1946年、ポール・W・クリプシュ(Paul Wilbur Klipsch)によって、米国アーカンソー州ホープの地に産声を上げたクリプシュ。オーディオファンにとっては、クリプシュ自ら設計、開発したクリプシュホーン(3ウェイのフルホーン構成)が有名だが、現在は家庭用、劇場用スピーカーに加えて、ヘッドホンやイヤホンの分野でも高い評価を獲得。ハードロック・カフェ系列店で公式スピーカーとして認証されている。
クリプシュホーン以来、日本では正式な輸入が途絶えていたが、いまから約15年前、クリプシュはヤマハと業務提携契約を結び、日本での販売を復活させている。このタイミングで、私は米国インディアナポリスの開発拠点、「Klipschエンジニアリング アンド テクノロジーセンター」を訪ねているが、その規模の大きさ、技術水準の高さ目の当たりにし、クリプシュ健在なりという思いを新たにしたのを、いまも鮮明に覚えている。
そして昨年9月、日本国内における同製品の販売代理権をオンキヨーが獲得。今年3月には主力のReferenceシリーズを市場に送り出している。ここで紹介するHeritageシリーズ(受注生産)は「自宅で生きた、リアルな音楽を聴く」という創業者の遺志を受け継ぎ、米国国内で開発、製造されたプレミアムモデルである。
今回のHeresy(ヘレシー) Ⅳ、Cornwall(コーンウォール)Ⅳに共通しているのは、3ウェイ・バスレフ方式で、独自のトラクトリクスホーン、トラクトリクスポートを採用していること。このホーンシステムは高能率、かつ指向性が素直なコンプレッションドライバーとの組み合わせで(トゥイーター、ミッドレンジ部)フラットな周波数特性を維持しつつ、幅広く均一に自然な響きが届けられるのが特徴だという。
ポートについては前者がリアバッフル、後者がフロントバッフルと設置場所は異なるが、流入する空気の乱れを抑えるフレアを内側に設け、ポートノイズを減少。歪みのない強力な低音を再現するのが狙いだ。
目の前にシンガーがいるような生々しく独特の音圧感
まずHeresyⅣだが30㎝径の大型ウーファーを搭載したモデルとしては、意外に小振りで、自然な木目仕上げ(4種類)もあって、リビングの一角に置いても圧迫感はないだろう。本体下のスタント形状は、通常の床置き設置でフロントバッフル側がやや持ち上がるように設計されている。
まず聴き慣れたジェニファー・ウォーンズのヴォーカルを再生したが、声は艶っぽく、気持ちよく張り出す。低音は締まり、音像にエネルギーを集中させて、音の厚み、コクの深さで楽しませてくれる感じも悪くない。
今井美樹はヴォーカルが2本のスピーカーの中央に明確に定位して、その口元が見えるよう。空間の拡がりはやや控えめだが、うま味を凝縮したような濃密な世界は味わい深い。
映画『アリー/スター誕生』のサントラでも一定の重みを感じさせるサウンドトーンは変わらず、セリフ、ヴォーカルの実在感は良好。ピアノが躍動し、ベース、バスドラの音階を確実に刻んでいく様子は、ムービーサウンドとの相性のよさを証明していた。
続いて38㎝径ウーファーを搭載した大型モデル、Cornwall Ⅳ。チタン振動板のトゥイーター、ポリイミド振動板のミッドレンジは、いずれもトラクトリクスホーンとコンプレッションドライバーの組合せ。エンクロージャーは熟練の職人の手によってひとつひとつ仕上げられているという。
さてそのサウンドだが、声の質感の緻密さといい、雄大に拡がる空間の静けさといい、その豊かな表現力がドキッとさせられる。Heresy Ⅳも決して悪くはなかったが、スケール感、音そのものの鮮度の高さ、音離れのよさといった部分で、グレードの違いを印象づける。
そしてささやくように歌う今井美樹の声は、素朴で、潤いがある。解像感、レンジを無理に欲張らない穏やかな表現で、耳ざわりなエッジの強調は皆無。緻密な響きが絡み合って、すぐ目の前で歌い、演奏しているかのような生々しさが実に新鮮だった。
『アリー/スター誕生』でも38㎝径ウーファーならではの独特の音圧感は健在だ。ピアノソロで始まる「Always Remember Us This Way」はピアノの響きが太く力強いが、レディー・ガガの声はそれと対等、いやそれ以上の浸透力を感じさせる。熱狂的な歓声の中、熱唱する彼女の歌声がステージ中央から客席へと拡がっていく様子も実になめらかで、一体感のあるライヴ空間として描き出してみせた。
最後に注意点をひとつ。両スピーカーともにバイアンプ、バイワイヤリング対応だが、通常のシングルワイヤ接続でも問題が生じないように高域用、低域用ターミナルを接続するジャンパープレートを標準装備している。もちろんこれをそのまま使うこともできるが、音質的には好ましくない。実際に、その音を確認してみたが、付属のプレートを使うと帯域バランスがややハイ上がりで、音の芯が見えにくくなる。バイワイヤリング接続なら問題はないが、シングルワイヤ接続の場合は、スピーカーケーブルでジャンパー線を自作することをお勧めしたい。