LB-Acousticsから発売されたオープン型ヘッドホン「MYSPHERE 3」は、独自のダイナミック型ドライバーを採用した高級モデルだ。ドライバーを内蔵する部分はサウンドフレームと呼ばれ、一般的なヘッドホンのように耳を覆うのではなく、頭部に装着するヘッドバンドの両端からぶら下がった形となる。

 この独得のスタイルを持ったMYSPHERE 3に、交換用クッション「Soundframe-Cussions」が登場した。クッション内のアコースティックなフィルターを替えることで音をチューニングできるという提案で、製品の魅力がいっそう高まる。今回は、そんな交換用クッションによる音質の違いをリポートする。

LB-Acoustics オープン型ヘッドホン「MYSPHERE 3」交換用クッション
「Soundframe-Cussions」 ¥60,000(ペア、税抜)

「Standard(スタンダード)」…… 中庸のバランス
「Transparent(トランスペアレント)」…… 音色重視のクラシック向き
「Base(ベース)」…… 20Hz〜700Hzの耳元での音圧を10dBアップさせる

画像: 「MYSPHERE 3」の交換用クッションは、3種類をラインナップ。写真左が従来モデルに付属していた「Standard(スタンダード)」で、中央が「Transparent(トランスペアレント)」、右が「Base(ベース)」。パッドの内側の素材や形状を変えることで、アコースティックに音をチューンする仕組みだ

「MYSPHERE 3」の交換用クッションは、3種類をラインナップ。写真左が従来モデルに付属していた「Standard(スタンダード)」で、中央が「Transparent(トランスペアレント)」、右が「Base(ベース)」。パッドの内側の素材や形状を変えることで、アコースティックに音をチューンする仕組みだ

画像: クッションはサウンドフレームに2箇所のピンで固定されており、ここを外すだけで簡単に交換できる

クッションはサウンドフレームに2箇所のピンで固定されており、ここを外すだけで簡単に交換できる

この開放感と音場の広がりは、ヘッドホンの概念を超えている

 まずは、おさらいとしてMYSPHERE 3の音を確認した。ハイレゾ音源はMac Book Proを使ってAudirvanaで再生。USB出力した信号をCHORDのポータブルD/Aコンバーター「Hugo2」でアナログ変換した。CDやUHDブルーレイは、パナソニックDP-UB9000のアナログ出力をFeliks Audioのヘッドホンアンプ「Euforia」に接続している。

 まず感心したのは、ヘッドホンとは思えない音場の広がりだ。ドライバーの前後から音が出るオープン型で、しかもハウジングが耳を覆わないので、その開放感は別次元。テオドール・クルレンツィス指揮ムジカ・エテルナによる『ベートーベン/交響曲第5番』を聴くと、目の前にオーケストラのステージが広がり、ホールに音が響く様子までまざまざと再現される。頭内定位にならないこともあり、スピーカーで音楽を聴いているような感覚になる。

 音色は不要な色づけを感じさせないし、きめ細やかで色彩感豊かな中域から高域、厚みのある低域まで、フラットなバランスだ。しかもカリカリの高解像な感じではなく、自然で穏やかなトーンだ。さらにクルレンツィスらしいテンションの高い、切れ味鋭い演奏をよどむことなく描く反応のよさも備えている。

 女性ヴォーカルでは、声の強弱のニュアンスや表情の変化が豊かでうっとりとしてしまう。音場の広さを追究するヘッドホンは、個々の音像がややぼんやりしがちだが、MYSPERE 3は芯の通った音像をきちんと立たせながら、全体の響きも広々と描き出す。

オープン型ヘッドホン LB-Acostics MYSPHERE 3
¥540,000(税別)……MYSPHERE 3.1またはMYSPHERE 3.2どちらかを指定
¥700,000(税別)……ふたつのサウンドフレームが同梱
¥250,0000(税別)……サウンドフレーム単体
※交換用クッションは、購入時に3種類からいずれかひとつを指定する

