今年の6月、国立新美術館で開催された「LG SIGNATURE Gallery in TOKYO」でお披露目され、9月に正式発表となった88インチ8K有機ELテレビ、88Z9PJAの正体が明らかになった。
LG
OLED 88Z9PJA
オープン価格 (実勢価格330万円前後、受注生産)
●解像度:水平7,680×垂直4,320画素
●内蔵チューナー:地上デジタル×3、BS/110度CSデジタル×3、4K BS/110度CSデジタル×1
●接続端子:HDMI入力4系統、デジタル音声出力1系統(光)、LAN1系統、ほか
●寸法/質量:W1,961×H1,456×D281mm/104kg
まずアルミ仕上げのテレビボードと、極細ブラックベゼルのパネルを一体化したデザインに目が奪われる。空洞のテレビボードから、極薄の有機ELパネルだけがせり上がったかのような見え方が何とも斬新で、照明を落とした環境では、映像だけが浮いているような不思議な感覚が味わえる。
このテレビボードはデザイン上、きわめて重要な役割を果たしているわけだが、内側上部、見えないところに音の開口部が存在する。スピーカー自体はテレビ本体の背面に搭載され、音を下向きに放出。それをキャビネット内に組み込まれたリフレクターが受け止め、音を前方向へ送り出すという実に凝った仕組みだ。
ちなみにスピーカーは本格的な3ウェイ構成(実用最大出力80W)。ドルビーアトモス再生に対応し、通常のステレオ音源についてはドルビーサラウンドでの再生が可能となる。
いよいよ本題、画質の話に入ろう。まずLGディスプレイから供給を受ける88インチの有機ELパネルだが、8K解像度の倍速駆動以外、具体的なスペック値は公表されていない。
そこで独自のコネクションを駆使し、各方面から情報を収集した結果、基本的な光学スペックと2019年製造の4Kパネルと同等ということが判明した。つまり最高輝度1000nit超(白ピーク)、色域DCI-P3に近似という内容で、RGB+W(白)という画素構造も変わっていない。
画素数と画面サイズから単純に計算すると、55インチの4Kパネルに対して、画素サイズは約5分の4。有機ELの発光パワーとしてはそれだけ不利になるわけだが、実際の白ピークの最高輝度は変わらない。
ちょっと不思議な気もするが、現行の4Kパネルの実力からすれば発熱対策さえ怠らなければ、無理のないレベル。消費電力は1120Wまで上がっているが、100Wの通常のコンセントが使用可能だ(年間消費電力量は616kWh/年)。
豊かな表現力は 4K有機ELとは別世界
映像エンジンとしては8K対応の「α9 Gen2 Intelligent Processor 8K」が投じられた。これは現行の4K有機ELテレビで実績のある「α9 Gen2 Intelligent Processor」の後段に、専用の画像処理ICを加えたもの。独自のAI技術によるディープラーニング処理を駆使し、2Kおよび4K映像に、8Kアップスケーリング処理を行なう。
内蔵チューナーは4Kが1基、地上/BS/110度CSデジタルが3基という構成で、残念ながら8Kチューナーは非内蔵。ただ8K入力が可能なHDMI 2.1をサポートし、対応機器からのHDMI1本での8K映像入力が可能。インターネット経由での8Kコンテンツ視聴についても、ソフトウェアアップデートで対応予定だ(単体8Kチューナーの製品化は未定)。
さて実際の画質インプレッションといこう。まず日頃から見慣れているBD『恋におちたシェイクスピア』の再生だが、輪郭がやや太く、ノイズの粒子も大きめだが、極端に甘い感じはなく、コントラストは良好。8Kアップスケールの精度をもう少し追い込む必要はありそうだが、8K画素が創り出す若き日のグウィネス・パルトロウの瑞々しいスキントーンは悪くない。
続いてUHDブルーレイの『マリアンヌ』を再生。冒頭部、夜のパーティーシーンを中心に視聴したが、夜の街を照らす照明の瞬きといい、光を受けて、反射する車の塗装、その汚れといい、画面の奥に拡がる空間のリアリティにハッとさせられる。パーティー会場では豪華な衣装、宝石、シャンデリアが鮮明に描き出され、マリアンヌのピンクがかった肌、柔らかなグラデーションを伴なった髪のなんと生々しいことか。6K、8K撮影の優位性がダイレクトに感じ取れる表現力であり、4K有機ELテレビとは明らかに別の世界だ。
そして8K。今回はシャープの8Kチューナー、8S-C00AW1の出力(HDMI4本)を開発用の機材でHDMI 2.1(HDMI1本)に変換して視聴したが、このインパクトは強烈だった。ラグビーの中継や『メガシティ大発光 空から見た東京夜景』、『マイ・フェア・レディ』と8K放送のオンエアコンテンツを中心に見たが、その緻密さ、豊かな風合い、そして人工臭を排した色再現と、これまでなかなか体験したことがないようなグレードの高さで、その表現力の豊かさに圧倒される。
特に『マイ・フェア・レディ』の本物感には度肝を抜かれた。絢爛な衣装、高級な調度類、躍動する競走馬、そしてオードリーをはじめとする名優たちの豊かな感情表現と、すでに数十回は視聴して、熟知した絵柄だが、随所で感性に訴えかけ、心に突き刺さる。
まさに88インチというスケールと、本物の8Kクォリティの共演の成せる技。テレビの歴史に残る1台になることは、間違いない。
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