小粋でコンパクトなオーディオ機器を作らせたら、英国の老舗はピカイチの存在だ。ここで紹介するレガは、1970年代からあるオーディオ専業メーカー。創業者のロイ・ガンディ氏が現在も牽引している稀有な英国企業である。レガの存在を一躍有名にしたアナログプレーヤーのプラナー3は1976年に登場した。私は学生時分に秋葉原のオーディオ販売店で見かけたことがある。息の長いオーディオメーカーのひとつである。
ベルト駆動方式のプラナー10は同社最高級機で、専用の電源部を備えている。本機は2018年に発表された究極のナイアッド(Naiad)というプロダクトを発展させた製品のようで、抜群の工作精度で仕上げた高剛性の軸受けシステムと、素材から見直したという精密加工の焼結セラミック製プラッターが注目ポイント。ハウジング構造もきわめて巧妙といえる。特殊な軽量ポリウレタンフォームを中心材にした、軽くて硬く振動減衰の素早いボディ構造が特徴だ。プラッターの軸受けとトーンアーム間がセラミック部材を介して連結されていることも特筆事項。
ダイナミックバランス方式のトーンアームは、アルミニウムとステンレススチールを組み合わせたRB3000。接合部を最小に留めて剛性を高めており、軽量化を推進するために塗装処理を省いている。
試聴機は同社推奨という最高級MC型フォノカートリッジのアフェタ3(Apheta3)を搭載していた。その構造はユニークそのもの。ファインライン形状の角柱ダイア針を備えたカンチレバーの後端に発電コイルが直結されており、カンチレバーはその間でMM型フォノカートリッジのように支持されている。強力なネオジム磁石が発電コイルの後方に置かれ、それが直接的に磁束を与えるという、ポールピースやヨークを持たない磁気回路も珍しい。
試聴システムは、フェーズメーションのEA1000フォノイコライザーアンプからエアータイトのATC5プリアンプ、パワーアンプも同社ATC3で、モニタースピーカーはB&W800D3である。
薄いフェルト素材のマットにアナログ盤を乗せるのは、英国的な流儀といえよう。井筒香奈江のダイレクトカッティング盤でわかるのはS/N感に優れた静寂ぶりで、ボディ感の豊かなヴォーカルの充実はフォノカートリッジの個性なのかもしれない。アンセルメ指揮「三角帽子」は、重心をやや低めにした音数の多さが印象的。一音一音を丁寧に聴かせながら、それらを柔軟に描いていく落ち着いた音の表情である。タック&パティ「ティアーズ・オブ・ジョイ」は、スピード感のあるアコースティックギターの音色が複雑で、ヴォーカルの訴求力もじゅうぶんな、聴き応えのある優れたパフォーマンスだった。
重厚長大なアナログプレーヤーの音とは異なる軽妙かつ快活に音楽を巧みに奏でる、センスのよい音と思わせた製品である。