コロナ禍の影響で休止となっていた『ボヘミアン・ラプソディ』の特別上映が、劇場再開に合わせて復活。12月24日のクリスマスイブに、スペシャルナイトとして、ロックデュオ“ラブ・サイケデリコ”のNAOKIさんの舞台挨拶付き上映として行なわれた。

 ここでは、TOHOシネマズ日比谷をはじめとしたシアターで音響監修を務めたNAOKIさんによる映画音響の解説をまじえて、上映が行なわれたTOHOシネマズ日比谷スクリーン1の音響について紹介していこう。

 TOHOシネマズ日比谷は、東京ミッドタウン日比谷内にある11スクリーン、東京宝塚ビル地下にある2スクリーンを持つ映画館。なかでもスクリーン1は、劇場前面の端から端まで壁一面がスクリーンとなる独自の巨大スクリーン「TCX(TOHO CINEMAS EXTRA LARGE SCREEN)」を備えた。座席数456席+(車椅子用3席)を備えた巨大なシアターだ。

画像: TOHOシネマズ日比谷で『ボヘミアン・ラプソディ』特別上映復活!! クリスマスイブの夜に行なわれた舞台挨拶付き上映の模様をレポート

 もうひとつの特徴は、「カスタムオーダーメイドスピーカーシステム」の導入。イースタンサウンドファクトリーとジーベックスのコラボレーションにより、劇場に合わせて設計されたカスタムスピーカーによる音響となっている。この音響システムの音響監修を行なったのが、ラブ・サイケデリコのNAOKIさんだ。

 上映の始まる前にNAOKIさんが登壇し、スクリーン1の音響について軽く紹介。NAOKIさんが監修した映画館は、TOHOシネマズの日比谷のほか、立川や池袋といった比較的最近オープンしたシアターだ。そもそもの経緯が、「TOHOシネマズで観た『ボヘミアン・ラプソディ』に感動し、自分のライブでもこの音でやってみたいと思った」ことがきっかけだという。その後、ラブ・サイケデリコのライブで同じスペックを持つスピーカーを実際に使用し、その縁でTOHOシネマズでの音響監修がはじまったという。

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「大好きな日比谷のスクリーンで、自分が関わることができてうれしいです」(NAOKIさん)

 「カスタムオーダーメイドスピーカーシステム」についても紹介してくれた。一般的な映画館のスクリーンは、スクリーンサイズに合わせて、組み合わせるスピーカーや音響システムがあらかじめ決まっている。ひとつひとつ個別に設計したのではコストが過大になってしまうためだ。あらかじめ音響を含めて設計済みのため、完成後のクオリティも一定のレベルを保つことができる。

 しかし、「カスタムオーダーメイドスピーカーシステム」では、さらに上質な音響を求めてカスタマイズを行なったという。

 「スクリーンに合わせて、スピーカーや音響システムをイチから構築して設計しています。シアターの表現力をさらに高めるために僕も参加しています。そのため、日比谷も立川もそれぞれ違った音に仕上がっています。ぜひ、シアターによる表現力の違いを確かめてみてください」(NAOKIさん)

 シアターの音響システムは、7.1ch構成。最新のドルビーアトモス対応の音響システムのような、天井へのスピーカー配置は行なわれていない。この点について、スタンダードな音響システムでさらに一段階上のレベルの音響を作り上げたという。

 「音響フォーマットはどんどん進化していますが、その後の流行によって衰退することもあります。5.1chや7.1chは音響システムのスタンダードですから、古い映画から最新の映画まであらゆる作品の上映に対応できます。映画館としても10年経っても古びることはありません。そんなスタンダードな構成でさらに上のレベルを追求しました。終盤の「ライブ・エイド」の音響も素晴らしいですが、エンドロールの音にも注目してください。スタジオ収録の音が鮮やかに甦っています」(NAOKIさん)

