オーディオアクセサリーと呼ばれるアイテムには、電源ケーブルやラインケーブル、電源のフィルター類など多彩な製品が存在する。その中でも大きなジャンルとして君臨しているのが、いわゆるインシュレーター系の製品だ。

 スピーカー本体とスピーカースタンドの間や、スピーカーと床の間、もしくはオーディオ機器のフットとオーディオラックの間に設置するなど、使用用途は多い。これで振動を遮断したり、振動モードを変えて音質を上げる事が出来る。

インシュレーター
Stillpoints

画像: 左が「ULTRA MINI」で、右は「ULTRA SS」。どちらもシルバー仕上げ

左が「ULTRA MINI」で、右は「ULTRA SS」。どちらもシルバー仕上げ

ULTRA MINI ¥20,000(税別、1個、ベース付き、シルバー)、¥25,000(税別、1個、ベース付き、ブラック)、¥16,000(税別、1個、ベースなし、シルバー)
●耐荷重:24kg●寸法/質量:W24×H30〜34mm/64g

ULTRA SS ¥40,000(税別、1個、シルバー)、¥50,000(税別、1個、ブラック)
●耐荷重:453kg●寸法/質量:W33〜35×H38〜43mm/222g

 しかしひと口にインシュレーターと言っても、構成される素材は様々だ。木やゴムを使ったもの、金属や石英ガラスを使ったもの、更にそれらの異種素材をハイブリットに組み合わせたものなど、多種多様な素材の製品が発売されている。StereoSound ONLINE読者の皆さんも、きっと色々な製品を試した事がおありだろう。

 そして近年のインシュレーターシーンでひとつ注目されているのが、複雑な構造を持つハイテク系のインシュレーターである。今回僕が試したのは、それを代表する先進的構造を持つ製品だ。

 それが、Stillpoints Products(スティルポイント・プロダクツ)の「ULTRA 5」インシュレーター。同社はアメリカ・ウィルコンシン州に本拠地を構えるアクセサリーメーカーで、複雑な構造を持つハイテクインシュレーターが人気を呼び、現在知名度を大きく上げてきている。

 製品のラインナップも広く、スピーカーに付属する純正スパイク&スパイク受けと交換する「ULTRA 5」。アナログレコードのスピンドル上部に設置するレコードスタビライザー「LPI」。アンプやソース機器の他、電源タップ等にも使用できるエントリークラスの小型モデル「ULTRA MINI」と「ULTRA SS」などを揃えている。

 これらの製品に共通しているのが、金属製のインシュレーター素材の内部に、複数の球体の金属が挿入されていること。このボールが、オーディオ機器やスピーカーから伝わる縦振動を横振動に変え、熱に変換させて消滅させるという斬新な共振アイソレーション・システムだ。このシステムは米国特許も取得しており、しっかりとした理論に基づいている事が証明されている。カラーはシルバーのほか、ULTRA 5、ULTRA MINI、ULTRA SSにはブラックもある。

画像: 「ULTRA 5」は、様々なスピーカーに取り付けられるように豊富なオプションネジを準備している。今回はディナウディオ「Contour 30」の純正スパイクと同じ直径のネジを使ってULTRA 5を取り付けた。右はオプションのネジとスパイクを取り付けた様子。適応するスピーカーの型番については関連リンクを参照いただきたい

「ULTRA 5」は、様々なスピーカーに取り付けられるように豊富なオプションネジを準備している。今回はディナウディオ「Contour 30」の純正スパイクと同じ直径のネジを使ってULTRA 5を取り付けた。右はオプションのネジとスパイクを取り付けた様子。適応するスピーカーの型番については関連リンクを参照いただきたい

インシュレーター
ULTRA 5 ¥150,000(税別、1個、シルバー)、¥170,000(税別、1個、ブラック)
※取り付け用ネジ、スパイクは別売
●耐荷重:1,361kg●寸法/質量:W44〜76×H47mm/1,510g
※関連リンク → https://www.stillpoints.us/index.php/product/adapters?start=0

