パナソニックの4Kブルーレイディスクレコーダー「DMR-ZR1」。ディーガ・プレミアム・モデルとして、オーディオビジュアルファンの期待に応える画質・音質が達成されている点が注目され、今年1月の発売以来、一時入荷待ちになるほどの人気を集めた。
そんなDMR-ZR1が山本浩司さんのシアターに遂に納品され、日々そのハイクォリティを堪能しているという。そこで今回は、DMR-ZR1の開発者であるパナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社の甲野和彦さんと宮本真吾さんをお呼びし、山本シアターでDMR-ZR1のパフォーマンスを体験しながらの座談会を行なった。(StereoSoundONLINE編集部)
●4K BD/HDDレコーダー
パナソニック DMR-ZR1 市場想定価格36万円前後(税込)
●内蔵HDD容量:6Tバイト
●内蔵チューナー数:3(地上デジタル/BS/BS4K/CS/CS110度4K共用)
●再生可能メディア:BD-RE(片面1層/2層/3層、25Gバイト〜100Gバイト)、BD-R(片面1層/2層/3層/4層、25Gバイト〜128Gバイト)、BD-Video、Ultra HD Blu-ray、DVD-RAM(DVD-VR規格対応)、DVD-R/-RW、DVD+R/+RW、DVD-VIDEO、CD-DA、CD-R/RW
●接続端子:HDMI出力×2、光デジタル音声出力×2(光、同軸)、USB端子×2(USB2.0 1系統、USB3.0 1系統)、LAN端子、他
●消費電力:約30W(待機時約0.9W/クイックスタート切、時刻表示消灯時)
●寸法/質量:W430×H87×D300mm(突起部含まず)/13.6kg
山本 今日は我がシアターへようこそお越しくださいました。先日、やっと「DMR-ZR1」が届き、それまでのメイン再生機だったUHDブルーレイディスクプレーヤー「DP-UB9000」と見比べながら、そのパフォーマスに日々感動し、驚かされています。
注文してからずいぶん待たされましたが、予想を上回るオーダーがあったということですか?
甲野 はい、おかげさまで。当初のオーダー数はとても予想できませんでした。
山本 DMR-ZR1はディーガのフラッグシップ・モデルですが、レコーダーのプレミアム・モデルとしてはいつ以来になるんでしたっけ?
甲野 2015年の「DMR-UBZ1」以来ですね。ただしDMR-UBZ1はレコーダーとしては2K放送対応で、そこにUHDブルーレイの再生機能を搭載した製品でした。
山本 そうでしたね。DMR-ZR1は4Kレコーダーとして初めてのプレミアム・モデルだと。開発に力が入って当然です。
甲野 今回4Kレコーダーのプレミアムを作ろうと考えた時に、プレーヤーとしてもDP-UB9000を上回る品質を実現したいと考えました。
山本 そうでなくては、ですね。プレーヤーとしての画質もDMR-ZR1の方がDP-UB9000よりも断然上です。
甲野 そう言っていただけてうれしいです。きっと賛否両論のある製品になるだろうなぁとは考えていたのですが。
山本 それはどういう意味で?
