コロナ禍の閉塞感を打破すべく、“生きる力”と“命の尊さ”をより多くの人に届けるべく、山本透監督がオリジナル脚本で挑む長編映画『有り、触れた、未来』。人は独りではなく、支え合って、繋がって生きている。その想いを届けるために、情熱を注ぎ込み、現在、製作佳境を迎えている注目の一作だ。ここでは、山本監督の想いに触発され、自ら俳優陣によるプロデューサーチーム「UNCHAIN10+1(アンチェインイレブン)」を結成。作品の実現化へ向け大きな役割を果たしてきた、俳優・振付師として活動している舞木ひと美にインタビューした。

画像1: 生きる力を届けたい。俳優 舞木ひと美と山本透監督が贈るヒューマン作『有り、触れた、未来』、2023年春の公開へ向け絶賛製作中

――よろしくお願いします。まずは、本作の始まりについて教えてください。
 山本透監督とは、実は8年近いお付き合いがあって、監督がUNCHANGED(アンチェインジド)という劇団を立ち上げて、初めて舞台を手掛けた時に(2015年)、出演とダンスの振り付けで関わらせていただいたのが始まりなんです。自分の思い描く物語を作品にするために劇団を立ち上げたそうで、当時私も、こんなに熱くて、俳優に寄り添ってくれる監督がいるんだって強い印象を受けて、父の著書をプレゼントしたんです。

――それは、どんな著書でしょう。
 父は、東日本大震災の時に石巻西高等学校の教頭をしていて、学校に避難してきた方々を助けるために現場で陣頭指揮を執り、その時の経験をまとめたのが、この映画の原案になった『生かされて生きる~震災を語り継ぐ~』(齋藤幸男 河北選書)なんです。

 父は震災後に定年を迎えてからは(定年時は校長)、震災の語り部として全国で講演をしています。ただ、本の内容としては、震災がどう酷かったのかだけを書いているわけではなく、その後をどう生き抜いたのか、心の傷とどう向き合ってきたのかという、命と向き合ったさまざまな経験が書かれています。

 山本監督も、畑は違いますけど、命と向き合う仕事をしていると感じたので当時、本をお贈りしました。ただ、その後、まったく読んでくれなくて(笑)。

――すると、話が進んだきっかけは何だったのでしょう?
 そうして時が流れて2020年、コロナ禍が広がる中で監督は、作品で一緒に仕事をした人(俳優)や、自分のお母さんなどを相次いで亡くしていきました。その俳優さんとは作品の中で、命の尊さ(描き方)について熱い議論を交わしていたこともあったそうで、何故なんだという理解しがたい疑問と、喪失感が大きかったそうです。お母さんもコロナのために最期の時に面会すら叶わなかったと聞いています。

 自分の身の回りに、生と死が一気に振りかかってくる経験をしたことで、“命と向き合う映画を撮りたい”という思いが強くなったそうです。そしてその時、かつて私がお渡しした本のことを思い出し、東日本大震災を経験した方々は、命や死、自分の人生とどう向き合ってきたのだろうと思い、一気に読んだそうです。

 本にものすごく背中を押されたようで、すぐに“宮城に行きたい、舞木、俺を宮城に連れて行ってくれ。お父さんに会わせてくれ”と連絡があり、ちょうど昨年の3月11日に被災地を案内しました。

 現地では、震災前(18年前)に宮城で撮った作品のロケ地(雄勝病院)も訪れたのですが、跡形もなくなっていて、今では慰霊碑しかないんです。しかも海の見渡せる美しいロケーションだったのですが、16mの高さの防潮堤が目の前にあって、海はまったく見えなくなっていて……。

 その後、私の父と会ったり、本の中に出てくる伊藤健人さん(青い鯉のぼりプロジェクト代表)ともお会いして話を聞いたりしました。伊藤さんは、津波でご家族を亡くされていて、その彼の口から聞いた「傷は癒えることはないけど、僕は傷と共に生きて行く。ようやく自分自身と向き合えて、今、人生を歩み出しています」という言葉に心を強く打たれたようで、東京に帰ってきたらすぐに宮城で映画撮りたいと仰っていました。