画像: 「LPI」は、レコードのラベル部分に乗せることで微振動を吸収し、再生音に鮮明さ、繊細さを与えるアクセサリーだ。写真は上部にもスピンドル穴がある「LPI Long Spindle」で、他に短いスピンドル用の「LPI Short Spindle」もラインナップする

「LPI」は、レコードのラベル部分に乗せることで微振動を吸収し、再生音に鮮明さ、繊細さを与えるアクセサリーだ。写真は上部にもスピンドル穴がある「LPI Long Spindle」で、他に短いスピンドル用の「LPI Short Spindle」もラインナップする

アナログレコード用スタビライザー
LPI ¥100,000(税別)
●寸法/質量:φ76×H20mm/700g

 今回はスピーカー用のULTRA 5とアナログレコード用スタビライザーのLPI、そして小型インシュレーターULTRA MINIという3タイプの製品を自宅環境で試して、効果を徹底的に検証した。

 まずはそれぞれを手に取ってみたが、流石に金属製だけありズッシリと重い。また切削精度を含めたビルドクォリティが高く、見た目の質感も素晴らしい。分解できないので内部は確認できないが、手で挟んでグリグリと動かすと微妙に振動し、内部にボールが入っている事が感じられる。動きの量は最小限に抑えられているが、インシュレーターとしてかなり複雑な構造を持っているようで、どのような音質変化をもたらすのか期待値が上がる。

 まずは小手調べだ。ソウルノートのプリメインアンプ「A-1」とフォノイコライザー「E-1」の底部に直接ULTRA MINIやULTRA SSを挟み、アナログ再生を行なう。プレーヤーは、カートリッジにマイソニックラボ「Eminent GL」を搭載したエアーベアリング・リニアトラッキング・ターンテーブル「Holbo」を使用した。

 再生した楽曲は筆者の愛聴盤である超絶技法のベーシスト、マーカス・ミラーの新譜『レイド・ブラック』。リードグルーブに針を置いた次の瞬間、リッチな色彩を聴かせながら重量感のあるベースが飛び出して来た! かなり大きく音が変わる印象だ。

 ソウルノートのアンプとスピーカーはスパイクタイプのフットを備えており、これも決して悪くない。しかしULTRA MINIに変えると、音がより躍動的になるのだ、少々派手すぎるきらいもないとは言えないが、音質変化幅が予想以上に高い。

画像: 今回の主な再生機器。ラック上段左のソウルノートのプリメインアンプ「A-1」は「ULTRA SS」インシュレーターに、右側のフォノイコライザー「E-1」は「ULTRA MINI」に乗せている(それぞれ3点支持)

今回の主な再生機器。ラック上段左のソウルノートのプリメインアンプ「A-1」は「ULTRA SS」インシュレーターに、右側のフォノイコライザー「E-1」は「ULTRA MINI」に乗せている(それぞれ3点支持)

 次に、スピーカー用ULTRA 5をディナウディオ「Contour 30」の純正スパイクと交換する形で使用した。使用方法は、スピーカー付属のインシュレーターを外し、空いたネジ穴に専用アダプターを取り付けるだけで簡単だ。ただし取り外しにはスピーカーを傾ける必要があるので、複数人で作業する事をお勧めしたい。

 なお専用アダプターは複数のネジサイズに対応し、1個あたりの耐荷重は1,361kgもあるので様々なブランドのスピーカーに対応できる。受け側となるベースには同社から出ている専用品「ULTRA BASE」があるが、今回は筆者が使用していたアンダンテラルゴの製品をそのまま使用した。

 また設置後にひとついい所に気が付いた。ULTRA 5を取り付けると、見た目の印象も立派になるのである。オーディオルームがよりハイエンドな雰囲気になった。

 気になる音質だが、マーカス・ミラーは先ほどよりもさらに大きな変化を感じた。まず、低域の付帯音が減った上で、量感が増す。中域の立体感も上がる。実は見た目がマッシブな筐体なのでより派手な音を想像してしまったが、ナチュラルで中高域の歪みが明らかに減少してくれたのが嬉しい。

