Harmony of bird
─── ステムデータをe-onkyo musicで販売することになった経緯を教えてください。
藤本健： e-onkyo musicさんでのステム配信第1弾であった、アニソンシンガーYURiKAさんの「REUNION」は、私が運営しているメディア「DTMステーション」でも、取材をさせていただいていて、その時から、ステムデータの配信については個人的に面白い試みだと思っていました。
その取材の時に、担当のe-onkyo musicの長田さんより、第2弾以降のアーティストや楽曲を探しているという話をうかがっていました。私自身「DTMステーション Creative」というインディーズレーベルを運営しており、そちらの作品であれば、ステムデータの配信が可能なのではと思い、関係各所、そしてアーティストである小岩井ことりさんに声をかけさせていただきました。
藤本健さん
小岩井ことり：普段から藤本さんは色々と面白い企画を持って来て下さるので、今回の話もとても面白いなと（笑）。後は事務所がOKならぜひやりましょうと返事をしました。。
小岩井ことりさん
藤本健：ステムデータの配信という企画に興味を持ったのは、購入した人がそのステムデータを自身で遊んでお終いじゃなくて、2次創作物をYouTubeなどに公開してもOKという点です。メジャーレーベルの作品などでは、それはあり得ないだろうと。
小岩井ことりさんもメジャーで活躍しているので、メジャーレーベル側の作品は難しいでしょうが、『Harmony of birds』に関して言えば原盤権は我々が持っているので、それであれば可能性はあると思い、小岩井ことりさんの事務所などに許可をいただき、配信することが決まりました。
JASRAC | 利用許諾契約を締結しているUGCサービスの一覧 | 2021年2月4日更新
─── ステムデータを販売することになった時に思ったことを教えてください。
小岩井ことり：実は普段から、藤本さんとは楽曲作りの時にステムデータのやり取りをしていたので、ステムデータには馴染みがありました。なので、藤本さんがやりたい事であれば、喜んで協力したいと思いました。
─── 小岩井さんは、普段からDTMなどでステムデータに馴染みがあるそうですが、ステムデータとはどのようなデータですか？そしてステムデータを使ってどんな事ができますか？
小岩井ことり：ステムデータとは簡単に言うと、ドラムならドラムだけ、ベースならベースだけ、ボーカルならボーカルだけに別れた音源データになります。私たちも曲を作る時には、それらのデータをミックスと言って、ベースをどれくらい大きくしよう、ボーカルをどれくらい大きくしようと調整して重ね合わせて曲にして行きます。
DTMをされる方は、それをご自分で調整してオリジナルのミックス音源を作ることが出来ます。また、各パートをバラバラにしたからこそ、一つの楽曲の中では聴き取りづらい点を個別に聴いてもらう事もできます。各楽器の演奏の細かな点や、ボーカルの細かなニュアンスなどを聴き取ってもらい易くなると思います。他にも、私はDJとかもやるのですが、ステムデータのトラックだと曲と曲とが繋ぎやすくなったりするかもしれませんね。
─── ステムデータの作成・販売で難しかったところや、心配な点などありましたでしょうか。
藤本健：今回販売するステムデータを使って、妙な作品を発表された時にどうしようかなという心配は少しありました。ただ、すでにYURiKAさんの前例もありましたし、今回の挑戦で面白いものが出てきてくれた方が我々にとってもメリットがあるかなと。
『Harmony of birds』に関して言えば原版権は我々が持っていますし、小岩井ことりさんと事務所側でOKが出さえすれば販売はできるので、それなら挑戦しようと思いました。
あと、今回の楽曲「ハレのち☆ことり♪」に関して言えば、多田彰文さんに作曲・アレンジをお願いしていましたので、ご本人にもご相談したところ、快く許可をいただきました。
─── 因みに、多田彰文さんは今回のステムデータの配信については何か仰っていましたか？
藤本健：そんなに沢山出るとは思えないけど、面白いんじゃないかなと言われました（苦笑）
─── 『Harmony of birds』のステムデータの特長や聴きどころなどを楽曲ごとに教えてください。
▼ハレのち☆ことり♪