 でも、震災の映画にはしたくないし、ご当地映画にもしたくない。津波もガレキも地震の描写も一切出さずに、生きる力が溢れている街で、その街の力をお借りして、生きる力をスクリーンから届けたい。ということで、脚本ができる前から、宮城で撮影することを決めていました。

――そうして企画が動き出して、舞木さんはどのように関わったのでしょう?
 宮城から帰ってきて1か月ほどした時に監督から、“本ができた。これで映画を作りたい”と連絡が来たんです。そこで、監督と一緒に脚本と企画書を持って、協賛をお願いすべく、いろいろな会社を回ったのですが、まったく相手にされずに……。

 そんな状況の中でふと、監督はかつての劇団のことを思い出したようで、“自分たちだけでも0からモノ作りはできるじゃないか”ってより熱くなって、“舞木、俺に力を貸してくれ”って。私も、どうなるかなんて想像もつきませんでしたけど、その熱さに打たれて、“やりましょう”ってお返事しました。

 実は、それまで、最初の舞台の時から私は、月一でワークショップを開いていて、そこに監督もお招きして、特に若い人たちを対象にお芝居の稽古を続けていたんです。監督ご自身も損得抜きにして、俳優育成という観点からものすごく協力をしてくれていたこともあって、監督に付いてきてくれる仲間もどんどん増えて、その輪が広がっていきました。

 お金がないのなら仲間を集めましょうということで、そのワークショップのコミュニティで仲間を募ったら、賛同してくれる人が沢山いて。その俳優たちで作ったのが、本作のプロデューサーチーム「UNCHAIN10+1(アンチェインイレブン)」になります。発起人ということで、私が取りまとめ役を受け持っています。名前はかつての劇団名からいただきました。

画像: ▲UNCHAIN10+1(アンチェインイレブン):舞木ひと美、中里広海、高品雄基、横須賀一巧、永田直人、宮澤佑、ヒロシエリ、竹田有美香、藤白詩、平良太宣、龍真

▲UNCHAIN10+1(アンチェインイレブン):舞木ひと美、中里広海、高品雄基、横須賀一巧、永田直人、宮澤佑、ヒロシエリ、竹田有美香、藤白詩、平良太宣、龍真

――そこからの活動は?
 ちょうど昨年(2021年)、脚本が出来てすぐ、5月頃から活動を始めて、ロケハン、協賛金集め、キャスティングを平行して行なっていました。協賛金は、企業からの大口の入金はほとんどなかったんですけど、話を聞いてくださった経営者の方が、社員の皆さんに話を広めてくださったおかげで、1万円、また1万円という感じで入金が続いていって。初めて口座に入金(1万円)を確認した時は、涙が止まらなかったですね。想いは伝わるし、広まるんだっていう確信を持てた瞬間でした。絶対に(目標の)8000万円いける! って思いました。

――映画の展開(ストーリー)について教えてください。
 とにかく、出演者がたくさんいる群像劇になっていて、大きくは、事故で彼氏を失った元バンドマンの女性、震災で家族を失った中学生の少女、将来を思い悩む舞台俳優、の3本が柱になって同時並行で進んでいきます。それぞれのブロックのキャストが、ところどころでつながっていき、いろんな人たちが混ざり合って、盛り上がっていって、3つのシーンがその熱量そのままにリンクするんです。

 バンドマンの女性、中学生の少女(和太鼓)、舞台俳優、それぞれが“音”を持っていて、普通の作品だとシーンが切り替わっていく展開になると思いますけど、この作品はどんどんどんどん音が混ざり合って、重なり合っていくんです。すべてのエネルギーが重なり合った時に、観ている人にどんなエネルギーが届くんだろう? この作品では、それにチャレンジしています。

 さらに、宮城で行なわれている「青い鯉のぼりプロジェクト」の協力も得ることができて、すべてのエネルギーがその映像(風景)と重なり合っていくんです。言葉で表現するのはとても難しいんですけど、迫力があるのはもちろんですけど、すべてのキャストから出てくるエネルギーに圧倒されてもう、ラッシュを観た時は涙が止まりませんでした。

