【麻倉怜士のMIPCOM2019報告：07】8K自然科学ドキュメンタリー『MATING GAME』。最高の専門家と作る自然科学の国際共同制作

　NHKは本流分野の国際共同制作でも今、大作を撮影している最中だ。

　そのひとつが、Silverback Filmsが制作し、NHK、BBC、BBCスタジオが共同制作として加わる、8K自然科学ドキュメンタリー『MATING GAME』。動物の生存戦略を描く作品だ。2022年に5本シリーズで放映予定。自然科学の大型シリーズの制作は3年を費やす。

　オスとメスがいかに出会い、いかに子孫を残すかを、草原、海、極限地域など5地域で8K撮影している。例えば、エリマキシギのオスの中にはメスの格好をし、メスには同類と安心させて、すきをみて交尾に掛かるものもいる。

　Silverback FilmsはBBCの元の自然科学局長のアラステア・フォザビルAlastair Fothergill氏のプロダクション。NHKエンタープライズの自然科学のベテラン、岩崎弘倫エグゼクティブ・プロデューサーが、いきさつを語る。

　「フォザビル氏はBBCにて、HD作品で有名な『プラネットアース』を制作し、2016年には動物が他の動物を狩る『HUNT』を世界的にヒットさせている超ベテランです。8Kでの制作は、フォザビル氏から提案されました。もともとHD時代から共同制作を進めていました。当時はフィルム撮影が全盛で、ビデオ撮影は使われていませんでした。NHKはBBCにビデオ撮影の技法を教えました。その流れから4Kで制作し、いま8Kに辿りつきました」

　自然科学番組における8Kのメリットは何だろう？

　「まず色の種類が多く、鮮やかに表現できることです。『MATING GAME』ではマンドリルが登場するのですが、オスはメスの気を惹くために、より鮮やかな色をまとうのです。色の鮮やかさが、異性を引きつける鍵なので、オスは色で競争するのです。だから8Kの色表現力が求められるのです。

　もうひとつがワイドで撮影したときの情報量です。イエローストーン国立公園で日食を撮りました。2Kでは太陽のアップを撮るのですが、8Kは広角で撮りました。太陽の変化だけでなく、山や地面が、日食が進むことにつれて、暗くなり色がなくなっていく様子が、同時に分かるのです。精細な広角映像だから可能になった表現なのです」(岩崎氏)

　8K自然科学ドキュメンタリーでは、もうひとつNHKと英ICON Films/ボツワナNHFUとの共同制作による『Okavango -A Flood of Life』（日本タイトル・未定）が紹介された。ボツワナのカラハリ砂漠の中にある内陸デルタの「オカバンゴ・デルタ」が、湖に変わるドキュメンタリーだ。

　オカバンゴが水で満たされるのは乾季。普通ならば水はない。実際に周りは砂漠だ。しかし、1000km以上離れたアンゴランの山に降った雨が、オカバンゴ川を増水させ長い時間をかけてカラハリ砂漠に洪水を起こすのだ。乾季の砂漠に水場が生まれるのが、オカバンゴの奇跡だ。90分の作品。（写真撮影・麻倉怜士）