ステラとゼファンは、16日午後に東京国際フォーラムで「StereoSound Grand Prix 2019受賞製品試聴会 & Wilson Audio新製品試聴会」を開催した。
今回は同社が毎年この時期に開催している新製品発表会と、昨年末に季刊「StereoSound」で開催した「StereoSound Grand Prix 2019」で見事Golden Sound賞に選ばれたAir Force Zeroなどの注目製品を多くのオーディファン、音楽ファンに体験してもらう機会として企画されたものだ。
そこに並んだシステムは以下の通り。
<主な試聴機器>
●アナログレコードプレーヤー:Tech DAS Air Force Zero
●フォノイコライザー:HSE SWISS MASTERLINE 7
●プリアンプ:コンステレーションオーディオALTAIR II plus
●パワーアンプ:コンステレーションオーディオHERCULES II
●スピーカーシステム:ウィルソンオーディオSASHA DAW
●電源ユニット:ストロームタンクS5000HP、S2500 Quantum
<新製品>
●スピーカーシステム:ウィルソンオーディオChronosonic XVX
¥71,000,000(スタンダードカラー)、¥73,000,000(アップグレードカラー)
¥75,000,000(カスタムカラー) ※価格はすべてペア、税別
いずれも唯一無二と呼んでいいハイエンド機器ばかりで、この組み合わせで果たしてどんなサウンドが体験できるのか、来場者もじっとその時を待っていた。
これらの中で、今回StereoSound Grand Prix 2019を受賞したのは「Air Force Zero」「MASTERLINE 7」「SASHA DAW」の3モデル。まずは(株)ステラの取締役社長、橋隅和彦さんから、ウィルソンオーディオSASHA DAWの解説が行なわれた。
SASHA DAWは、2018年12月に発売されたスピーカーで、同ブランドの創始者デビッド・ウイルソン(David A Wilson)氏の名前を冠したモデルとなる。
3ウェイ4スピーカーという構成で、8インチコーン型ウーファー×2、7インチコーン型ミッドレンジ、1インチシルク・ドーム型トゥイーターを搭載。XマテリアルやSマテリアルといった独自素材を使ったエンクロージャーなど、同社の技術が多く盛り込まれているのも特長だ。
続いてゼファンの安藤宏平さんがフォノイコライザーのMASTERLINE 7を紹介してくれた。
HSE SWISSの設立者であるロバート・フーバー氏は、1981年からスチューダに入社、テープレコーダーやアナログミキサーの最終検査部門などを手がけてきたという。その後、1987年にHSE Huber(Hard&Software Engineering Huber)を設立、アコースティックギター用イコライザーなどを開発していたそうだ。
2013年頃から会社名をHSE SWISSに変更し、録音スタジオ用のハイエンドマイクアンプを開発、この製品はノイズ指数がきわめて低く、ここで培った技術がMASTERLINE 7にも搭載されているのだという。
ちなみに製品そのものにサポートスタンドが付いているが、これに乗せないと音が変わってしまうとかで、必ずこれにセットしてくださいと安藤さんは説明していた。
最後に、ゴールデンサウンド賞に選ばれたAir Force Zeroについて、代表取締役会長の西川英章さんが解説してくれた。
Air Force Zeroは昨年3月に発表して以来、5月にミュンヘンオーディオショウ、その後はアメリカ・サンタモニカや11月の東京インターナショナルオーディオショウで試聴会を行なってきた。このうちサンタモニカでは3台オーダーが入り、その後も予想以上の注文があるのだという。
実際西川さんは、先月もワシントンDCまでアメリカの第一号を納品に行ってきたとかで(Air Force Zeroはステラのスタッフが設置作業を行なう)、日本国内での納品済みのものを含めて4台をユーザー宅に届けたそうだ。なおこれまで注文されたのはすべてタングステンのアッパープラッター仕様(¥50,000,000、税別)だったという。
ちなみに本日デモで使っていたのは量産モデル(5台目)で、次の5台も予約完売している。その次のロットは6月以降に出来上がってくる予定だそうだ。
そしてここからAir Force Zero、MASTERLINE 7、SASHA DAWの組み合わせによる試聴会に入った。ソース機器はアナログレコードのみで、西川さんのコレクションの中からお薦めが順次再生されていった。
