90年以上の歴史を持つ英国タンノイ社から、スピーカーシステムのニューモデル、プラチナム(Platinum)B6とF6の2モデルが登場した。
タンノイといえば伝統のデュアルコンセントリック(同軸)型ドライバーがつとに有名だが、新しいプラチナム・シリーズは一般的なダイレクトラジエーター方式で登場。これはプラチナム・シリーズが価格的にエントリーモデルであるためだろう。
しかし、音は両モデルの価格を再確認してしまうほど好ましかった。
プラチナム・シリーズに採用されたドライバーは、高域用が新開発の25㎜シルクドームトゥイーターで、中・低域にはペーパーとファイバーによるコンポジットコーンを採用し、マグネットもネオジムマグネットを奢った165㎜コーンドライバーが搭載されている。
構成はブックシェルフタイプのB6が2.5k㎐クロスの2ウェイ。トールボーイタイプのF6は、一見したところダブルウーファー仕様の2ウェイ、あるいはスタガー動作による2.5ウェイに見えるが、実は本格的な3ウェイで、クロスオーバーは350㎐/2.5k㎐となっている。
エンクロージャーは共に19㎜MDF材を使用したリアバスレフ型。内部には高剛性積層合板による強固なブレーシングが施され、不要共振や色付けを排除する。外装はサテンフィニッシュのマットな色調で、上品な印象を醸し出す。両モデルのグリルは一般的なサランネットではなく、ジッパークロスグリルと呼ぶ、キャビネットに被せてジッパーで固定するスタイルの遊び心溢れるグリルが付属している。
価格以上の価値がある
エネルギッシュなサウンド
SACD/CDプレーヤーはデノンDCD-SX1リミテッド、プリメインアンプもデノンPMA-SX1リミテッド。AV再生にはUHDブルーレイプレーヤーパナソニックDP-UB9000(ジャパンリミテッド)を用意して視聴に入る。
最初はブックシェルフタイプのB6から。CDはカサンドラ・ウィルソン『ニュームーン・ドーター』を聴くとヴォーカルの存在感が明瞭で、コンボ演奏は中低域に厚みの感じられる濃やかな音。ライ・クーダー『パラダイス・アンド・ランチ』もたいそう明るく軽快で晴れ晴れとした音が飛び出した。低域の伸びはサイズなりではあるが、聴いていてとにかく楽しい。
ブルーレイはヴェルディの歌劇『リゴレット』の最新作を2chで視聴。ボーデン湖の上に舞台を設置した湖上のオペラだが、ウキウキとしたウィーン・フィルの演奏に乗って、スティーヴン・コステロのテノールやメリッサ・プティのソプラノが明快でとても健康的。
トールボーイ型3ウェイ構成のF6は、トゥイーターがウーファーとミッドレンジに挟まれ、そのトゥイーターの位置は椅子に座った時にちょうど耳の高さとなって具合がよい。ブックシェルフタイプに比べて低域の伸びにより期待ができて、かつスピーカースタンドが不要な事を考えると本機はかなりお買い得感が高い。
カサンドラ・ウィルソンやライ・クーダーのCDでは、空間に音が濃密に散りばめられて窮屈感のまったくない実に開放的な音。低域に厚みも感じられるようになり、ヴォーカルもいっそう伸びやか。タンノイと聴いてその昔イメージしたクラシック向きの燻銀の音という印象はなく、SACD『エリック・ドルフィー:アット・ザ・ファイヴ・スポット』のような古いジャズのライヴを聴いても、鮮明で熱い音が噴出。まことに爽快かつエネルギッシュなサウンドで、この価格でこの音は立派だなあと。
ブルーレイの歌劇『リゴレット』も予想以上の壮大さが現れて、ステレオ再生ながら湖上の野外ステージらしいまことに晴れやかで開放的なサウンド。ちなみにとグイッとボリュウムを上げてみたが、低音がボンつくこともなく、エンクロージャーはなかなか強固で、妙な音づくりを感じさせない。
ステレオ再生なら部屋の広さや予算に応じてB6とF6のどちらを選んでもよいと思うが、AV用途なら適度なサイズのフラットディスプレイや80〜100インチ程度のスクリーンと組み合わせて、フロントにF6、リアにB6を配した4.1ch再生とすると、きっと素晴らしい結果が得られるだろう。実にお買い得感の高いスピーカーシステムだ。