バンデラスファン必見の2作品が公開中
最近とても嬉しいのは、アントニオ・バンデラスの“いぶし銀の名演”が2作続けて味わえたこと。
1作目は、世界最高峰のテノール歌手アンドレア・ボチェッリの半生を描いたイタリア映画『アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール』。若きアンドレの原石のような才能を、厳しいレッスンで磨きあげるマエストロを演じたバンデラスは、知的で上品で感性豊かなアーティストの風貌。まさに素敵な熟年だ。
そして2作目は、アメリカ映画『ライフ・イットセルフ 未来に続く物語』。ニューヨークで起こった悲しい出来事は、じつはスペインのオリーブ畑に住む一家と深い関わりがあった──という、壮大にして心温まる人間ドラマ。バンデラスは、使用人の息子を我が子のように可愛がるオリーブ園のオーナー役。慈愛と哀愁を宿したまなざしに魅了される。
両作とも、50代後半となったバンデラスの、懐が深い大人の魅力を感じさせてくれるのだ。
マドンナの一言に、世界中の女性が色めき立つ!
スペインのマラガで演劇と歌とダンスを学び、マドリードの舞台でキャリアをスタートさせたバンデラスは、いまやスペインの巨匠と誰もが認めるペドロ・アルモドバル監督の初期作品『セクシリア』(82年)で映画デビュー。次いで、『欲望の法則』(87年)、『神経衰弱ギリギリの女たち』(88年)と、たて続けにアルモドバル監督作に出演して脚光を浴びた。
そんなバンデラスに目をつけたのがマドンナだった。あるインタビューで「いま、いちばんセクシーな男はアントニオ・バンデラスよ」とコメント。それを聞いた世界の女性たちは「バンデラスって、誰?」と大騒ぎに。
もちろんハリウッドも放ってはおかない。即、出演交渉が進み、『マンボ・キングス/わが心のマリア』(92年)でアメリカ進出を果たしたのだ。本作は、1953年のニューヨークを舞台に、キューバ移民の兄弟がラテン・バンドを組んで成功していく姿を描いた音楽映画。弟を演じたバンデラスはセクシーなダンスと歌声を披露して、女心を鷲掴み。マドンナの<オトコを見る目>は確かだったわけだ。
ハリウッド映画2作目は『フィラデルフィア』(93年)。エイズを理由に不当解雇された男が会社を訴える裁判劇だ。主人公を演じたトム・ハンクスがアカデミー賞主演男優賞を獲得した話題作であり、バンデラスは主人公のキュートな恋人役だった。
その後、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(94年)、『デスペラード』(95年)などに出演。アルゼンチンのファースト・レディだったエバ・ペロンを描いたミュージカル映画『エビータ』(96年)ではマドンナと共演。彼女のラブコールが結実した。
惜しくも幻となった『オペラ座の怪人』のファントム=バンデラス
バンデラスが初来日をしたのは1998年。『マスク・オブ・ゾロ』(98年)のプロモーションのときだ。すでにセクシー・スターと評判の高いバンデラスだけに取材のオファーは殺到。ということで、インタビューも30分間で4~5人の囲み方式。内心では「ロクに質問できないかも?」と思っていた。
ところが、部屋に入ってきたバンデラスは、「キミたちの気持ちはよくわかっている。時間がない。僕はすごく早口でどんどん答えるから、どんどん質問して」。その言葉通り、当意即妙! 思いのほか実りの多い結果となった。
当時のバンデラスは、『ストレンジャー』(95年)の共演がきっかけで再婚したメラニー・グリフィスとの間に娘のステラが生まれていた。「もうすぐ2歳になるけど可愛くて仕方がない。ステラというのはラテン語からきている言葉で<星>を意味する。彼女が生まれる前に流れ星を見てね。それで女の子だったら絶対にステラって名付けようと決めていたんだ」
もうひとつ印象に残っているのは、『オペラ座の怪人』のエピソード。1997年に本作の制作に取り掛かったジョエル・シュマーカー監督は、1998年に開催される<アンドリュー・ロイド=ウェバー生誕50周年記念コンサート>でファントムを歌うためにヴォーカル・レッスンに取り組んでいたバンデラスに目をつけて接触。当時は大本命とされていた。
事実、インタビューではバンデラス自身も「歌の猛特訓をしている最中。どうしても演じたい役だよ」と意欲満々だった。ファンとしてはバンデラス=ファントムを確信していたのだけど……叶わなかったのはご存知の通り。ハズレの理由は、製作開始が大幅に遅れてしまい、バンデラスより若い俳優=ジェラルド・バトラーに演じさせることになったからだとか。残念!!
もちろん、その後にも会見はしている。長ぐつをはいたネコの声を担当した『シュレク2』(04年)ではロサンゼルスで。そのネコ人気で誕生したスピンオフ作『長ぐつをはいたネコ』(11年)では日本で。その時は、やけにクリクリなヘアスタイルがパンチパーマのおじさんっぽくて、「セクシー・バンデラスは、どこに?」と少々不安になったのを覚えている。
その心配を払拭したのは、2012年5月に公開された『私が、生きる肌』(11年)。そうです、ペドロ・アルモドバル監督作。じつに『アタメ』(89年)以来22年ぶりのコラボとなったが、やっぱり黄金のコンビ! 朋友の演出で水を得た魚のように活き活きと演じるバンデラスの魅力を、余すところなく堪能できる。
誤解を承知で言えば、その後に出演しているアメリカ映画での収穫は少ない。冒頭に紹介した『ライフ・イットセルフ 未来に続く物語』くらいだろうか。バンデラス自身もそれを感じ出したのか、2014年の時点で「良質な映画を作るハリウッドの存在は消えて、ただのブランドになってしまった。そろそろ母国の映画にもっと参加したい。スパインやヨーロッパには才能があふれている」と言っていた。
かつて<マラガの星>と称されたセクシー・バンデラスも、来年は60歳、還暦を迎える。アルモドバル監督との再タッグはもちろん、新しい才能とぶつかり合って優れた作品を残して欲しいと、ファンは願うばかりだ。
『アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール』
監督:マイケル・ラドフォード
声の出演:トビー・セバスチャン/アントニオ・バンデラス
原題:The Music of Silence
2017年/イタリア/115分
配給:プレシディオ/彩プロ
公開中
(c) 2017 Picomedia SRL
『ライフ・イットセルフ 未来に続く物語』
監督・脚本:ダン・フォーゲルマン
出演:オスカー・アイザック オリヴィア・ワイルド マンディ・パティンキン オリヴィア・クック ライア・コスタ アネット・ベニング アントニオ・バンデラス
2018年/アメリカ/117分
配給:キノフィルムズ/木下グループ
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