●使用ドライバー:40×40mmダイナミック型
●振動板:角型、グラスフォーム使用
●トランスデューサータイプ:ダイナミック型
●感度:96dB/m/W(RMS = 115 dB SPL/V eff.)
●最大入力電力:60mW
●定格インピーダンス:15Ω(MYSPHERE 3.1)または110Ω(MYSPHERE 3.2)
●再生周波数帯域:20Hz〜40kHz(-10dB)
●振動板:角型、グラスフォーム使用
●メンブレン保持範囲:4mm
●質量:345g(ケーブル除く)

画像: 「MYSPHERE 3」はサウンドフレームも2種類準備され、ここでも音の変化を楽しめる。取材では写真左下のアステル&ケルンの携帯オーディオプレーヤー「SP1000」とも組み合わせている

「MYSPHERE 3」はサウンドフレームも2種類準備され、ここでも音の変化を楽しめる。取材では写真左下のアステル&ケルンの携帯オーディオプレーヤー「SP1000」とも組み合わせている

 なお、耳元にぶら下がるサウンドフレームは、位置や角度を微調整可能。好みにもよるが、サウンドフレームの中心が耳穴の位置に来るような位置に合わせるといい。角度を開いていくほど音場が広くなるが、センター音像の実体感は弱まるので、好みに合う角度を探そう。個人的には中間くらいからもう少し広げたあたりが、音像と音場のバランスが整って好ましいと感じた。

 ポータブルプレーヤーのAstel&Kern「SP1000」を使って、インピーダンスの異なる「MYSPHERE 3.1」(15Ω)と「MYSPHERE 3.2」(150Ω)の違いも試してみた。ヴォーカルなど、センターに定位する音像の感触にやや違いがあるものの、音場の広さや情報量の豊かさ、音の立ち上がりや立ち下がりに対する反応のよさなどは同様だ。

 MYPHERE 3.1はそれなりに実力のあるポータブル機と組み合わせれば、しっかりとその持ち味を楽しめる。一方でMYPHERE 3.2はポータブル機では音量が厳しくなるので、据え置き型のヘッドホンアンプを組み合わせるべきだろう。

3種類のクッションは、どれを選ぶか悩ましい

 Mac Book ProとHugo2、Euforiaの組み合わせに戻して、「Soundframe-Cussions」の違いを聴いてみることにした。クッションは3種類あり、従来モデルに付属していたタイプが「スタンダード」、新規に発売されるものは「トランスペアレント」と「ベース」と呼ばれる。トランスペアレントは音色を重視したクラシック向きの音。ベースはその名の通り低音タイプで、耳元での20Hz〜700Hz付近の周波数の音圧を10dBほど高めているという。

 サウンドフレームをMYSPHERE 3.1に固定し、トランスペアレントを聴いてみる。基本的な音調はスタンダードとよく似ているが、楽器の音色が増えて、色彩感豊かな音になる。『交響曲第5番』では、管楽器らしい張りのある音と高域の伸び、弦楽器の弦の艶やボディの胴鳴りがしっかり出てくる。ヴォーカル曲では、声の質感が増し、表情まで伝わってくるようだ。他にもいろいろなジャンルの曲を聴いてみたが、特に相性が悪いと感じることはなく、ハイファイ的な忠実感のある音で楽しめると感じた。

画像: サウンドフレームはヘッドバンドから宙吊りされ、耳に触れない状態で音を再生する。その高さ(上下方向)と耳に対する開き角度は任意に調整できるので、自分にぴったりのポイントを探してみよう

サウンドフレームはヘッドバンドから宙吊りされ、耳に触れない状態で音を再生する。その高さ(上下方向)と耳に対する開き角度は任意に調整できるので、自分にぴったりのポイントを探してみよう

 クッションをベースに替えると、明らかに低音感が増している。スタンダードやトランスペアレントの低音感は最低音域までの伸びも充分だし、反応もいいが、感触が軽やかで、曲によってはずしりと迫る重量感が欲しいと感じることもある。ベースではそこが補強され、パワフルな音になる。たっぷりとした重低音のベースと大太鼓の力強い鳴り方が魅力の『GODZILLA:THE KING OF MONSTERS』のサントラで「ゴジラのテーマ」を聴くと、大怪獣の巨大さを感じさせる重量感のある低音を満喫できた。