画像2: 生きる力を届けたい。俳優 舞木ひと美と山本透監督が贈るヒューマン作『有り、触れた、未来』、2023年春の公開へ向け絶賛製作中

 今回、ご出演いただいた桜庭ななみさんと手塚理美さんは、台本を読み企画意図を聞いた際は、そのエネルギーを感じて、涙が出てきたと仰ってくれました。

――話は少し飛びますけど、山本監督をそこまで突き動かすものは何なんでしょう。
 山本監督は、若い頃から大林宣彦監督にすごくお世話になっていたそうで、その大林監督が亡くなる少し前にお会いした時、「(原爆が落とされた広島生まれの自分が)放射線治療を受けながら、生き永らえているなんて皮肉だろう? でも、私は映画を撮り続けるんだ。山本くんは、命があと3か月しかないと知らされたら、最後にどんな映画を撮る?」って聞かれたそうなんです。俳優仲間やお母さまを亡くしたこともありますが、それが、一番大きかったのではないでしょうか。

画像: ▲中央、青い服が山本監督

▲中央、青い服が山本監督

 私も、(この作品は)山本監督が撮るべくして撮った映画なんだろうって感じています。人もタイミングもお金も、すべてが必要な時に必要な場所に集まったのかなと。

 皆さんのおかげで、協賛金は制作目標金額の8000万円に達成しましたけど、作品の世界観を実現するためには、決して潤沢な資金とは言えないんです。ギリギリの予算の中、スタッフの皆さんが私たちの想いを汲んでくださって、1人1人が素晴らしい仕事をしてくれたと感じています。

――まさに、想いは叶うを地で行く話ですね。
 本当にそう思います。そうそう、視察で雄勝病院に行った時も、当時、病院で働いていて、(18年前の)映画にエキストラ出演してくださった方とお会いできました。震災当日は非番だったそうですが、同僚(医療従事者)の皆さんは患者を置いて逃げられないと、屋上に避難させたけど、10mを超える津波に飲み込まれてしまって……。高台が近くにあるので、逃げようと思えばできたはずなんだけど、それはせずに、最期まで職務を全うしたんだよ、という話を聞かせてくれました。そうした出会いにも運命を感じましたね。

――ところで、本作の原案となった舞木さんのお父さんの書籍は、どのようにして書かれたのでしょう。
 当時、父が教頭をしていた石巻西高の周辺は、宮城県の中で特に被害の大きかった地域なんです。学校(校舎)は、避難所に指定されているわけではなかったんですけど、周辺の人々が避難してきて、数百人の見知らぬ人たちの共同生活が急遽始まったことで、大混乱になったと聞きました。ただ、街は混乱していて、ほかに避難する場所もない。しかも、避難所運営のマニュアルもなかった、と。

 そうした現状を目の当たりにして、教頭だった父が率先して、地域の人たちや教職員、生徒たちと協力しながら避難所を運営していったそうなんです。ただ、そうした生活も、時間が経つとだんだんと人間関係にも綻びが出てきて、ギスギスするようになってしまったそうですが、それを変えてくれたのは、生徒たちの行動だったと言います。

 校庭で部活動(野球)をしたいという生徒と、こんな時に不謹慎だろうと心配する父の思いとは別に、避難してきた人たちは、元気に部活動をする姿を見て元気をもらったと笑顔が広がって、それまで暗く沈んでいた避難所の雰囲気が明るくなったと聞きました。生徒たちが明るく活動する姿を見た父は、本当の教育とは何なんだろうっていうことを考えるようになり、その時に感じたことや思ったことを、未来のために語り継いでいかなければいけない、という使命感を抱き、本に残そうと決めたと言います。

 加えて、生徒も11名(在校生9名と新入生2名)が犠牲になったことで、教え子を守れなかったという自責の念と喪失感に向き合うためにも、俺は死ぬまで語り継いでいかないといけない、と思ったそうです。

