山本浩司さんのシアタールームに新たに加わった、パナソニックの4Kブルーレイディスクレコーダー「DMR-ZR1」。前編ではこのモデルがどのような経緯で企画されたのか、さらにどんな点に留意して開発されたのかについて詳しいお話をうかがった。

 後編ではそんなDMR-ZR1のパフォーマンスを山本さんお薦めコンテンツで検証した。ゲストは前回に引き続き、パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社の甲野和彦さんと宮本真吾さんのおふたり。(StereoSound ONLINE編集部)

画像: プロジェクターにはJVCの8K e-shiftテクノロジーを搭載した「DLA-V9R」を使用。山本さんはDMR-ZR1との組み合わせで驚きの高画質を再現している

プロジェクターにはJVCの8K e-shiftテクノロジーを搭載した「DLA-V9R」を使用。山本さんはDMR-ZR1との組み合わせで驚きの高画質を再現している

山本 では、実際にぼくの部屋でのパフォーマンスをお二人に体験していただきましょう。今日は「DMR-ZR1」のHDMIセパレート出力から、映像はビクターのプロジェクター「DLA-V9R」に、音はデノンのAVセンター「AVC-A110」につないでいます(アナログL/R出力をオクターブのジュビリーPreのプロセッサー入力につないでオーディオ・システムと結合)。HDMIケーブルはフィバーの新製品「ULTRA 8K」を使います。

 まずはUHDブルーレイの『ウエスト・サイド・ストーリー』を再生しましょう。昨年公開されたスティーブン・スピルバーグ監督版で、有名な「アメリカ」の歌唱シーンをご覧いただきます。その次に、BS4Kで放送された1961年のロバート・ワイズ版『ウエスト・サイド物語』を再生します。

UHDブルーレイ『ウエスト・サイド・ストーリー』と、
『ウエスト・サイド物語』の4KエアチェックBD-Rを再生

山本 DMR-ZR1は輝度と色のバランスがとてもいいと思います。このUHDブルーレイはDP-UB9000でもチェックしましたが、その時は輝度信号が勝る印象でした。プエルトリコ系女性が踊るこのシーンでも、DP-UB9000はカラフルなドレスの色の訴求力が少し弱い気がするんです。

 僕はこの作品をIMAXレーザー上映でみましたが、その時は色が結構濃い印象だったので、DP-UB9000で再生した時は、それに合わせてDLA-V9R側で色を調整していました。でもDMR-ZR1で再生したら、V9Rを調整しなくても輝度と色のバランスが整って、IMAXのイメージに近い色がしっかり再現されるようになったんですよ。

甲野 映像も音もきわめてハイグレードに再生されていて、素晴らしいですね。こういう最高の環境でDMR-ZR1を活躍させていただけるのは、開発者冥利に尽きます。

宮本 UHDブルーレイの4K映像の実体感が素晴らしかった。S/Nもいいので色も際立っていると感じました。

画像: 今回視聴したパッケージソフト。UHDブルーレイの国内盤、海外盤を中心に、再生が難しいコンテンツが並んだ。この他に4Kエアチェックディスクもしっかりチェックしている

今回視聴したパッケージソフト。UHDブルーレイの国内盤、海外盤を中心に、再生が難しいコンテンツが並んだ。この他に4Kエアチェックディスクもしっかりチェックしている

山本 1961年版はNHKが8K放送用にレストアしたものを4Kで放送したコンテンツで、音は5.1ch、映像はSDRでマスタリングされています。

甲野 NHKで8Kテレシネしたと言うことは、マスターには60mmフィルムを使っているのかな。その情報がしっかり収められているように思いました。

山本 60mmフィルムの情報量は8K以上じゃないと再現できないなどと言われていますが、家庭の場合、どんな環境でどんな8Kテレビで見るかも重要です。今日の映像は4Kですが、DLA-V9Rで8Kアップコンバートすることで、8Kテレビに負けない映像が再現できていると思います。

甲野 おっしゃる通り、山本シアターのこのクォリティの映像は8Kテレビでもそうそう見られないでしょうね。

山本 でも、この映像も音もDMR-ZR1ありきですよ。なんて、お互いに褒め合っても仕方ないね(笑)。

 次はとても厳しいUHDブルーレイをチェックしましょう。『デューン/砂の惑星』は、低コントラスト&高階調作品で、映画館でも本当にちゃんと上映できていたのか心配になるほど。薄暗い屋敷の中で、秘密結社ベネ・ゲセリットの教母モアヒムが主人公のポールをテストする場面を再生します。

