私は筋金入りのエアチェッカーである。そもそもは学生時代にFMエアチェックからスタートし、70年代に家庭用VTRが登場した時、VHSとベータをいち早く買い込み、当時の地上アナログ放送を録りまくった。それらのテープ群は、いまでも私の視聴室の壁を埋めている。その後、放送メディアの革新がエアチェックメディアも革新した。MUSEハイビジョンに対応するW-VHS、BS、地上アナログ放送をデジタルで記録するDVD-R、DVD-RW、DVD-RAMといったDVDメディア、ハイビジョンのBSデジタル放送を録るD-VHS、ブルーレイディスクのBD-R/RE……と、新放送の登場と共に新登場した録画メディアに、次から次へとエアチェックしていった。
エアチェックとは、時を封止するタイムカプセルである
なぜ、それほどエアチェックにのめり込むのか。「市販ソフトでは買えない貴重なコンテンツが自分のものになる」からだ。放送されるドキュメンタリー、ニュース、バラエティ、音楽ライヴ、自然科学……などの番組は、ほとんどパッケージソフト化されない。無数の放送コンテンツの中から自分の興味、趣味のままに、欲しい番組を我がものにできることほど、楽しいことはない。
エアチェックとは文字通り「空中に消えゆく電波をチェック(監視のこと)する」の意味であり、まさに出会いは一期一会。逃したら2度とまみえない貴重な放送コンテンツを自分の所有物にできることの意義は大きい。それは人生の糧であり、その時を永遠に封止するタイムカプセルでもある。
エアチェックのワクワクは、EPG(電子番組表)で予約する段階から始まる。原則としてテレビガイドのたぐいは見ないことにしている。画面上での出会いのインパクトを大切にしたいからだ。「こんな番組があるのか!!」と、録りたい番組を見つけた時の喜びは格別。EPGは1週間単位だが、私のやり方は、「逆順」だ。常に1週間分は予約済。だから、EPGを開いて真っ先にみるのは1週間先の今日の曜日。この作業を毎日繰り返せば、取り忘れなど、皆無だ。
まずはHDDに一時的に収載。番組内容をチェックするためだ。再生してみて満足がいったら、ディスクに移して物理的なパッケージの形で保存する。私はこうして残してあげることこそ、貴重なコンテンツへの敬意だと思っている。
同じパッケージでも「12cm」「ディスク」で保存できることの意義は大きい。「12cm」は、CDから変わらないパッケージの黄金寸法だ。CDの直径12cmとは、フィリップスが60年代初期につくったC(コンパクト)カセットテープの対角線(11.5cm)をわずかに広げたサイズ。もともとCカセットが、テープをカートリッジ化する際に数百のライバル候補に勝った理由のひとつは、掌との親和性が高かったからだ。それは手でハンドルするのに最適なサイズであった。Cカセットのサイズを受け継いだCDの操作感がいいのは当然だ。DVD、BDもUHDブルーレイも、すべてのパッケージメディアが12cmであるのには確固たる理由があるのだ。
録画メディアに日付を入れるのが
麻倉流
録画をするのは“勉強部屋”。4K8K放送開始に合わせて導入した80インチの8Kテレビと4Kレコーダーを使い、4K、8K放送を録画・チェックする
部屋には、“カラ付”のブルーレイディスクも(上)。それだけでも年代が知れるが、こちらにもやはり日付が入っている。また、現在はBD-Rの価格がだいぶこなれたことも「残す」ための重要ポイント。2層式=50Gバイトのディスク(中)や、4層式=128Gバイトのディスク(下)もかんたんに手に入る
4K放送をディスクで残せるこの重大性に刮目すべし
さて、ここまでは一般的なエアチェック論だ。私が本稿で特に強調したいことは、「4K放送をエアチェックして、BDに残せる」ことだ。私はVHS、ベータで地上アナログ放送のエアチェックを始めたが、21世紀に入り、2Kのハイビジョンが録れるようになり、さらに今、4K、8Kまで(8K放送録画もBD規格で対応。レコーダーは将来に登場予定)エアチェックできるなんで、当時からすると夢のまた夢のような話だ。
これまでもSDからハイビジョンに至るエアチェックシーンでは、単に放送番組をメディアに録るだけでなく、なるべく高画質に記録できるよう、アンテナや配線、レコーダーやテープの性能にも大いに気を配り、考え得る最高のクォリティで残すことに徹底的にこだわってきた。そんなクォリティ・コンシャスなマインドなら4K放送の登場に驚喜しないわけはない。昨年12月1日の放送開始までに、80インチの8Kテレビを“勉強部屋”に運び込み、4Kレコーダーもしっかり用意。放送がスタートしてからは、まるで“全録”状態で4Kエアチェックに没頭している。
