来る6月3日。40年ぶりに「一年戦争当時のガンダム」が映像で甦る。しかも、題材はTVシリーズの隠れた名エピソードである「ククルス・ドアンの島」。とある島でアムロがジオンの脱走兵と出会う内容で、本筋と関わらない独立した話であるため劇場版三部作からは省略されてしまっていた。

 しかし、戦時下に生きるリアルな人々を描いた物語は多くのファンの人気もあり、安彦良和監督によって劇場公開作として制作されることが決まった。

 ドアンが乗る異形のザクのデザインなどにも注目が集まっているが、CG作画によって描かれるガンダムがどのように動くのかも楽しみなところだ。そこで、本作で3D演出を担当した森田修平さんに詳しくお話をうかがった。

安彦良和監督の一言が、スタッフの意識・結束を高めてくれた

――本作ではモビルスーツやメカをCGで描いていますが、どのように制作されているのでしょうか。また、3D演出とは具体的にはどのような作業をしているのでしょうか。

 3D演出というのは、まだあまり聞いたことのないものですよね。作品の演出という意味では、副監督のイム ガヒさんがしっかりと作品全体を見ていて、それぞれのシーンを担当するアニメーターに指示を出していきます。ただ、手描きの作画とデジタルのCGでは、指示の出し方やチェックの仕方が異なる部分があります。手描きの作画では、実際にセル画に描いた絵をやりとりして進めていきますが、CGの方は画面を見ながら、画面上で(すぐに)リテイクやシミュレーションをするので、やり方が違います。どちらかというと実写に近いかもしれません。

 指示や修正の仕方も作画ならば紙に直接、演技の修正やタイミングの修正をしていくのですが、CGだと「もうちょっとぐっと迫る感じ」というように言葉で伝えます。その時に、ニュアンスがうまくCGアニメーターに伝わらないこともあったりします。そこで、手描き作画もCGも両方経験のある僕が間に入って、そのやりとりをお手伝いしている、という感じです。

画像1: 安彦良和監督の一言が、スタッフの意識・結束を高めてくれた

――演出や作画監督とCGの現場の橋渡しをする役割、ということですね。

 そうです。例えば副監督のイム ガヒさんや総作画監督の田村篤さんが、あるシーンをこうしたいと考えているとして、CGならこんな形で実現できます、と提案したりします。また、アニメーションチェックにしても安彦監督は手描きの作画で動きの感覚を掴んでいる方なので、CGを画面のプレビューで見せてもチェックがしづらいので、3Dで作ったものを紙に2Dで出力して、僕やスタッフが原画のような形にまとめてから、安彦監督にチェックをお願いしていました。

――手描きの作画とCGでは、現場の作業でもずいぶん違いますね。モビルスーツのデザインなども3Dですから、チェックなどもいろいろと大変なのではないかと思います。

 本作では、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を作っていたサンライズ デジタルクリエイションスタジオさんがモビルスーツの3Dモデルを提供してくださいました。ですが、本作用の新規デザインもありますし、作品のコンセプトによってデザインをアレンジしなければなりません。さらに前もってアニメーションさせたときにどう動かすのかまで考えて3Dモデリングに落とし込まなければなりません。

 しかし、その点についても安彦監督の言葉でずいぶんスムーズに進めることができました。「ガンダムは僕にとってはヒーローなんだ」って言ってくださったんです。それで僕らやスタッフの目指す方向もすんなりとまとまりました。僕も関わった『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』では、モビルスーツは完全にリアルなメカとして動かしているのですが、本作ではキャラクターのひとつ、ヒーローのように描いていて、その方向性はまるで違っています。

画像2: 安彦良和監督の一言が、スタッフの意識・結束を高めてくれた

――本編を試写で見させていただいたのですが、人間の見る視点では強大なものが重々しくゆっくりと動く感じがありますが、モビルスーツ同士の対戦となると素早く、柔軟に動いていました。そういう描き分けも印象的でした。

 ガンダムのメカにはヒーロー性とともにリアルさというのも大事ですから、そこは意識して描き分けています。3DCGは立体のモデルを舞台に立たせて、そこに仮想のカメラを置いて撮ることで2Dの絵になります。その時、人の視点で見ているようなカットではメカとして重厚に動かしますし、バトルシーンではキャラクターのような動きをさせたりします。例えば、ガンダムが立ち上がるカットでは、人の視点で見るように、巨大さやロボットの感じを、ガンダムとドアン・ザクが戦う場合は、キャラとキャラが感情を持って戦うように意識して演出しています。

――ガンダムがガンペリーから起き上がるカットは、いかにもメカとしてのリアリティを感じる動きでした。

 そこは総作画監督の田村篤さんがしっかりとチェックしてくれました。田村さんはすごいガンダム好きで、動きはもちろん、このカットの時は膝をこうしたいとか、詳しくチェックしてくれました。メカとして動くときは関節部分しか動かなくて堅いんです。ですが、戦う時などはモビルスーツがキャラクターになって人の様にいろいろな部分が動いていて、肩が上がったり下がったりします。本来メカだと動かないんですよね。そこを動かす(変形させる)ようにすると、メカではないキャラクター性が出て来ます。