甲野 こういうグレードの製品だったらアナログ音声出力も欲しかったとか、どうせならプレーヤーにして欲しかったといった意見があるはずだ、と。一方で4Kレコーダーのプレミアム機が欲しいという声もあり、その期待にも応えなくてはいけないだろうと。
山本 確かにマニア向け製品だけに、様々な要望が寄せられるでしょうね。僕の友人も数名DMR-ZR1を購入しましたが、みんなプレーヤーとして使っています。僕自身も4Kレコーダーとしても使える最高級UHDプレーヤーというふうにこの製品を解釈しています。
甲野 色々な意見が出てくるのは避けられないけれど、そのすべてに応えることはできません。そこで僕達が考えたのは、とにかくHDMI出力の画質、音質のクォリティが最高であること、少なくともDP-UB9000を超えることができないと駄目だということでした。それが実現できるかどうかがDMR-ZR1の生命線だと考えたんです。
山本 しかし、こういう趣味性の高いハイエンド・モデルの商品企画が成立しにくいこの時代によく頑張ってくれたと思います。この企画にゴーサインを出した事業責任者にも敬意を表したいですね。
甲野 もともと4Kレコーダーのプレミアム・モデルを作りたいと言い出したのは、技術サイドなんです。DMR-UBZ1以降ディーガの最高級機をやっていなかったこともあり、4Kレコーダーの最高峰を作りたいという思いがありました。
山本 確かに、最近のディーガは大容量とか全チャンネル録画とか、機能性重視になっていましたからね。
甲野 プレミアム・モデルは開発に時間がかかりますから、企画を通すのが難しいのは確かです。今回は技術側から提案して、事業責任者から「時宜を得たトップエンド・モデルを発売するのはディーガの責務だ」と承認してもらえたのが、本当にうれしかったですね。
山本 いい話です。
甲野 そういう環境ができているのもディーガの歴史があってこそです。僕はブルーレイディーガの実質的な一号機「DMR-BW200」から担当していますが、以来、色々なメーカーと切磋琢磨しながら開発を進めてきました。その中で、HiViベストバイやグランプリで高い評価をいただいたことが、社内でもディーガは品質を追求しなくてはいけないという共通認識につながっていったと思います。
山本 HiViなどの媒体での評価獲得も重要なミッションですからね。
甲野 だから、評論家のみなさんにまったく評価していただけなかったら……といつもたいへんなプレッシャーなんですよ(笑)。失敗したら次はないという気持ちでやってきましたが、幸いこれまで大きな実績を作ってこられたので、DMR-ZR1が開発できたという側面もあるんです。
山本 ちなみに昨今は電子部品の供給逼迫など製造現場もたいへんな状況が続いていると思いますが、DMR-ZR1を作る上での苦労はなかったんですか?
宮本 部品供給の問題は、当然ですがDMR-ZR1でもありました。ただ幸いなことに、それほど皆さんをお待たせすることなく、ある程度スムーズに進められたと思っています。
山本 DMR-ZR1だけで使っている特殊な部品もありますよね?
宮本 電子部品でいくつかありますし、筐体はDMR-ZR1やDP-UB9000でしか使っていないパーツも多いですね。特に電源周りのUSBパワーコンディショナーに使っているルビーマイカは、生産地をインド、ビハール地方に限定していますので、そもそも数が少ない部品です。
山本 原産地まで特定しているんでしたっけ?
宮本 そうなんです。まだなんとか入ってくるという状況ですが、リードタイムがひじょうに長いので、早めに発注して確保しました。
甲野 DMR-ZR1では部品入手についてはそれほど大きな問題にはなりませんでしたが、これは早期から対策をしていたという点が大きかったですね。
というのも、コロナが流行り始めた頃から、色々なモデルの部品が手に入らないとか、この部品の生産を終了しますといった話がものすごい勢いで増えてきたんです。
通常モデルなら、スペックや品質が同等だったら代替品に入れ替えることもできますが、DMR-ZR1のようなプレミアム・モデルではそうはいきません。そもそも実際にテストしてみないと、品質面で使えるかどうか決められないからです。この数年は宮本がずっとそういう調査を続けてきました。
宮本 そうなんです。ここ2年くらい、そういった予備調査を進めてきました。DP-UB9000をベースにした試作機を使って、ある部品が入らなくなったら何に交換できるのか、せっかく交換するならクォリティを上げる方法はないかなど、相当細かく検証しています。
甲野 そういう作業をしていたからこそ、DMR-ZR1が比較的安定して作れているのです。
山本 なるほど、地道な努力の賜ですね。DP-UB9000から主要部品は相当入れ替わっているんですか?