 『YMO/TECHNODON』でも、シンセベースの深い低音や生のドラムのエネルギー感がしっかりと出て、広々とした音場が損なわれることはない。シンセサイザーによる音に包まれるような感じや、スタジオワークによる自由自在な音の定位のコントロールなどの仕掛けをしっかり味わえる。パワフルなロックやEDMのようなダンス系ミュージックはベースがぴったりだ。

 悩ましかったのはジャズ。ウッドベースがブリブリと鳴るようなエネルギッシュなジャズはベースだとグルーヴ感が豊か。しかし、楽器の音色や弦を指で弾いているような感触、胴鳴りの再現などはトランスペアレントの方がきめ細やかだ。曲調によっても好みは分かれそうだが、ジャズは甲乙つけがたい。

 最後に、クッションをベースにして映画作品を見てみた。UHDブルーレイの『地獄の黙示録:ファイナルカット』は、音声がドルビーアトモス化されており、低音の鳴り方は凄みを感じるほど。「ワルキューレの騎行」が流れるヘリコプター部隊の攻撃シーンから、戦闘機によるナパームの爆撃までを見たが、ミックスダウンしたステレオ再生でもかなりのサラウンド感が得られた。

 映画、特にアクションを見るならクッションはベースがぴったりだ。サラウンド音声の立体的な音場感も期待した以上に楽しめたので、音楽だけを聴くのはもったいないと感じたほど。質の高いテレビドラマやゲームなども楽しめそうだ。

画像: 音楽コンテンツだけでなく、映像付ソフトも楽しめるかを確認した。JVC「DLA-V9R」を使った120インチ/シネスコ映像との組み合わせでも、没入感のある映画体験が可能だった

音楽コンテンツだけでなく、映像付ソフトも楽しめるかを確認した。JVC「DLA-V9R」を使った120インチ/シネスコ映像との組み合わせでも、没入感のある映画体験が可能だった

じっくりと吟味して、好みの組み合わせを選びたい

 輸入元のブライトーンでは今回のクッションの登場を受け、MYSPHERE 3の購入時に2種類のサウンドフレームと3種類のクッションの組み合わせを選べるようにするそうだ。もちろん、複数のサウンドフレームとクッションのまとめ買いもできるが、お値段を考えると……それぞれの音を厳選して選びたいところ。

 個人的にはスタンダードかトランスペアレントがお薦め。スタンダードは曲の相性を選ばないバランスのよさがあるし、好きな曲をじっくりと聴くなら(特にアコースティック楽器を使った曲が好きなら)、トランスペアレントがいい。

 ただし、ベースも捨てがたい。ロックやポップスを元気よく聴きたい人にはぴったりだし、購入時にスタンダードかトランスペアレントを選んだ後、やっぱりベースもと、後から追加注文したくなるだろう。

 MYSPHERE 3は、スピーカーでの再生に慣れた人でも違和感なく楽しめる本格的なハイファイオーディオ機だ。試聴中はそれなりの音量で聴いていたが、周囲の人がうるさく感じることはなかったとのこと。また聴いている自分自身も、話しかけられればすぐに気付く程度に周囲の音が聞こえる。さらに夏でもムレることなく快適で、実用的なメリットも多い。

 本機はヘッドホンとしてはかなり高価だが、決して手の届かない価格ではない。自宅で気軽に使える本格オーディオとして、大きな魅力のある製品だ。気になる人はぜひ一度試してみてほしい。

画像: 今回の試聴機器。CDやUHDブルーレイの再生にはパナソニックDP-UB9000を使い、そのアナログ出力をFeliks Audioのヘッドホンアンプ「Euforia」につないで「MYSPHERE 3」を駆動した。ハイレゾ再生はMac Book ProのUSB出力をコード「Hugo2」に入力、ここに「MYSPHERE 3」をつないでいる

今回の試聴機器。CDやUHDブルーレイの再生にはパナソニックDP-UB9000を使い、そのアナログ出力をFeliks Audioのヘッドホンアンプ「Euforia」につないで「MYSPHERE 3」を駆動した。ハイレゾ再生はMac Book ProのUSB出力をコード「Hugo2」に入力、ここに「MYSPHERE 3」をつないでいる

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