画像3: 安彦良和監督の一言が、スタッフの意識・結束を高めてくれた

――安彦監督が手描きで動かしたガンダムは、動きもプロポーションも独特の魅力がありますから、それをCGで再現するというのはなかなか大変ですね。

 安彦監督の作画には、動きや表情に独特の魅力があって、僕らもそこを目指すわけですけど、やはり難しいですね。ですが、3Dもアニメです。手描きのアニメーターのような魅力のある動きを作れるように3Dアニメーションディレクターの坂本隆輔を中心に、3Dアニメーターたちが頑張ってくれました。

――表情を出すというのは、あらかじめ作られた3Dモデルに動きをつけるCG作画ではとても難しいと思うのですが、具体的にはどのようなことをしているのでしょうか。

 モビルスーツをキャラクターとして表情をつける場合、3Dモデルの顔を変形させて人のような表情がでるような仕組みになっています。メカとしてのリアルさとデザインの格好良さ、安彦さんのガンダムの魅力のある動きの良さのすべてを取り揃えたいということで、田村さんにいろいろとレクチャーしてもらいました。3Dモデルでいうと、足がちょっと細くなっていて、ふくらはぎがちゃんと盛り上がっていて、安彦監督が描くような独特の立ち姿になるようにしています。ガンダムの顔も、アップになるカットでは安彦さんの描くガンダムの顔になるように、カットごとに変形させています。

――カットごとにモデルを変形させるなど、手描きの作画に近づける作業が入っているのですね。それはかなり大変な作業ではないでしょうか。

 モデルの変形はしない方が楽です。けれども、やっぱり僕らはアニメを作っているので、(手描きの)作画で学んだことをCGにも入れていきたいという意識は強いです。3Dでも原画にあたる決めのカットには手間を掛けて(変形させて)、きちんといい絵を作っていくというイメージでしょうか。

――CG作画と思って観ていても、最終的に手描きで作画を修正しているのではないか? と思うカットもあったのですが、CGで手間を掛けて手描きに近い動きをさせていたのですね。

 そうですね。回想シーンに出てくるモビルスーツは作画ですが、それ以外は一部作画があるものの、ほぼすべてCGです。CGといっても、CGのスタッフが影付けなどデジタル上で手描きで描き足し、作画のような迫力を出す工夫もしています。

 ただ、1カットだけ、OKの出たCGのアニメーションが最終的に作画に置き換わっています。安彦さんのチェックの後、安彦さん自身が作画ですべて修正したカットがあるんです(笑)。ドアン・ザクの激しいアクションなので、興味のある人はぜひ本編を観て探してみてください。

――今日は、ありがとうございました。

 CG作画を取り入れながらもこれまでの手描き作画の魅力をしっかりと表現しようとする、ガンダムならではのこだわりには驚かされた。CG作画でもここまで魅力的な動きができるというのも、本作の大きなポイントだと思う。物語もより深みを増したものになっていて、観応えたっぷりの『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』。ぜひとも劇場の大スクリーンで楽しんでほしい。

映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』

2022年6月3日(金)全国ロードショー

画像: 映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』

【STORY】
ジャブローでの防衛戦を耐えきった地球連邦軍は、勢いのままにジオン地球進攻軍本拠地のオデッサを攻略すべく大反攻作戦に打って出た。アムロ達の乗るホワイトベースは、作戦前の最後の補給を受ける為にベルファストへ向け航行。そんな中ホワイトベースにある任務が言い渡される。無人島、通称「帰らずの島」の残敵掃討任務。残置諜者の捜索に乗り出すアムロ達であったが、そこで見たのは、いるはずのない子供たちと一機のザクであった。戦闘の中でガンダムを失ったアムロは、ククルス・ドアンと名乗る男と出会う。島の秘密を暴き、アムロは再びガンダムを見つけて無事脱出できるのか……?

【キャラクター】
アムロ・レイ(CV.古谷徹)
ククルス・ドアン(CV.武内駿輔)
ブライト・ノア(CV.成田剣)
カイ・シデン(CV.古川登志夫)
セイラ・マス(CV.潘めぐみ)
ハヤト・コバヤシ(CV.中西英樹)
スレッガー・ロウ(CV.池添朋文)
ミライ・ヤシマ(CV.新井里美)
フラウ・ボゥ(CV.福圓美里)

【メインスタッフ】
企画・制作:サンライズ 原作:矢立肇、富野由悠季 監督:安彦良和 副監督:イムガヒ 脚本:根元歳三 キャラクターデザイン:安彦良和、田村篤、ことぶきつかさ メカニカルデザイン:大河原邦男、カトキハジメ、山根公利 総作画監督:田村篤 美術監督:金子雄司 色彩設計:安部なぎさ 撮影監督:葛山剛士、飯島亮 3D演出:森田修平 3Dディレクター:安部保仁 編集:新居和弘 音響監督:藤野貞義 音楽:服部隆之 製作:バンダイナムコフィルムワークス 主題歌:森口博子「Ubugoe」(キングレコード) 配給:松竹ODS事業室
(C)創通・サンライズ

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