宮本 ええ、基幹部分に関わる部品も、かなり変えています。というのも、音響用部品よりも、汎用部品の方が供給が厳しくなるケースが多かったのです。とはいえそういった汎用部品でも、交換すると音が変わってきますから、音の良い部品を探すのに時間がかかりました。
山本 DMR-ZR1は映像も音もデジタル出力専用機ですが、アナログ音声出力を外そうというのはどういう流れで決まったんですか。
甲野 アナログ音声出力の搭載も検討したのですが、DP-UB9000の筐体にHDDやチューナーを入れていくと考えると、ちょっと無理があるなぁと。
宮本 甲野ともかなり議論して、デジタル音声出力に特化したほうがいいだろうという結論に至りました。そのほうがデジタル出力の品質がよくなってDP-UB9000を超えるクォリティが達成できるんじゃないかと。
甲野 中途半端にアナログ音声出力を搭載するよりも、アナログ音声回路を外したからこそデジタル音声と画質がよくなったという風にできないか、という問いかけに対して宮本がこんな方法がありますという回答を持ってきて、それがDMR-ZR1につながったという流れです。
山本 ただアナログを外すのではなく、その結果としてデジタルの品質をワンランク上げたというのが重要なポイントですね。
宮本 最初は、電源をふたつ搭載して余裕を使って駆動すれば、デジタル出力の音も必ずよくなるはずだと考えました。それをDP-UB9000で試してみたら、予想を超える結果が出たんです。しかも画質もよくなったので、すぐに甲野に知らせました。
甲野 宮本は音質担当なので、普段あまり画質に口出しをしないんですが、今回は “僕が見ても絵がよくなったと思うんだけど、どうですか”
と言ってきたんです。この時の印象がとてもよかったので、DMR-ZR1開発の方向性が決まりました。
山本 UHDブルーレイプレーヤーとしては、DP-UB9000よりパイオニア「UDP-LX800」の方がアナログ音声だけでなく、HDMI出力の音もいいと思っていましたが、DMR-ZR1のHDMI出力の音はUDP-LX800を超えましたね。
甲野 ありがとうございます。その点についてはDP-UB9000を発売した後に、山本さん始め何人かの評論家から指摘をいただいていました。このタイミングでDMR-ZR1を出すんだったら、DP-UB9000は当然として、個人的にはUDP-LX800の音質も超えられる製品にしたいと思っていたので、たいへん嬉しいです。
山本 スイッチング電源を元から分けるメリットがこんなにあるとは思いませんでした。
さて、DMR-ZR1はBS 8K/4Kで使われている22.2ch音声をドルビーアトモスに変換する機能が搭載されたのも話題です。その仕組をもう一度教えて下さい。
宮本 今回は、22.2chのAACをデコードし、ドルビーMAT(Metadata-enhanced Audio Transmission)というフォーマットでAVセンターに送っています。ドルビーMATはドルビーアトモス対応のAVセンターにはすべて搭載されていますので、対応機をお使いの方ならそのままで再生可能です。
甲野 DP-UB9000でも、内部的には22.2chのフルデコードには対応していました。でも当時は出力する方法がなかった。しかしドルビーMATを使えばHDMI端子から出力できるということで、トライしたわけです。
山本 22.2chをドルビーアトモスに変換できるというのは、いつ気がついたんですか?
甲野 技術としてできないかという話はかなり以前から検討していましたが、当時はチップの能力的に無理だろうという話でした。そのため、我々も諦めていたんですが、DMR-ZR1の設計がある程度進んだ時にもう一度なんとかならないかと思い、ドルビーさんやチップメーカーを含めて色々とディスカッションをしました。すると、もしかしたらできるかもしれないという話になってきたのです。
プレミアム・モデルを開発する機会はそうそうありませんから、可能性があるなら絶対実現しようという話になって、一気に搭載する方向に向かいました。
山本 技術的には、デコードした22.2chのリニアPCMをドルビーMATに落とし込んでいるわけですね。その作業が難しいということですか?
宮本 ドルビーMATの規格として、22.2chのリニアPCMをどう格納するかは決まっています。ただ、22.2chはチャンネルベースなのでメタデータが存在しないのです。そこで各信号にメタデータを付けて、規格に準じて信号を割り振ることが必要です。
山本 なるほど、けっこう複雑なことをやっているんですね。
宮本 DMR-ZR1側でこのような処理をすれば、その後はスタティック・オブジェクトのドルビーアトモスとしてAVセンター側が処理してくれます。
山本 いずれにしても、DMR-ZR1は本当に至れり尽くせりの製品に仕上がりましたね。
甲野 DMR-ZR1は、ブルーレイディーガ16年の集大成だと思っています。またちょっとおこがましい言い方ですが、日本のオーディオビジュアルメーカーどうしの切磋琢磨によるひとつの到達点じゃないかと考えているんです。
山本 いいことを言うなあ(笑)。でも次はDMR-ZR1を超える製品を作ってくれないと困ります。HDMI2.1対応や8K放送の録画機能など、ユーザーからの要望はまだまだありますから、そういう展開も期待したいですね。
甲野 そうですね、まだまだ考えないといけないことはありますので、引き続き頑張ります。
※次回へ続く(8月9日公開予定)