小岩井ことり：こちらは多田彰文さん作詞・作曲の楽曲なので、あまり私から細かく説明は出来ないのですが、長い間第一線で活躍されているプロの作家さんならではの、楽曲としてバランスの良さがあると思います。
─── バランスの良さとは？
小岩井ことり：作曲が上手い人の楽曲だと “慣れてる感” や “安心感” があるんです。各パートの音色の選び方も上手ですし、ミックスをしなくてもそもそものパートのバランスが良いです。
私たちは “要素が詰まっている” と表現したりもするのですが、音域などをイコライジングなどで調整をしなくても、各パートが綺麗にバラけていて、それらを一つに合わせた時にしっかり埋まって聴こえるんです。
─── それぞれの楽器のパートだけだとバラバラで、無音部分などを含めた演奏の空きなどもありますが、それらを一つにまとめた時には、きちんとまとまって聴こえるという感じでしょうか？
小岩井ことり：はい、そういう感じです。
小岩井ことり：落ちメロ（楽器の音量を極端に落としてボーカルを際立たせたりする部分）で音数が少なくなる部分でさえも、ボーカルの邪魔にならない帯域でしっかりと埋まっていることが多いんです。
藤本健：「ハレのち☆ことり♪」のステムデータは、楽曲ごとに10パート（クリック音「テンポを取るための音」を含めると11パート）に分かれているのですが、そもそも元のトラック数はもっと莫大にあります。それを多田さんにお願いして、系統ごとに10パートにまとめてもらっています。
アマチュアの方の楽曲だと、パートごとに、ここら辺の音が大きいからここを下げて、逆にこちらの音が出てないからこちらを上げてなど、イコライジング作業をエンジニア側で行うのが普通です。多田さんのようなプロの作家さん達の楽曲作りが上手なところは、パートごとにそれぞれの瞬間の音が、どれもがバランスが取れていて抜けがないところです。
最終的にボーカルが加わっても、丁度よくボーカルも聴こえるように、周りの音を配置してくれています。そういった楽曲としてバランスの良さが、安心感に繋がっていると思います。
小岩井ことり：多田さんの楽曲はデモで頂いた段階から既に安心して聴けていました。
─── ボーカルに関しては、エフェクト（リバーブ）の無いパートと、エフェクトが掛かっているパートの2種類がありますよね。
藤本健：その部分に関して言えば、本当にプロを目指している方であれば、エフェクト付きのパートはいらなかったかもしれません。
しかしまったく初心者で、エフェクトも自分で掛けなければCDの音が再現できないとなると、それは少し厳しいかなと。そのため、エフェクト付きのパートも用意しました。これをお手本にして、DTMなど自分でエフェクトを掛けて試してもらうのが良いと思います。
小岩井ことり：そういったプロの作家さんの技術や特長を、ステムデータなら自分で一つ一つ解析しながら聴くことが出来ます。作曲など勉強をしている方には、めちゃくちゃ良い教材になると思います。音楽系の専門学校の皆さん、ぜひ買ってください（笑）。
藤本健：買ってください（笑）。
小岩井ことり：「ハレのち☆ことり♪」のステムデータは、絶対聴いた方がいいです。アマチュアとは明らかに違う、プロの人が作る楽曲の違いが理解できるはずです。
今の時代ですから、音楽が良く分からなくても様々なソフトで作曲も出来ますが、「ハレのち☆ことり♪」を聴いて、多田さんの作る楽曲の素晴らしさや、素敵なハーモニーの部分などを学んで欲しいと思います。アニメやドラマなどの劇伴作家として第一線で活躍するプロの、丸裸の楽曲が楽しめるのは本当に凄いことです。
▼運命の輪を廻す者 XX
小岩井ことり：こちらは私が作曲・アレンジした曲です。藤本さんから何作ってもいいよと言われていたので、そんなチャンスは滅多に無いので、当時はまっていた物語音楽を作ってみようと思って作った曲です。
藤本健：制作時の経緯を少しお話させていただきますと、このCDは2018年12月30日のコミケ（コミックマーケット95）で販売することが決まっていました。CDのプレスから逆算すると1ヶ月半くらい前にボーカルのレコーディング日が決まっていたのですが、前日の段階になっても小岩井ことりさんから何もいただけなくて…（苦笑）。
結局ボーカル録音の当日になってもしっかりしたオケも無く、そのままボーカル録りを行うことになりました。小岩井ことりさん本人の頭にはしっかりした音が流れていたんだと思うのですが、我々側にそれが伝わらず、めちゃめちゃ心配していました。
