90分間の全編ワンショット、編集もCGの使用も一切なし。実にスリリングな一作が7月15日から東京・ヒューマントラスト有楽町、新宿武蔵野館ほかで公開される『ボイリング・ポイント/沸騰』だ。
「いちど始まったら止まらない」という点では、いわゆる舞台でのパフォーマンスに通じるものがあるが、舞台の場合、自分の目で見るところを変えることができるのに対し、この映画はカメラが、演者との距離も含めたうえでの「目がわり」となる。
撮影はロンドンに実在するレストランで行なわれたという。スティーヴン・グレアムが演じる主人公アンディは、さえない毎日を送るオーナーシェフ。妻子とも別居中、店に対する衛生管理検査の評価も下げられてしまった。だが店そのものはクリスマス前の金曜日ということもあって大変な盛況で、彼自身も(ときおりヒステリックにはなるものの)、忙しく動き回っている。
多民族都市ということもあるのか、店員も来客もさまざま(「私の母国語はフランス語で、英語はまだ得意じゃないので、ゆっくりしゃべってくれませんか」というような言い回しも出る)。店員たちはなかなか主張が激しい……と感じられるのは、筆者が革命の一度も起こったことがない日本という国に住んでいるからなのかもしれず、このくらい意見を打ち出すのが、ひょっとしたら人間の当然の権利なのかもしれない。
来客もそれなりに癖が強く、あからさまに差別的な男、高慢な評論家、SNS映えばかりを考えているような連中、メニューに入ってないものを無理に注文するひとなど、現代の人間カタログを見る思いがする。アンディにとっての“沸点”とは何を意味するのか、役者たちと同じ時間の流れを感じつつ、考えてみたいものだ。
監督はフィリップ・バランティーニ。第75回英国アカデミー賞(BAFTA)4部門ノミネート、英国インディペンデント映画賞(BIFA)では11部門にノミネートされて4部門の受賞に輝いた。
映画『ボイリング・ポイント/沸騰』
7月15日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開
出演:スティーヴン・グレアム、ヴィネット・ロビンソン、レイ・パンサキ、ジェイソン・フレミング、タズ・スカイラー
製作・監督・脚本:フィリップ・バランティーニ
原題:BOILING POINT
配給:セテラ・インターナショナル
2021/イギリス/英語/95分/PG12
(C)MMXX Ascendant Films Limited