これは、外観からするとフロアライフ志向の自立スタンド型液晶テレビというくくりになる。純白に近い明るいフレームと角張らない形状はリビング用途らしい。その惹句も〈テレビが動くとくらしが変わる〉という宣言になっている。昨今のステイホーム志向に合わせて、テレビを駆使してリモートワークや在宅生活を充実させよう、ということだろう。
とはいえ、もともと生活者目線を重視するのがパナソニック流製品企画の基本だ。チューナー別筐体とキャスター付きスタンドによる「レイアウトフリー」の仕様は、通常の映像鑑賞用としても生活空間となじみがいい。アンテナ端子に近い所に設置しなくてはならないという制限から解放され、表示部(モニター)は電源コードの接続のみでどこでもテレビ視聴が可能という身軽さだ。
チューナーとモニターは無線で結ばれ、無線LANの帯域(5G㎐推奨)を使用。個体ごとにあらかじめペアリングされている。家庭用テレビの4K無線伝送仕様は初めてだという。直線見通しで約35mの伝送が可能だが、障害物などで伝送困難な場合は無線ブロードバンドルーターで中継する方式が紹介されている。これは色々応用できそうだ。携帯端末との接続については直接ではなく無線LAN経由となる。またレコーダーなど他の映像機器との接続は表示部側にあるHDMI端子を使用する。チューナー部にあるHDMI端子は「設定用」だ。
チューナー部には2TBのHDDが搭載されていて録画はこちらで行なう。4Kチューナーを2系統、BS/CS/地上デジタルチューナー1系統で、4K放送を見ながら別の4Kと従来放送の裏録りが可能だ。ただし4Kの2番組同時録画はできない。
そして現代のレイアウトフリーテレビなので、映像ソースはテレビ放送や従来の映像メディアに限らず、プリセットされた配信系、ネットワーク動画系のアプリが豊富だ。
チューナー部とモニターとの伝送可能距離については、モニターを当誌視聴室の外の壁際に置き、防音扉を閉めてもまったく問題なく出画した。さらに5mほど遠ざけると受信レベル表示が最低付近となり出画に時間がかかるのでこの辺りが限界だろう。防音扉という障害物経由でも十全な性能を発揮するのはさすがだ。
ドルビービジョンにも対応
画質のレベルも上々だ
基本画質を放送映像で確認。大相撲中継を地上デジタルと4Kで比較すると、両者の雰囲気の差はほとんどない。画質モードは「スタンダード」のプリセット状態でほとんどいじる必要がなかった。バックライトは部分駆動なしだが「バックライトAI」が働き、試聴環境の明るさを織り込む「明るさオート」もよく働いている。
4Kだからといってむやみに細部の情報量やHDRの輝度レンジの広さを誇示したりしていない。しかしじっくりながめると土俵の砂色、行司装束の彩色の密着感、力士の体躯の充実感、遠くの観客の彫琢感など、やはり情報量の差は明らかだ。とはいえ品位は4Kに準じるものがあり、またIPS液晶パネルの利点により画面横端から眺めても階調性や色調は充分維持されていて見やすい。地上デジタルのテレビドラマも同様。4Kの精細感はないけれど、しっとり緻密に描写された画調であり、独自の見応えがあったりする。高度なAI処理や基本性能でおいしい絵に仕立てているわけだ。
UHDブルーレイについては鮮鋭感や細密感などもっと要求したくなることもあるけれど、色や階調の表現は高水準だ。そして『スティング』が印象深い。「シネマプロ」からバックライトとシャープネスを少し絞り、「明るさオート」は切る。この程度の調整でテクニカラープリントらしい印刷風の高濃度発色や無彩色部分のクールなタッチがよく再現されて感動ひとしお。また、配信系の『クイーンズ・ギャンビット』(ネットフリックス)ではドルビービジョン対応の強みを発揮して、濃密な陰影表現、暗部の微妙な浮き沈み加減がよく再現された。それと、配信映像のデータレートが表示されるのは結構な配慮だ。
スピーカーは画枠の下端に設置されているが、スタンド使用では開放空間に放射されるので聞きやすい音質であった。
このように基本画質が良好。また各種の映像ソースを自分の得意な領域に合致させる仕儀が好印象であった。電源コードの収納性や電源プラグの脱落対策なども含めて、身軽にして完成度の高い「レイアウトフリー」である。