小岩井ことり：えへへへ。私、いつもそうなのですが、ボーカル録りの段階では、オケとか無くても歌えちゃうんです。それこそ、カッカッカ、のクリック音だけでも歌えるんです。自分の中では完成している伴奏が聞こえているので（笑）。
結局この時も、簡単なメロディとリズムしか無かったと思います。そのままある程度のボーカルは録ってもらいました。更にもっと加えたい部分もありましたが、それは編曲をした後じゃないと良く分からないので、残りは自宅で作業を行いました。
─── 現代音楽の作曲家みたいですね（笑）
藤本健：小岩井先生の頭に全てはありますという状態だったので（笑）。最後の最後まで心配でした。
小岩井ことり：作詞も作曲も編曲もボーカルも全部自分で行ったので、人に伝える必要が無かったんです。自分の中で出来ていればOKなので、大丈夫かなと。
藤本健：小岩井ことりさんには「大丈夫です！」と言われるのですが、「本当かい？？？」という状況でした（苦笑）
小岩井ことり：はははは。
小岩井ことり：「運命の輪を廻す者 XX」の世界観に関しては、コミケでの発売時には皆さんにストーリーを想像してもらいたかったので詳しくは言わなかったのですが、実はタロットカードをお話の元にしています。
この曲は、吟遊詩人と、翼を持った少女と、機械工の3名がメインに出てくるお話なのですが、タイトルに「XX（20）」と数字が出ているように20番目の話になっています。吟遊詩人がタロットカードの数だけ不幸な話を集めていて、その中の一つの話がこの曲という作りになっています。でも、この話誰にも伝わっていないので、今日初めて具体的な話をしたかもしれません（笑）。
─── 小岩井さんが作曲・アレンジした「運命の輪を廻す者 XX」のステムデータですが、どうやって楽しんでもらいたいですか？
小岩井ことり：それこそ、曲作りや音色選びに関しては、多田さんの作曲した「ハレのち☆ことり♪」に敵うはずもありませんが、色々と私が演じ分けたボーカルの声や、セリフなどが入っている物語風の少し変わった楽曲という面白さがあると思います。
楽曲では聴き取りづらかった部分が、個別のステムデータだと、何と言っていたのか聞き取れるでしょうし、それこそどんなストーリーだったかが解き明かせると思います。そういう楽しみ方をしていただけるはずです。
─── 全ての声を、小岩井さんが演じているのですよね？
小岩井ことり：はい、そうです。ガヤの部分のお婆さんや、いやみな女性などまで全て演じています。ガヤなので、楽曲中では聴き取りづらかったかもしれませんが、そういった部分でさえもステムデータなら、聴き取れると思います。
ストーリー的には、翼を持った人々の暮らす国で、片翼を失った少女が迫害されながら生きてゆく話なのですが、そういうストーリーも分解しながら聞くと、よく理解できると思います。
─── 「ハレのち☆ことり♪」の、作曲のテクニックなどを楽しむという方向とは、また少し異なる楽しみ方が出来ますね。
藤本健：こちらに関しては、小岩井ことりさんからCubase（Steinberg社製 DTMソフト）のプロジェクトデータをもらって、僕の方でステムデータを作成しました。吟遊詩人、翼を持った少女、機械工のメインキャストに関しては、個別にボーカルとセリフのステムデータを用意しましたので、このストーリーの世界観もよく伝わると思います。
あとステムデータ作りで、少し興味深かったのが、この曲では雷の音などSE音をかなり駆使して作られています。これらの音は基本的には素材集の音なので、そのままステムデータとして使うのは使用規約上NGでした。そこで、SEだけ取り出せないように、バックの音に重ねながらステムデータを作ったり工夫をしたりしています。
─── 今回のステムデータの販売で、購入者に期待することはありますか？
小岩井ことり：やはり、自分なりのミキシングをしたり、原曲とは異なるアレンジなどして楽しんでもらいたいですよね。楽曲としては極端に方向性の異なる2曲なので、それぞれ創造性も刺激されるのではと思っています。
音楽素材として考えても、それぞれのステムデータを自分で作ろうと思うと大変なので、こちらのステムデータを使ってもらえればと思います。やはり作曲を学ばれている学生さん達には、ぜひ聴いてもらいたいですね。
藤本健：今回はステムデータと共に、歌詞カードはもちろんですが譜面もお付けしています。2曲目の「運命の輪を廻す者 XX」を、バンドスタイルで演奏するような人は出てこないと思うのですが、万が一出てきたら面白いですよね。
