人気のフィバーから待望のHDMI2.1ケーブル登場
8K/60pと4K/120p伝送を保証する48Gbps(ギガビット/秒)対応の光ファイバーHDMIケーブルがにぎやかになってきた。HiVi2021年4月号でワイヤーワールドの「ステラー」ケーブルをご紹介したが、同じ輸入元のナスペックから、HDMI2.1認証済ウルトラハイスピードHDMIケーブル、フィバー「ピュア3」が登場した。今回その2mと10mタイプを自室でじっくりチェックできたので、そのインプレッションを述べることにしたい。
Optical HDMI Cable
FIBBR Pure3 5月17日発売
● 型式:光ファイバーHDMIケーブル
● 対応帯域幅:48Gbps
● ケーブル径:5mm
● シェルサイズ:W45×H12×D20mm
● ケーブル曲げ半径:50mm
● 対応信号製品仕様:8K/60p、4K/120p 36bit(4:4:4)
● 仕様:HDCP2.3、ARC、eARC(10mまで)、HDR、HDR10+、Dynamic HDR、DSC(Display Stream Compression)対応
● 問合せ先:(株)ナスペック TEL 0120-932-455
ラインナップ
1.5m ¥44,000+税|2m ¥47,000+税|3m ¥50,000+税
5m ¥55,000+税|10m ¥73,000+税|15m ¥88,000+税
20m ¥103,000+税
フィバー(FIBBR)社は2019年に3種類の18Gbps対応の光HDMIケーブルを携えて日本上陸、あっと言う間にわが国のホームシアター市場を席巻したことは記憶に新しい。その性能の高さと値段の安さ、180度曲げても信号伝送が可能という取り回しのよさが歓迎されたからだろう。この3モデルの最上位機種がピュア2で、ピュア3はその後継モデルということになる。
フィバーはHDMIフォーラムの主要メンバーで、世界最大の光ケーブル製造会社であるYOFCとアジア最大手の半導体製造会社であるVIAテクノロジーズとの共同出資会社だ。YOFCによるフィリップス(オランダ)の光通信部門の買収がそのスタートで、光/電気変換通信チップを独自開発できる能力を持ち、光ファイバーケーブルも生産できる世界でも希有な企業のひとつというわけである。
さて、なぜ8K/60pと4K/120pのハイスピード伝送に光ファイバーケーブルが必要なのか。信号伝送に銅線などの金属導体を用いたHDMIケーブルでは、金属特有の内部抵抗による損失が生じ、4K(HDR)/24pのUHDブルーレイ再生時でも5mを超える長距離伝送時に、ときどき映像が乱れるケースがあった。実際にそのようなトラブルに遭遇された方は少なからずおられるのではないかと思う。
いっぽう光ファイバーは内部抵抗による信号ロスが事実上発生せず、どれだけ距離を伸ばしても大きな性能劣化は生じない。しかも広帯域伝送が可能なので、8K/60p&4K/120pを対象とするハイスピード長距離伝送においては、優秀な光/電気変換通信チップが採用された光HDMIケーブルが必要となるわけである。
ピュア3は従来同様180度曲げて使用できる。同社が「ベンド・ロバスト・テクノロジー」と呼ぶこの特性を備えたYOFC製グラスファイバーは、スリムで丈夫で曲げても折れない。しかも他社製品に比べて軽量なので、自重によって接続された機器のHDMI端子にダメージを与えることがないのである。
ピュア3のシェル・ハウジングは、ピュア2と同じ耐振動特性に優れるアルミニウム製。内部に装填された光変換通信チップは自社製ではなく、ワイヤーワールドのステラー同様、ドイツのシリコンライン社の高性能チップが採用されている。同社で48Gbpsに対応した光変換チップを開発中との声も聞いているので、いずれフィバー製チップを内蔵した光HDMIケーブルも登場するのではないかと思われる。ちなみにピュア2は、追加電力供給用として両端にUSBピグテールが付属していたが、ピュア3にそれはない。USBピグテールを用いずとも、充分な電力供給が可能となったのだろう。
① FIBBRオリジナルBend Robust光ファイバー(×4、FRL方式)
② ケーブルを保護/強化するケブラー高強度合成繊維
③ 映像/音声以外の低速信号伝送用メタル銅線(×7)+グランドライン
④ PVC(ポリ塩化ビニル)ジャケット
4K再生環境でもメリット大!細部表現とコントラストが違う
残念ながらわが家には8Kテレビも8K伝送ソース機器もないが、4K再生環境でも48Gbps対応のピュア3ケーブルを使うメリットがしっかりとリアルに体感できたことをまずご報告しておきたい。