一枚目はハリー・ベラフォンテのカーネギー・ホール・コンサートで、ステラの試聴会ではすっかりお馴染みのタイトルだ。「1959年の録未ですが、これを超えるライブ録音はほとんどありません」と西川さんは紹介してくれた。そしてもう一枚はジェフリー・テイト指揮によるシューベルトをチョイス。
そのサウンドは、まず音場が静かで透明感に優れているというのが第一印象。前方にカーネギー・ホールのステージがふわっと浮かび上がり、ベラフォンテの声が実体感たっぷりに響いてくる。確かに60年前の録音とは思えないリアルさだ。シューベルトのシンフォニーも各楽器の音色が綺麗に再現されている。
続いてスピーカーをChronosonic XVXに変更し、本日究極のシステム(プレーヤー、フォノイコライザー、スピーカーだけで税別¥129,700,000)を体験させてもらった。
なお橋隅さんによると、Chronosonic XVXはネットワークが大規模で凝っており、またキャビネットもひじょうに硬い独自マテリアルを使っているので、半年以上鳴らしこむことで音が変化するのだという。今回のセットはインターナショナルオーディオショウから半年以上エージングが進んでおり、音もこなれてきているそうだ。
スピーカーとしては4ウェイ7スピーカー構成で、本体上部には独立した4つのユニットが取り付けられている(上から7インチローミッド、1インチトゥイーター、4インチアッパーミッド、7インチローミッドという順番)。
中でも「Quadra Mag Midrange」と名付けられた7インチのローミッド用ドライバーは今回新規開発された。4個のアルニコマグネットを直交配置した磁気回路は高い磁束密度を持ち、暖かさとナチュラルな音色、高い分解能を実現しているユニットとなっている。
ここからはロストロポーヴィチが1991年にフランスの教会で収録したバッハの無伴奏チェロ組曲やレオポルド・ストコフスキーによる1960〜61年録音のラプソディーズ、アルトゥール・ベネディッティ・ミケランジュリとカルロ・マリア・ジュリーニによるベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番《皇帝》といった名盤をぞくぞく再生。
JAZZではドク・チータムのトランペット、さらにオペラからミレッラ・フレーニのトゥーランドットのアリア(ジョゼッペ・シボーポリ指揮)とオテロ(カラヤン指揮)を再生。そして最後にパブロ・カザルスのホワイトハウス・コンサートから鳥の歌を朗々と鳴らして試聴会は終了した。
西川さんによると、TechDASプレーヤーの基本コンセプトはレコードに刻まれた情報を余すことなく出したいという点で、そのためにエアーバキュームは必須だったそうだ。さらにトーンアームとカートリッジの共振を抑えることも重要で、Air Force Zeroでその狙いを実現でき、霞がかかったイメージだったアナログサウンドを払拭できたとしている。「この先には無制限の世界が広がっています。TechDASは新しいアナログであり、新しいハイレゾのソースとして認識してもらいたいですね」(西川さん)とのことだった。
今回のシステムはその価格も桁違いだが、聴かせてくれた音も、情報量、リアリティ、静寂感などあらゆる点で次元の違うものだった。個人的にも、オーディオ趣味の極北として、きわめて貴重な体験だったといえるだろう。(取材・文:泉 哲也)
「ウィルソンオーディオChronosonic XVX」の主なスペック
●型式:4ウェイ7スピーカー
●使用ユニット:1インチドーム型トゥイーター×2、4インチコーン型アッパーミッドレンジ、7インチコーン型ローミッドレンジ×2、10.5インチコーン型ウーファー、12.5インチコーン型ウーファー
●能率:92dB/W/m
●インピーダンス:4Ω
●再生周波数帯域:20Hz〜30kHz
●寸法/質量:W420×H1870×D840mm/310kg
※カラーバリエーション
スタンダードカラー:Obsidian Black、Desert Silver、Galaxy Gray、Titanium Brown、Argento Silver
アップグレードカラー:Amarillo Yellow、Classic Orange、Titan red、Carmon Red、Seafoam Green、Fuji Blanco、Biarritz White、Topaz、Mahogany、Diamond Black、Estoril Blue