小岩井ことり：語りも含めてやってくれる人がいたら凄いですよね。今回のステムデータの販売で、私たちの想像を超える作品などが出てくるのが楽しみです。
─── 声優業はもちろんですが、弊社でのピュアオーディオへの挑戦や、インターネットラジオ、ASMR、さらにはメタル・バンドへの参加など、音に関する様々なことに挑戦していますが、小岩井ことりさんにとっての「音」とはどういうものですか？
小岩井ことり：もともと研究者気質というか、いわゆるオタク気質で、何かを突き詰めて勉強することが大好きでした。その中でも特に音に対して深い興味があって、大学に行っていたら多分音について研究していたと思います。結果的には今は声優をさせていただいていますが、その他にも歌やASMRなど音に関するチャレンジを沢山させていただいていて、日々楽しく仕事をさせてもらっています。音に興味があるおかげで、人生を切り拓けていると思っています。なんとなく気分が晴れない時でも、素敵な音を聴くと元気になったりしますし、私にとって音は生活の中心、人生の中心にあるものですね。
今回のステムデータに関して言えば、単独の歌声などを皆さんに聴いてもらうのは、実は少し恥ずかしいところもあります。でも、皆さんの役に立つのであれば、発表して聴いてもらった方がいいかなという気持ちです。私自身も作曲など、人に教わった部分も多いですが、自分自身で世に出ている様々な曲や音を聴いて学びました。そういう風に今回のステムデータを使って、皆さんにも学んでもらいたいですし、そこから私自身も刺激をもらって、音の世界を更に追求して行きたいです。
小岩井ことりさん プロフィール
声優、作詞家、作曲家。MIDI検定1級、講師資格も所持。
声優としてTVアニメやゲームなど幅広く活躍、DTMやイヤホンなど音楽機器にも詳しい。自身がコラボレーションをしたイヤホンは、クラウドファンディングサイトで1億6千万円以上もの支援を獲得。全人口の2%のみが入ることの出来る高IQ団体であるMENSAの会員でもある。「のんのんびより」宮内れんげ、「七つの大罪」エレイン、「アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ」天空橋朋花、「白猫プロジェクト」フランほか多数。
小岩ことり Twitter
https://twitter.com/koiwai_kotori
小岩ことり 公式サイト
http://pg-wcf.co.jp/profile/04/
小岩井ことりofficial YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UClDfVHJxrsGTq61MJp55s3Q
kotoneiro｜小岩井ことりプロデュース ASMR音声レーベル公式WEBサイト
https://www.kotoneiro.com/
リツイートキャンペーン開催！小岩井ことりさんサイン色紙を3名様にプレゼント
【期間】
2021年3月23日〜2021年4月5日
【応募の手順】
1. ご自身のTwitterアカウントでStereo Sound ONLINEの公式アカウント「@StereoSound_inc」をフォロー
2. キャンペーン対象投稿をリツイート
【当選発表】
キャンペーン期間終了後に、厳正な抽選の上当選者を決定いたします。当選者様には公式TwitterアカウントからTwitterのダイレクトメッセージで、当選のご連絡させていただきます。
藤本健さん プロフィール
DTM、デジタルレコーディング、デジタルオーディオを中心に執筆するライター。インプレスのAV Watchでも「Digital Audio Laboratory」を2001年より連載。自身が運営する「DTMステーション」では、DTM関連の記事を初心者にも分かりやすく伝えている。「Cubase 徹底操作ガイド」（リットーミュージック）、「ボーカロイド技術論」（ヤマハミュージックメディア）などの著書も多数。
DTMステーションについて
https://www.dtmstation.com/
藤本健 Twitter
https://twitter.com/kenfujimoto
藤本健のDigital Audio Laboratory
https://av.watch.impress.co.jp/docs/series/dal/index.html