UHDブルーレイ『デューン/砂の惑星』を再生

甲野 これは厳しい映像ですね。輝度レベルが低い中に色々な情報が含まれていて、しかも黒い衣裳のふたりが見つめ合っている。ディテイル情報も相当含まれていますね。

山本 このディスクはAPL(平均輝度レベル)が低い中で、低コントラスト・高階調の映像を作り込んでいるわけで、一般的な液晶テレビだと破綻してしまいます。

 そこで今日はDMR-ZR1とDLA-V9Rとの連携機能を活かして調整を追い込みました。DMR-ZR1の「HDRトーンマップ/HDRディスプレイタイプ」で「高輝度のプロジェクター」を選び、DLA-V9Rの「カラープロファイル」を「UB9000_HL(Pana_PQ_HL)」に設定しています。

画像: DMR-ZR1の設定で「HDRディスプレイタイプ」を「高輝度のプロジェクター」にセットすると、ピーク感を維持しながら色調や階調表現に優れた映像再現が可能になる(左)。さらにプロジェクターのDLA-V9Rで「UB9000_HL」を選ぶと、オートトーンマッピング機能を活用し、豊かな暗部階調を再現できるという(右)

DMR-ZR1の設定で「HDRディスプレイタイプ」を「高輝度のプロジェクター」にセットすると、ピーク感を維持しながら色調や階調表現に優れた映像再現が可能になる(左)。さらにプロジェクターのDLA-V9Rで「UB9000_HL」を選ぶと、オートトーンマッピング機能を活用し、豊かな暗部階調を再現できるという(右)

甲野 この映像は、本当に凄みがありました。微細な情報までしっかり再現されていて、我ながらDMR-ZR1とDLA-V9Rの組み合わせは凄いなぁと思いました(笑)。

山本 音については、このシーンの中頃でトップスピーカーから凄い低音が再生されるんですが、この部屋では天井が共振してビリビリ。これはなんとかしないと……と悩んでいるんですよ。

宮本 たしかに凄い低音でしたね。このディスクは社内の視聴室でも確認していますが、ここまでの音が入っていたとは知りませんでした。

山本 続いてUHDブルーレイ『グリーンブック』米国盤を再生しました。ほとんどSDRと思える輝度設定のHDR作品で、DLA-V9Rの「Frame Adapt HDR」モードで再生すると、屋外シーンなどが妙にハイキーで、過補正ではないかと思えるんです。「UB9000_HL」と比較してみましょう。

甲野 なるほど、このシーンは「Frame Adapt HDR」だとたしかにちょっと違和感がありますね。輝度が飽和気味になって、色が白っぽくなっているように感じます。このコンテンツはピーク輝度が400nitsと表記されているので、DMR-ZR1側のHDRトーンマップ(高輝度のプロジェクター)は何もしていないはずです。

山本 そこを「UB9000_HL」設定の連携モードにすると、すっと落ち着いたいい絵になる。DP-UB9000やDMR-ZR1とJVC/ビクターのプロジェクターをお使いの方は、画面がピーキーに感じられたらぜひ連携モードを試してみてほしいですね。

甲野 ビクター製品以外のプロジェクターをお使いの方も、各製品のピーク輝度に合わせてDMR-ZR1側の出力を「高輝度なプロジェクター」(500nitsでロールオフ)か「低輝度なプロジェクター」(同350nits)かのどちらかを選んでいただければ、最適な映像をお楽しみいただけると思います。

山本 音楽ソフトも観てみましょう。エリック・クラプトンのUHDブルーレイ『ザ・レイディ・イン・ザ・バルコニー/ロックダウン・セッションズ』は、イギリスの田舎にあるふるい貴族の館に機材を持ち込んで撮影・録音されたコンテンツですが、画質・音質ともにすばらしいんです。

画像: 視聴時には、DMR-ZR1の字幕輝度低減機能も好評だった。従来はUHDブルーレイなどのパッケージソフト再生時の機能だったが、今回から4K放送などの映像に焼き込まれた字幕をリアルタイムに検出、輝度を抑えることができるようになっている