 しかも中低域の密度が増すので一聴してメロディアスな音色になる。トニー・ベネットとダイアナ・クラールのデュオアルバム『Love Is Here To Stay』でも同様の傾向を聴き取れた。ベースの力感が増しながら芯のあるしっかりとした音に変化する他、スピーカーの振動が抑制されてアナログプレーヤーに伝わらなくなるのか、ピアノタッチの輪郭もより明瞭になる。

ディナウディオ「Contour 30」に「ULTRA 5」を取り付けてみた

画像1: “音色の旨みや躍動感を大きく引き出してくれる” しっかりとした理論に基づいたStillpointsのアクセサリーを試して、オーディオの深みに触れた
画像2: “音色の旨みや躍動感を大きく引き出してくれる” しっかりとした理論に基づいたStillpointsのアクセサリーを試して、オーディオの深みに触れた
画像: (1)まずは「Contour 30」の純正スパイクを取り外す (2)スパイク用のネジ穴に適合するオプションのネジを装着 (3)ネジの反対側に「ULTRA 5」を取り付ける。 ULTRA 5にはオプションのスパイクを取り付け済みだ (4)ULTRA 5を4つ取り付けた状態。 作業は本体を寝かせた状態で行うこと  ←ULTRA 5を取り付けたContour 30

(1)まずは「Contour 30」の純正スパイクを取り外す
(2)スパイク用のネジ穴に適合するオプションのネジを装着
(3)ネジの反対側に「ULTRA 5」を取り付ける。
 ULTRA 5にはオプションのスパイクを取り付け済みだ
(4)ULTRA 5を4つ取り付けた状態。
 作業は本体を寝かせた状態で行うこと

 
←ULTRA 5を取り付けたContour 30

 最後は、先に試したふたつを利用しつつ、アナログレコード用スタビライザーのLPIを試した。利用方法は説明するまでもないが、プラッターにレコード盤を乗せた上のスピンドル上に本製品を置くだけだ。しかし、高さ20mm、幅76mmで、重量は700gもある。

 この状態でオールドジャズの名盤、ソニー・ロリンズ 『ニュークスタイム』を試聴した。1957年にブルーノートから発表されたブルーノート4000番台のスタートを切るBLP-4001。筆者秘蔵のオリジナル・モノーラル盤である。本システムはどのように再生するのか。

 リードグルーブに針を落とし緊張感が高まる中、一曲目の「Tune Up」が鳴り出した。ひと言でいってかなりいい! ウィントン・ケリーのピアノは色彩感豊かで明るい音色で、ダグ・ワトキンスのベースは重心が下がりながらより躍動的になる。そして何よりも、ソニー・ロリンズのサックスの積極的な咆哮に包み込まれるようだ。

 個人的にこの時代のジャズを再生する際は、グルーブの向上による音楽性が大きな要素だと思っているので、とても気持ちが高まった。どうやらこの3つのインシュレーターには、音色の旨みや躍動感を大きく引き出してくれるというアドバンテージが共通しているようだ。

画像: Holboのリニアトラッキング・ターンテーブルを使って、アナログレコードでの音の変化を確認した

Holboのリニアトラッキング・ターンテーブルを使って、アナログレコードでの音の変化を確認した

 都度お話ししている通り、オーディオアクセサリーの世界はまさに玉石混交で、その中には謳い文句に疑問を持ちたくなるようなプロダクトも存在しているが、ここまでしっかり音質変化をもたらす事、また製品に明快なコンセプトを持たせているところは大きなポイントである。

 どの製品も決して安価ではないものの、その効果は大きく、特に音を躍動的に変えたいと思っている方には、投入したコスト以上の音質改善効果をもたらしてくれるはずだ。

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