、MOMENTUM 4 Wirelessはどの使い方でもコンテンツの持つ情報をきちんと再現してくれる性能を備えている。 “すべてを再構築した、究極のワイヤレスヘッドホン”というコンセプト通り、普段使いから音楽に没頭したい時まで幅広くいい音を聴かせてくれるだろう。(取材・文:泉 哲也)
「MOMENTUM 4 Wireless」の主なスペック
●型式:ダイナミック・密閉型
●周波数特性:6Hz〜22kHz
●感度:106dB SPL(1kHz/0dB FS)
●インピーダンス:470Ω(アクティブ)、60Ω(パッシブ)
●無線規格:Bluetooth 5.2 + Class 1(最大10mW)
●コーデック:SBC、AAC、aptX、aptX Adaptive
●動作時間:最大60時間(iPhoneボリュームmid、ANC on)
●充電時間:2時間(フルチャージ)/5分(4時間動作)
●質量:約293g
※付属品:キャリーケース、USB-Cチャージングケーブル、1.2mオーディオケーブル、航空機用アダプター