オーディオテクニカのOC9は、オリジナルが1987年に登場している。このたび同社は、新しいOC9Xシリーズを5機種リリース。共通するのはPCOCC銅線の発電コイル+鉄芯巻枠と、強磁力ネオジム磁石の採用。色違いだがアノダイズ仕上げのアルミニウム製ボディも同じである。針は各モデルで異なり、カンチレバー材質はアルミニウムとボロンの2種類。磁気回路のヨークも純鉄とパーメンジュールの2種類である。適正針圧は全機種とも2g。価格レンジは2万9千円~9万8千円と広い。
さっそく比べて音質傾向を探っていこう。プレーヤーはテクニクスSL1000Rでマイソニックのヘッドシェルに装着。フェーズメーション製T500昇圧トランスフォーマーを経由してエアータイトのATC5プリアンプのフォノ入力に接続。パワーアンプも同社ATM3(モノブロック)でスピーカーシステムにはB&W800D3
を使っている。
カンチレバー、針先、磁気回路の組合せが異なり
最上位OC9XSLは格調あり情報量も抜群
まずは2万9千円のOC9XEB(青色)から。アルミニウム製カンチレバーに接合楕円ダイア針が組み合わされ、ヨークは純鉄製だ。「井筒香奈江」の歌声やピアノの打鍵に物腰の柔らかさが感じられる、聴き疲れしない音。「三角帽子」での輝かしい金管の響きや打楽器の音色も同様だ。「ソニー・ロリンズ」のサキソフォンは太く輪郭の甘さがあるものの、コストパフォーマンスは抜群といえよう。
続いて聴いた4万5千円のOC9XEN(銀色)は、針先が楕円形状の無垢ダイア針になった以外はOC9XEBと同等。やはり音の素性に共通項が感じられるものの、こちらは帯域が広がって音像描写も明確になる。弾性のあるアルミニウム製カンチレバーらしい、素材のしなやかさが活きている美音だ。
これからは、パーメンジュールのヨークとボロン製カンチレバーを採用する高級仕様。7万円のOC9XML(赤色)はマイクロリニア形状(マイクロリッジ)の無垢ダイア針を搭載。音質の飛躍が著しく、豊富な情報量で「ソニー・ロリンズ」で聴くピアノの和音も複雑に音が絡みあう。曖昧さのないクッキリ系の音で、全体的にスリムな音調バランスだ。
シバタ針を搭載するOC9XSH(茶色)は8万5千円。同様にソリッドで鮮明な音の語り口で、こちらは高音域の情報量が増加した鮮烈さが印象的。音の立ち上がりも鋭く、個性派といいたくなる尖った音質傾向だ。
最後は特殊ラインコンタクト針を搭載する9万8千円のOC9XSL(黒色)。情報量も抜群で、全域で余裕のある力感が漂っている。最高級機らしい格調ある音で「ソニー・ロリンズ」は、吹けあがりの心地よい迫力とウッドベースの押しと明瞭さが両立している。
ベストセラーのヘッドシェル3種類も刷新された。丸穴が開き使いやすくなり、初めてボディにネジ切りしたOC9Xシリーズにも好適。音調バランスが整っているのはAT‐LT15H。重量のあるAT‐LH18Hは最も逞しい音をもっている。