その理由は、もちろん4K放送がこれまでのハイビジョン放送とは次元の違う画質であることに加え、そのハイクォリティを活かした番組づくりに制作側が徹底的にこだわっているからだ。NHKのBS4Kは全番組が4K/8K制作だし、民放も少ないとはいえ、珠玉の4Kコンテンツが得られる。ここで、どんな4K番組を録ってきたか。コンテンツ的に、画質的に私の心を揺り動かしたものを少しご紹介しよう。
BSテレ東4Kのドラマ。2019年1月29日放映の『池波正太郎時代劇 光と影「武家の恥」』は「しっとりとした味わい。フィルム的な上質感。黒がかなり沈む。暗部階調は少なく、明部との対比が鮮やかだが、それもテレビ的なハイコントラストではなく、優しい画調だ。」(私のメモから)。
テレビではなく、映画のキャメラマンに撮影を依頼、レンズをズームから単玉レンズに替え、色作りも2Kでは現場でビデオエンジニアが調節していたのをやめ、Logで撮影し編集時にグレーディングする方法に変えたのが、芸術的に凄く効いた。他局にも4Kドラマはあるが、テレビ的な質感がほとんどだ。ところがこのドラマは。実に映画的なのだ。
4K放送のハイライトのひとつが、映画だ。特にNHK BS4Kの「4Kシアター」は世界の名画の宝庫。昨年12月の開局以来、数多くの白黒、カラー、大作、問題作……と、20世紀の名作映画がぞくぞく4Kで放映されている。しかもその多くがUHDブルーレイで未リリースの作品だから、貴重だ。
キャロル・リード監督の 1949年製作、『第三の男』(7月20日放映)。第二次世界大戦後の廃墟と化したウィーン地下の下水迷路を舞台にしたサスペンス映画の名作だ。映画が始まって一時間以上経って、交通事故で死んだはずの闇社会の大物ハリーが初めて姿を見せる、この有名な場面はまさに4Kの威力全開だ。強烈な光に当たってハリーが突然登場。この時の暗部と顔の明部の対比こそ、白黒の醍醐味。4Kは強靭なコントラストと繊細な階調感で、ドラマティックなシーンを見事に描き、光と影に大胆に分割された白黒映像だからこそのサスペンスを醸しだしている。
4Kアニメも大いに注目。NHK BS4Kで放送されているフィンランド・イギリス共同制作の『ムーミン谷のなかまたち』だ。実写と異なり、アニメにはそもそもディテイルに乏しいのだから、4Kの意味はあまりないのでは? いや、本作のムーミンは、素晴らしい。ムーミンの肌の細かなけばだちや、布的な質感がたいへんよく表現され、立体感も豊穣だ。ムーミンの体に、回りのオブジェクトの色が微妙に映り込むところなど、実に芸が細かい。
4Kのエンターテイメントは「BDファミリー」が拓く
このような画質、内容ともに優れた4K番組は、エアチェッカーの垂涎の的だ。重要なことは、これらをエアチェックしたディスクは、ごく普通のBDメディアであることだ。放送が新しくなっても、ディスクを新しく調達する必要は、ない。もちろんレコーダーは4K対応のものが必要だが、ディスクは1層25Gバイト、2層50Gバイト、3層100Gバイト、4層128Gバイト(BDXL)のそれぞれのBD-R、つまり従来からのハイビジョン用の記録用BDメディアに、まったくもってそのまま記録できるのである。
しかも、このまでのBDレコーダーとまったく同様の操作体系で、4K番組が、何のストレスもなく録画できる。基本的に「DR」モードでストリームをそのまま損なわずに録画でき、レコーダーによっては圧縮し、長時間記録が可能なのも、従来と同じだ。しかも、これまで同様に2K記録済のディスクの空きスペースに、4K番組の追記が可能だ。
まとめてみると2K、4K、8Kのすべてのデジタル放送の記録は、BDが一手に賄うのである。2K記録から始まったBDファミリーが、ここまでの機能拡張を成したことには感慨を禁じ得ない。4KエンターテイメントはBDが拓く。
今回のテーマである「記録BD」は、4K録画に進化し、さらに、同じBDファミリーの一員で、エアチェックより転送レートの面で優位性のある4K映像再生のパッケージメディアUHDブルーレイと相携えて、4Kワールドをさらに深化させていく。