歌声をはじめ、ギターやベース、ドラムスの音が分厚く、ライブ感たっぷりの音

 そして上映。20世紀FOXのタイトルが現れ、いつものフレーズがエレキギターの演奏に置き換わっている。これだけで、タダモノではない音の良さがわかる。ギターの音が濃密で、音の勢いの良さ、エネルギーたっぷりの鳴り方はライブ会場にいるかのようだ。作品そのものは多くの人がすでに見ていると思われるが、伝説的なバンドであるクイーンの活躍を、事実を織り交ぜながらも、映画として見応えのある物語として再構築した作品。大きな魅力は、クイーンのメンバーが乗り移ったかと思うような俳優達の熱演と、臨場感あふれる演奏シーン。スタジオでの収録、テレビでのライブ、ライブステージとさまざまな場面が素晴らしい演奏で再現されている。

 歌声やドラマ部分でのダイアローグが、厚みのある力強い音で再現されるので、歌詞も明瞭に聴こえるし、パワフルな歌唱が劇場内にダイレクトに届く。中音域の密度が高いので、歌声だけでなくバンドの楽器の音も厚みのある音になる。サブウーファーの低音も、大きな会場に集まった観衆の声の熱狂や楽曲に合わせて足を踏みならすときの地響きを力強く鳴らすが、前方にあるフロント(左右)とセンターの音も低音がしっかりとしているので、低音が重厚。アクション映画ではないので、爆発音がズシンと響くような派手さはないが、そのぶん、ドラムスのパワフルで勢いのある鳴り方、ベースの弾力感たっぷりの音を実に魅力的に響かせる。

 一番感心したのは、サラウンドスピーカーを含めた音響空間のまとまりの良さ。上映時に座った席は後方寄りで、左右の位置も中央よりも右側にオフセットした席だ。普通の映画館だと、真横や後ろにあるサラウンドスピーカーの音が大きくなりすぎてバランスの悪い音響空間に感じがちで、これは、大きな空間にたくさんの座席がある映画館ではなかなか解決が難しい点。

 しかし、ここでは音響空間のバランスが崩れることはなく、右側や後ろ側の音が大きめではあるが、左側の音もきちんと聴こえるし、それらの音が前方のフロント(左右)とセンターの音がきれいにつながって、音に包まれるような感覚になる。

画像: 『ボヘミアン・ラプソディ』(C) 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.

『ボヘミアン・ラプソディ』(C) 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.

 上映音声は、ドルビーアトモスから7.1chにダウンミックスしたものだと思われるが、雨の降るシーンでは自分の周囲に雨が落ちているような感覚になるし、ステージ上にいるクイーンのメンバーのパフォーマンスは、スタジアムの高さ感のある再現だし、周囲の観客の声も四方から良好な定位で取り囲む。映画館のしかも中央からオフセットした席でこれだけの空間表現ができていることには、ちょっと驚いた。

 エンドロールの音はスタジオ収録のステレオ音源で、それまでのサラウンド感とは違う感触。映画としてはさみしいが、オリジナルのクイーンの演奏だし、劇場の音の良さもあってかなり聴き応えがある。基本的な音質の実力の高さがはっきりとわかるものになっている。

一体感のある空間再現の秘密は、極めて厳重なスピーカー距離の調整

 大興奮のまま上映が終わり、再びNAOKIさんが登壇。作品についての感想や思い入れを語った後、映画館の音について詳しく解説してくれた。

 映画館では、スクリーンの裏にフロント(左右/LR)とセンター(C)のスピーカーがあり、重低音を担当するサブウーファーはスクリーンの下の部分に隠されている。サラウンドスピーカーは左右の壁にあり、これだけは実際に見ることができる。上映が行なわれたスクリーン1の場合、左右の壁にそれぞれ6個のスピーカーが設置されている。

 「最新の映画は、サブウーファーのもの凄い低音を活かした作品が増えています。重低音が自慢の映画館も多いのですが、作品によっては逆に低音が物足りないと感じることがあります。これは、フロント(左右)とセンター、サブウーファーのセットで重低音から低音・中音・高音のバランスを調整していることが原因のひとつです。

