ポストプロダクションのキュー・テックは、去る10月24日に秋葉原のUDX Gallery NEXT-1で、「キュー・テック4K8K コンテンツプレビュー2019」を開催した。

 この催しは、同社が製作したオリジナル業務用4K/8K主観評価用標準動画像集の上映商談会であり、新たに8Kオリジナルイメージビデオとして『QT-8260D/アンティークの館へようこそ』が上映された。

画像: 『QT-8260D/アンティークの館へようこそ』のワンシーン

『QT-8260D/アンティークの館へようこそ』のワンシーン

 同社は、映像パッケージの製作・発売を手がけていたレーザーディスク株式会社の映像・音響編集部門を前身としている。1989年(平成元年)にレーザーディスク株式会社から分離し、幅広くポストプロダクション業務を手がける会社として誕生した。今年で30周年を迎えるわけで、9月には「DOLBY VISION CERTIFIED FACILITY」の認証を取得、Dolby Visionのコンテンツ制作サービスもスタートするなど、新しいテーマにも積極的に取り組んでいる。

 そんな成り立ちの同社は、これまでに多くのチェックディスクを手がけており、HiViを始めとする各種媒体での映像機器の評価や、メーカー各社の製品開発時のテストソースとしても活用されている。上記の『QT-8260D』は8K時代のチェックディスクともいえる存在だし、他にも『QT-8250D/ぶらっと江ノ電の旅』『QT-8101/FULL 8K CG「ころころ」』『QT-8210D/8K京都ダイジェスト』などを揃えている。

 24日の「4K8K コンテンツプレビュー2019」では、会場にソニーの8K液晶テレビ「85Z9G」(参考展示)と、アストロデザインのフルスペック8K液晶モニター「DM-3815-A」が並べられ、それらで『QT-8260D』を始めとするコンテンツが上映されていた。

画像: 特別セミナーの講師を務めた、麻倉怜士さん。手にはLD時代のチェックディスクも

特別セミナーの講師を務めた、麻倉怜士さん。手にはLD時代のチェックディスクも

 さらに同時開催された特別セミナーには、マルチメディア評論家の麻倉怜士さんが登場し、オリジナル8K映像についての見所を解説してくれた。

 麻倉さんはまず、キュー・テックがこれまで手がけてきたチェックディスクの実物を示しながら、「キュー・テックさんはテストディスクをたくさん作ってきました。LD(レーザーディスク)時代の『レーザービジョンデモンストレーション』や『ガイアズ・ドーター』など、名盤も多いのです。その後も、DVDやブルーレイで業界の基準となるディスクを送り出してきました」とこれまでの同社の実績を高く評価した。

 その最新版となるQT-8000シリーズについては、『アンティークの館へようこそ』では、ロココ調の家具の色や質感、精細感に注目して欲しいそうだ。さらにモデルの女性の衣装の赤色や細かな模様、宝石の再現性、肌のグラデーションのなだらかさは必見だという。さらにHDRならではの表現として、ステンドグラスの透明感や指輪の輝き、宝石ひとつひとつの光が単調ではない点なども指摘した。

 さらに麻倉さんは、「最近はテレビ局も8Kでドラマを撮影し始めていますが、そこではHDRならではの再現が重視されています。NHKの8K時代劇などでもHDR効果が多用されており、その結果テーマ性がより鮮やかに出てくるのです」と、映像製作の最前線の様子も紹介してくれた。

画像: 8Kモニターを2台使って、QT-8000の見所を紹介

8Kモニターを2台使って、QT-8000の見所を紹介

 続いてセミナーの講師として、ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ株式会社 TV事業本部 技術戦略室 主幹技師の小倉敏之さんが登壇、「4K8Kテレビとマスターモニターの要求画質の違い」というテーマで講演を行なった。

 小倉さんによると、これまでディスプレイはサイズ、画質要素といった点でスペックを進化させてきた。このうち画質要素(解像度やビット深度、フレームレートなど)は数値的に必要充分な値に到達しているという。

 一方でデバイスとして考えると、液晶などのバックライト型と有機ELなどの自発光型があり、さらに細かい方式の違いによってディスプレイとしての特性に変化が出てくるそうだ。

 特に最近は4Kや8KのHDR映像が放送で手に入るようになり、家庭用テレビがいち早くその再生に対応、既にかなりの満足度で体験できるようになっている。こういった点を踏まえると、映像制作の現場(モニター)でも8K解像度が求められていくのは間違いないだろう。

画像: ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ株式会社 TV事業本部 技術戦略室 主幹技師の小倉敏之さん

ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ株式会社 TV事業本部 技術戦略室 主幹技師の小倉敏之さん

 そこで「テレビとマスターモニターの要求画質の違い」だが、この点については、「テレビは楽しむために映像を見るディスプレイ」で、「マスターモニターは映像制作のための道具」として位置づけられると小倉さんは話す。

 つまりテレビはコンテンツが持つ感動を再生できること、制作者の意図の再現ができ、かつ視聴者を楽しませることが必要で、マスターモニターは、映像制作のために必要な情報を提供でき、信号をそのまま正しく再生することが求められる。さらにグレーディングに必要な性能や機能も欠かせない。

 「テレビは制作者と視聴者をつなげる媒体で、マスターモニターは映像を解析する測定器です」と小倉さんは両者の違いを定義し、それを踏まえてそれぞれに求められる画質や機能について詳しく紹介していた。

画像: 現行のほとんどの4Kモニターが並ぶという貴重な機会であり、来場者は各製品の映像に見入っていた

現行のほとんどの4Kモニターが並ぶという貴重な機会であり、来場者は各製品の映像に見入っていた

 実は今回の会場には4Kモニターが15台並んでおり、各製品の特長を間近で確認できるようになっていた。主なモデルとしてはキヤノン「DP-V3120」、ソニー「BVM-X300」「BVM-HX310」、EIZO「CG3145-BS」、池上「HQLM-3125X」などだ。それぞれに同じ映像が再現されていたが、マスターモニターといってもパネルデバイス等による画質差は厳然としてあり、その意味では映像制作の難しさがうかがえる展示にもなっていた。

 最後に開催されたトークセッションでは、こういったマスターモニターによる違いをどうするべきかなども議論された。麻倉さん、小倉さんに、キュー・テック プロジェクト推進室の小池俊久さんとカラリストの今塚 誠さんを加え、さらに会場からの質問も受け付けるというもので、現場での苦労話や悩み、マスターモニターに搭載して欲しい機能など、多岐にわたるテーマが展開されていた。
(取材・文:泉 哲也)

画像: トークセッションの様子。左から麻倉さん、小倉さん、今塚さん、小池さん

トークセッションの様子。左から麻倉さん、小倉さん、今塚さん、小池さん

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