 その後、少しずつ復興が進むにつれて、地域や学校の状況もなんとか落ち着いていきましたけど、当時のことを思い出してパニックになる、いわゆるPTSD(トラウマ)を発症する子がいる中で校長になり、やがて、遅れていた学校の活動を再開していくことになったのですが、生徒たちにどんな言葉をかければいいのか分からず、遺体の仮安置所になった体育館にはなかなか入れなかったと言います。

 その後、文化祭のオープニングのときに、父の顔をモデルにした大きなモザイクアートがバーンと掲出されたそうで、よく見ると、生徒達の笑顔の写真で作られているのが分かって、もう涙が止まらなくなったと……。同時に、生徒たちの強さにも触れて。“ここで折れている場合じゃない!”って背中をガツンと押された感じを受けたそうで、定年後はそのモザイクアートを持って、震災の語り部として全国を回っているんです。子供たちのエネルギーはすごい、生命力はすごいって、日々私にも話してくれます。そういう生徒たちがいたっていうことを、私も語り継いでいきたいです。

画像3: 生きる力を届けたい。俳優 舞木ひと美と山本透監督が贈るヒューマン作『有り、触れた、未来』、2023年春の公開へ向け絶賛製作中

――ところで、キャストはどのように決めていったのでしょう?
 台本に合わせて1人ずつ、この役はこの子がいいなって、プロデューサーチームと監督とで話し合いながら決めていきました。

 桜庭ななみさんは、マネージャーさんも涙を浮かべながら話を聞いてくださって、“ぜひお願いします。むしろ光栄です”と快諾してくださいました。

 手塚理美さんは、“運命だと思うので、ぜひやりたい”と仰っていただきました。

 他にも、お名前は出していませんけど、たくさんの著名な方々(俳優)が賛同してくださって、出演していただいています。

――製作の現状は?
 4月に満開の桜のシーンを撮ればクランクアップです。公開は来年2023年の春を目途にしています。そこへ向けて編集作業を詰めていきますが、さらに宣伝費としてあと数千万円の資金が必要になるので、もう一度皆さんのお力をお借りできないかと、考えています。そうしてもう一つ、劇中劇として出てくる劇団の公演を、実際の舞台で実現させたいとも考えています。

――新たな目標は?
 来春の映画公開に向けての宣伝費を集めることと、子供たちへの無料上映会を開催したいと考えているので、クラウドファンディングをスタートしました。締め切りが4月28日(木)になるので、それまでUNCHAINメンバーを中心に映画撮影時のエピソードを生配信でお送りする日を設けて、さらに盛り上げていく予定です。

▼クラウドファンディングページ

――公開を楽しみにしています。では最後に、近々の舞木さんの活動のお知らせがあればお願いします。
 去年公開しました映画『あらののはて』に続き、主演・プロデュース作の撮影を4月に予定しているのと、主演映画『迷い家』が年内公開の予定になっています。よろしくお願いします。

映画『有り、触れた、未来』

2023年春公開予定

<キャスト>
桜庭ななみ、碧山さえ、鶴丸愛莉、手塚理美 ほか

<スタッフ>
監督・脚本:山本透
撮影:川島周
録音:岩丸恒(CSW)
美術:大原清孝
作曲家:櫻井美希
主題歌:「こどもの日」THE武田組
制作支援プロデューサー:角田道明
配給宣伝支援プロデューサー:和田有啓
製作:Lat-Lon
配給・宣伝:Atemo
協力:青い鯉のぼりプロジェクト
プロデューサー:UNCHAIN10+1(アンチェインイレブン:舞木ひと美、中里広海、高品雄基、横須賀一巧、永田直人、宮澤佑、ヒロシエリ、竹田有美香、藤白詩、平良太宣、龍真)
問い合わせ先:03-4500-4408/unchain0311shien@gmail.com

▼関連記事「映画『あらののはて』が8月21日に公開。主演「舞木ひと美」と共演の「眞嶋優」。この二人にしか出せない会話劇の妙を味わいたい」

This article is a sponsored article by
''.