視聴時には、DMR-ZR1の字幕輝度低減機能も好評だった。従来はUHDブルーレイなどのパッケージソフト再生時の機能だったが、今回から4K放送などの映像に焼き込まれた字幕をリアルタイムに検出、輝度を抑えることができるようになっている

『ザ・レイディ・イン・ザ・バルコニー』を再生

甲野 これはファンには堪えられないソフトですね。撮影も録音も素晴らしい。山本さんのお部屋にはこれまで何回もお邪魔させてもらっていますが、今日は本当に絵も音もストレスがないように感じました。映像も音も艶やかでなめらかで……。

宮本 本当に。音の実体感がすごいですね。

山本 そう言ってもらえるとうれしいなあ。DMR-ZR1の導入によって自分の求めている世界に一歩近づけたかもしれません。それから、この画質・音質には今日使ってみたHDMIケーブルULTRA 8Kの貢献も大きいと思います。

宮本 製品を仕上げる際にノイズ対策などの色々な作業をしていくのですが、中には反応が悪くなるケースもあります。特に振動を止めるためにゴムを貼ったりすると、体感上スピードが遅くなって音に生気がなくなるんですよ。開発時にはそういったことがないように心がけています。

 今日のヴィヴィッドな生々しい音を聴いて、それを徹底してきてよかったと強く感じました。

山本 音の時間軸精度をどう追いかけるかも、昨今の重要なテーマだと思います。音楽は時間の芸術だから動特性をしっかり押さえていかなくてはいけないでしょうね。

宮本 静特性だけを追いかけるのであれば、今回のDMR-ZR1に盛り込んだ対策は必要なくなってしまいますね。静特性に関係したチューニングはやっていませんから。

山本 そうか、それも面白いですね。

 ではもうひとつ音楽ディスク『真夏の夜のジャズ』の2Kブルーレイを再生します。1958年のニューポート・ジャズ・フェスティバルの模様をスタイリッシュに収録した映画で、海外盤はモノーラルと表記しながら実際は疑似ステレオ収録。日本版は、オノセイゲンさんがマスタリングしたモノーラルと新たに制作した5.1ch音声が96kHz/24ビットのリニアPCMで収録されています。

画像: DMR-ZR1が加わったことで、自宅の絵と音が確実にアップしたと満足そうな山本さん

DMR-ZR1が加わったことで、自宅の絵と音が確実にアップしたと満足そうな山本さん

2Kブルーレイ『真夏の夜のジャズ』を再生

宮本 このモノーラル・サウンドは凄いです! 僕が生まれる前にこんな録音がされていたとは、驚きです。目の前で本当に歌っている、演奏しているような生々しい音が聞こえて来て、すっかり楽しんでしまいました。

甲野 新たに作成された5.1chも凄いと思いましたが、個人的にはモノーラルの音に痺れました。まさにレストアのお手本のようなディスクです。

山本 会場に来ているお客さんもみんなお洒落で、今見ても古さをまったく感じさせない。こんなすばらしい音で昔の映画が楽しめることに多くの人に気づいてほしいですね。

 次は4K/22.2chで放送されたドラマ『スパイの妻』とバーンスタインが指揮する『いまよみがえる伝説の名演奏・名舞台/ベートーヴェン「第九」』を、ドルビーアトモスに変換してAVC-A110を使った6.1.6システムで再生します。

4KエアチェックBD-R『スパイの妻』と
『いまよみがえる伝説の名演奏・名舞台』を再生

甲野 『スパイの妻』で蒼井優演じるヒロインが密航しようとして木箱に中に入るシーンのトップスピーカーからの響きは、かなり圧迫感がありました。

山本 少し演出しすぎじゃないかと思うくらいで、怖さが際立ちますね。このドルビーアトモス変換によってNHK制作陣が仕込んだ22.2chサウンドのすばらしさが初めてわかるようになったわけで、この機能の搭載は間違いなくファインプレイだと思います。

画像: BS4Kで放送された22.2ch制作のドラマをドルビーアトモス変換で視聴した

BS4Kで放送された22.2ch制作のドラマをドルビーアトモス変換で視聴した

宮本 ベートーヴェンの『第九』は当時のマルチチャンネルトラックが残っていて、そこから22.2chにミックスしたそうです。これを山本さんのシステムで聴いたらどんな風に聴こえるか、楽しみにしていましたが、本当にホールに居るかのような体験ができました。

山本 22.2chは8K放送用だと思い込んでいて、4K放送に22.2chが収録されているということに気づいていないオーディオビジュアル・ファンは多いかもしれませんね。

甲野 もともとディーガの4Kレコーダーは、DRモードで録画した場合は22.2chの情報が残るようになっていました。これを活かさない手はないだろうと考えたのも、この機能を搭載した大きな動機です。

山本 この機能は今後下位モデルにも搭載されていくんですか?

