StereoSound ONLINE読者、そしてHiVi読者にとってこの映画はワクワクが止まらない「バック・トゥ・ザ・フユーチャー」体験だ! こんなご時世だけれど、これは映画館へ行こう。大きな画面でLD時代からつづいてきたオーディオビジュアルの歩みと楽しさを共有しよう。
『地獄の黙示録』のウォルター・マーチ、『スター・ウォーズ』のベン・バート、そして『ターミネーター2』のゲイリー・ライドストローム。ホームシアター・ファンにとっては黄門さまの印籠みたいに威光のあるトップ・サウンド・デザイナー3人の仕事を中心に、映画音響の現場と歴史を振り返るドキュメンタリー映画『ようこそ映画音響の世界へ』。
文科省特選ならぬステレオサウンド特選ですね、こりゃ。「生まれる前、私たちは暗闇にいた。五感で最初に触れるのは“音”だ。子宮で過ごす数ヵ月間、聞こえるのは母親の鼓動や呼吸音。そこから世界は始まった」。
ウォルター・マーチのそんな言葉を受け、ジョージ・ルーカスが登場。映画体験の半分は音だとのコメントにつづき、舞台は一気に宇宙空間へ! レイア姫らが乗った小型宇宙船タナヴィーⅣを追う巨大なスター・デストロイヤー号。何度観ても口ポカンになる『スター・ウォーズ』のオープニング・ショットだ。
文字通り映画音響の革命だった『プライベート・ライアン』のミキシングの狙いと工夫を担当のゲイリー・ライドストロームらが語り、映画は時間線をさかのぼる。
1877年にエジソンが発明した蓄音機。1927年の世界初の音声付き長篇映画『ジャズ・シンガー』。効果音の重要性が注目された1930年の戦争映画『西部戦線異状なし』など。
動物園で録音したトラやライオンの吠え声を加工した『キング・コング』(1933年)の録音技師マーレイ・スピヴァック。神童オーソン・ウエルズが音で恐怖を伝えきったラジオドラマ『宇宙戦争』(1938年)。個人的には『八十日間世界一周』『南太平洋』『ウエスト・サイド物語』『クレオパトラ』などで活躍した早すぎた音響効果マン、スピヴァックに章が割かれたのがうれしかった。
テープレコーダーのテープ切り貼りや逆回転再生で音作りの面白さに目覚めた少年時代のウォルター・マーチ。電子楽器シンクラヴィアを操る新世代として登場したゲイリー・ライドストローム。3人の生い立ちに触れながら、映画はステレオ、デジタル時代を迎える現在までを豊富な映画人の証言と人気作のハイライト・フィルムで追ってゆく。
後半は、登場する映画が過去35年、ファンを喝采させた人気作ばかりなのでニコニコが止まらない。その合間に『地獄の黙示録』と冨田勲のLP「惑星」の4チャンネル・ステレオ再生の関係、『ゴッドファーザー』とジョン・ケージの実験前衛音楽との直截的な結びつきなどの秘話がはさまれるのだ。
監督は『デイズ・オブ・サンダー』『クリムゾン・タイド』などに音響編集者として参加し、映画業界への登竜門であるUSC(南カリフォルニア大学)で教鞭も取っている女性ミッジ・コスティン。男の領分と思われがちな世界で、女性音響マンの活躍がふつうに紹介されているのも新鮮である。
いや、ほんと、ステレオサウンド特選。勉強になるし、エンタメとしても楽しさ満点。これはあなたにオススメします!
ウォルター・マーチ
1943年7月12日ニューヨーク市生まれ。
音響設計とフィルム編集の両方を手掛ける才人で、音響、編集部門で『カンバセーション…盗聴…』『ジュリア』『ゴッドファーザーPARTⅢ』など計7作品9部門でアカデミー賞候補に。そのうち『地獄の黙示録』(音響賞)、『イングリッシュ・ペイシェント』(編集賞、音響賞)で受賞を果たした。ジュディ・ガーランド版『オズの魔法使』の続篇的体裁の『オズ』(1985年)で、演出に初挑戦。ダークなSFXファンタジーで公開時は興行に苦戦したが、当時からその趣味性を愛するひとが少なくない。『雨のなかの女』のフランシス・フォード・コッポラ、『THX-1138』のジョージ・ルーカスなど、1970年代のハリウッド・ルネッサンスと並走してきたベテランとして知られる。近代映画音響の父。
ベン・バート
1948年7月12日、ニューヨーク州のジェームズヴィル生まれ。
『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』、SFアニメーション『ウォーリー』など計9作品、12部門でアカデミー賞にノミネートされ、そのうち『スター・ウォーズ』『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』『E.T.』『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』で音響編集賞、特別業績賞を4回受賞した。R2-D2のビープ音、ライトセーバーのハム音、ブラスター銃の発射音、そしてダース・ベイダーの呼吸音など、『スター・ウォーズ』シリーズの魅力を音響面から支えた功労者。『ウォーリー』では主人公のロボットのアフレコも担当している。
ゲイリー・ライドストローム
1959年イリノイ州シカゴ生まれ。ベン・バートの弟子筋に当たる。
『バックドラフト』『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』『ファインディング・ニモ』『アド・アストラ』など計14作品、19部門でアカデミー賞にノミネート。そのうち『ターミネーター2』『ジュラシック・パーク』『タイタニック』『プライベート・ライアン』で、アカデミー音響賞、音響編集賞を受賞した。『マイノリティ・リポート』『戦火の馬』『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』『レディ・プレイヤー1』などスピルバーグ作品への参加が多く、2020年12月米国公開予定の『ウエスト・サイド・ストーリー』(原題)にもリ・レコーディング・ミキサー、サウンド・デザイナーとして参加している。現在の映画音響界のトップランナー。
『ようこそ映画音響の世界へ』
8月28日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開
●配給:アンプラグド
●監督:ミッジ・コスティン
●出演:ウォルター・マーチ、ベン・バート、ゲイリー・ライドストローム、ジョージ・ルーカス、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・リンチ、アン・リー、ライアン・クーグラー、ソフィア・コッポラ、アルフォンソ・キュアロン、クリストファー・ノーラン、バーブラ・ストライサンド
2019年/アメリカ/英語/94分/カラー/ビスタ/5.1ch
© 2019 Ain't Heard Nothin' Yet Corp.All Rights Reserved.