 古い映画やスタジオ・ジブリの映画は5.0chや7.0chで、サブウーファーから音は出ません。そんな作品だと、低音が足りなく感じてしまうことがあるのです。また、クリストファー・ノーラン監督は、映画館によってサブウーファーの実力に差があることが多いので、あまりサブウーファーには頼らず、フロント(左右)とセンターにしっかりと重低音を入れています。

 スクリーン1もサブウーファーの重低音のパワーはしっかりと調整していますが、こうした映画で不足がないようにフロント(左右)とセンターの音だけでも力強い音が出るような調整を行なっています。どんな映画にも合うチューニングです」(NAOKIさん)

 これが、ライブの迫力そのままと言えるほどのパワフルな音の秘密だったのだ。

 「また、映画館の座席によっては、かなりの大音量のはずなのに隣の人と会話できてしまうことがあります。映画館にはたくさんのスピーカーがあるので、それらの音が一斉に出るときに互いに打ち消し合ってしまうこともあるのです。これを解決するには、スピーカーの距離を厳密に測定して調整することが重要です」(NAOKIさん)

 NAOKIさんの説明によると、音は1秒で約340m先に届くので、スピーカーから出る音がわずか1/1000秒ズレても、それは34cmの差になる。1/100秒のズレは誰でも気付くレベルだそうだ。そこでスクリーン1では、スピーカーからの音の到達時間のズレを厳しく調整しているという。それは1/1000秒どころか、1/10万秒以下までズレないように調整しているとのこと。映画館の音響システムには、スピーカーごとの距離の差を補正(理想は各チャンネルのスピーカーの距離が等距離となること)する機能があるが、デジタル処理による補正だけでなく、実際に耳で聞いて確かめて調整を行なっているそうだ。

 ホームシアターでも、各スピーカーの距離をAVアンプに入力して、距離による音のズレを調整する機能があるが、サイズとしてはホームシアターよりも桁外れに大きな映画館で、同様かそれ以上の精度でスピーカーの距離や音の到達時間のズレを調整しているというわけだ。それが、映画館とは思えないレベルのサラウンド空間の再現や各スピーカーの音のつながりの良さの秘密だったのだ。

 「ここまでのレベルの調整は機械を使って自動でできるものではありません。人間の力できちんと調整しないと合わせることができません。それをやっているのは、他にはあまりありません。だから、大音量なのに細かな音までクリアに聴くことができるんです」(NAOKIさん)

 TOHOシネマズの「カスタムオーダーメイドスピーカーシステム」の音の秘密をじっくりと解説し、音はもちろん、映画についても愛情たっぷりのトークを披露して、NAOKIさんの舞台挨拶は終了。映画館が好きな人にとっても、ホームシアターを実践している人にも大いに参考になる手法だと思う。実際、筆者も自分の視聴室で改めてスピーカーの距離をできるかぎり精密に測定してみようと思った。すべてのスピーカーの距離を等距離にはできなくても、左右の距離は精密に揃えた方がいい。スピーカーの距離の補正もAVアンプ任せではなく、実際にスピーカーをミリ単位で動かして調整することも重要になるだろう。

 古い映画から最新の映画まで、どんなジャンルの映画も、より優れた音で楽しめる。そんな理想的な音響を目指したTOHOシネマズ日比谷のスクリーン1。映画館の音にこだわる人ならば、ぜひとも実際のその音を聴いてみてほしいシアターだ。

プレミアムサウンドムービー特集

2020年12月25日~2021年1月7日まで実施
上映作ラインナップ
・「ボヘミアン・ラプソディ」
・「グレイテスト・ショーマン」
・「劇場版 うたの☆プリンセスさまっ♪マジLOVEキングダム」
・「ラ・ラ・ランド」
・「美女と野獣」

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