甲野 コストもかかりますし、この機能をどれくらいお客様が評価してくれるか次第ですね。開発者としてはせっかく完成させた機能ですから、できるだけ多くの製品に積んでもらいたいのですが、具体的には未定です。

山本 NHKはパナソニックに感謝すべきだと思うなあ。誰も聴けなかった22.2chをここまでのクォリティで再現してくれたんだから。

 さて楽しい時間はあっという間で、もう3時間以上過ぎてしまいました。最後に今日の感想を聞かせてください。

甲野 今日はどの作品も、本当にノンストレスで楽しめたのが印象的でした。これ見よがしのところがなく、機器の存在も感じさせない、映像や音そのものに浸れる体験ができたと思います。

画像: 4KエアチェックBD-R『スパイの妻』と 『いまよみがえる伝説の名演奏・名舞台』を再生

山本 DMR-ZR1が届いてからいろいろ試しました。最初はDLA-V9RのHDRレベルを「高」設定にしたりして。最初は「おっ!」となるんですが、観ているうちに不自然な印象になってきて……。結局抑えることで、真の映像の魅力が浮き彫りになるんですよね。

甲野 その作品の本質に迫るには、何も足さない、何も引かないというスタンスが重要だと思っています。そのためには再生機の基礎体力が大切です。今日は、そういう基礎体力のあるシステムで、完全にノンストレスな状態で作品に浸ることができました。そんな環境にDMR-ZR1を迎え入れていただけたことが開発者として嬉しい限りです。

宮本 音はもちろんですが、今日の画質にも感動しました。『ウエスト・サイド・ストーリー』のドレスや、『グリーンブック』の衣装、室内の装飾など、こんな綺麗に撮ってるんだなぁと改めて驚いたのです。

山本 こうやって再生環境を整えていくと、映画やライブの魅力をもっと深く味わうことができます。たとえば『グリーンブック』のドクター・シャーリーの部屋は、ゴージャスなんだけど、どことなく寒々しい。それに対してトニーの家は雑然としているけれど、楽しい雰囲気がある。画質が上がっていくと、色彩設計や色温度設定でそんな演出をしていることがわかってくるんですね。

 好きな本を何回も読み返すように、優れた映画を優れた再生システムで繰り返し味読することで、それまで気づかなかったことに目や耳が行くようになります。そういう体験を豊富化すると、自分の精神生活がいっそう豊かになるのは間違いない。DMR-ZR1はそんな体験を実現してくれる稀有な製品だと思います。

●4K BD/HDDレコーダー
パナソニック DMR-ZR1 市場想定価格36万円前後(税込)

画像1: パナソニック「DMR-ZR1」は、絵も音も本当にノンストレス。コンテンツの楽しみ方まで一変させる、まさに“プレミアム”なアイテムだ(後)【注目製品に肉薄 03】

●内蔵HDD容量:6Tバイト
●内蔵チューナー数:3(地上デジタル/BS/BS4K/CS/CS110度4K共用)
●再生可能メディア:BD-RE(片面1層/2層/3層、25Gバイト〜100Gバイト)、BD-R(片面1層/2層/3層/4層、25Gバイト〜128Gバイト)、BD-Video、Ultra HD Blu-ray、DVD-RAM(DVD-VR規格対応)、DVD-R/-RW、DVD+R/+RW、DVD-VIDEO、CD-DA、CD-R/RW
●接続端子:HDMI出力×2、光デジタル音声出力×2(光、同軸)、USB端子×2(USB2.0 1系統、USB3.0 1系統)、LAN端子、他
●消費電力:約30W(待機時約0.9W/クイックスタート切、時刻表示消灯時)
●寸法/質量:W430×H87×D300mm(突起部含まず)/13.6kg

画像2: パナソニック「DMR-ZR1」は、絵も音も本当にノンストレス。コンテンツの楽しみ方まで一変させる、まさに“プレミアム”なアイテムだ(後)【注目製品に肉薄 03】

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