パナソニックのUHDブルーレイプレーヤーのDP-UB9000とJVCのD-ILAプロジェクターDLA-V9R間を10mのピュア3で接続、オーエスの110インチ・スクリーン ピュアマットⅢシネマに投写して同じ長さのピュア2ケーブルと画質を比較してみた。
4KのUHDブルーレイ再生なのだから18Gbps対応のピュア2で充分、さほど大きな画質の違いは出ないのでは? とお考えになる方は多いかもしれないが、あにはからんや、断然ピュア3の再生がいい。たとえばUHDブルーレイ『1917 命をかけた伝令』の、草花が生い茂る長閑な野原を捉えたファーストショット。そのディテイル描写でピュア3は卓越した能力を見せるのである。引いたカメラが束の間の休息をとる二人の兵士をフォーカスすると遠景がきれいにぼけ、自然なパースプクティヴを伴なった立体感が醸し出される。兵士の頬の凸凹や彼がもたれかかる木の幹のダイナミックな描写もピュア2を大きく上回る印象だ。大画面スクリーン再生では、ピュア3の優位性はフォーカス感、ディテイルの掘り起こし能力にあると確信した次第。
次にピュア3の2m品を用いて、パナソニックの4KレコーダーDMR-SUZ2060と東芝の65インチ有機ELテレビ65X930をつないで、ネットフリックスの4K&HDRコンテンツ『マ・レイニーのブラックボトム』を観てみた。この作品の冒頭、南部の粗末な掘っ建て小屋から北部のゴージャスな劇場へとステージがワープするのだが、闇夜に灯された松明やステージに張りめぐらされた電球などがピュア3で見ると、じつに明るくヌケがいい。あざといくらいのHDR演出の妙味を強烈に印象づけるのである。また伝説のブルーズ・シンガー、マが身につけている宝飾品の輝きや色合いの豊かさにおいてもピュア3は卓越した表現力を見せた。プロジェクターに比べて断然明るさで優位な有機ELテレビにおいては、まずピュア3はコントラスト表現でそのよさを訴求することがわかった。
ソース機器は主にパナソニックのUHDブルーレイプレーヤーDP-UB9000(Japan Limited)を使った。メイン(映像)HDMI出力を映像機器に、サブ(音声)HDMI出力をデノンのAVセンターAVC-A110につなぐセパレート出力としている。なお、前モデルPure2は補助的な電力供給用USBが備わっていたが、Pure3は追加給電が不要になっている点も見逃せない進化だ
映像機器は、プロジェクター(JVC DLA-V9R)+スクリーン(オーエス ピュアマットⅢシネマ/110インチ)と4K有機ELテレビ(東芝レグザ65X930)の2種類でチェックしている
65X930は7系統の18Gbps対応HDMI端子を備えているが、フル12ビット処理になるのは、HDMI1〜4の4系統だという。今回はHDMI入力1にPure3 HDMIケーブルをつないでいる
2m品で音をチェック立体的な音場感表現に驚く
では音はどうだろうか。UB9000とデノンのAVセンターAVC-A110間をピュア3の2m品でつないで、これまで使ってきたワイヤーワールド製メタルケーブル(7シリーズ/1m)と比較してみよう。再生したのは、ヴェルディのオペラ『イル・トロヴァトーレ』のUHDブルーレイ。ネトレプコとエイヴァゾフ夫妻が共演した、アレーナ・ディ・ヴェローナ音楽祭の模様を収録した作品だ。ピュア3は、音のよさで長年愛用してきたワイヤーワールド製を凌駕する音を聴かせ、ぼくを驚かせた。なんといっても音場感が豊かなのである。野外ならではの広々としたイメージが得られると同時に、よく伸びるテノールとソプラノが立体的に軽やかに表現され、その味わいの深い音に声もなく聴き入ってしまった次第。ワイヤーワールド製メタルケーブルは、オーケストラの低弦の押し出しのよさなどに独自の魅力を感じるが、ピュア3と比較すると、音場が狭く歌や演奏が軽やかに広がって行かない憾みが残ってしまうのである。
伝送帯域の広さと外部からの電磁干渉にたいして高い耐性を持つ光ファイバーケーブルの利点が、この高音質に結実しているのだろうか。同じメタルケーブルとピュア2を音質比較したときもワイドな音場再現でピュア2が好ましいと感じたが、ここまでの差は実感できなかった……。
4K再生環境でも破格の表現力を見せ聴かせたピュア3、わが家の常用HDMIケーブルとして使っていこうと決心した今回のテストだった。
柔らかくしなやかなというフィバー光HDMIケーブルの美点は従来からそのまま受け継がれている。余計なストレスをかけずに配線できることは、クォリティ面と並ぶ光HDMIケーブルの重要なメリットだ