IFAのシャープブースに、肩乗せスピーカー、サウンドパートナー「AN-SX7」や「AN-SS1」が展示してある。係員に聞くと「麻倉さん、これからヨーロッパで売り出しますが、実は日本で大ヒットしているのです。肩乗せ分野でシェアが自社調べで70%以上になったこともありました(月/週単位で)」。

 びっくりである。サウンドパートナーはソニー、ボーズ、JBLなどの同様な製品が出た後に登場したが、私の聴くところ、特にAN-SX7はひじょうにクォリティが高い。そのことが市場で正しく評価されたのだろう。

 2018年10月より軽量タイプAN-SS1が、2019年3月から高音質タイプのAN-SX7が発売され、2019年8月末時点には、シリーズ合計で約19万台のグローバル出荷を達成したというから、なかなか凄い。

画像: 「AN-SX7」を着用する麻倉さん

「AN-SX7」を着用する麻倉さん

 オーディオの新分野が「肩」だ。発音体の場所で分類すると、これまでは、部屋で離れたところから聴く「スピーカーリスニング」、発音体を耳に接触させて聴く「ヘッドホンリスニング」のふたつだったが、3番目の場所として「肩リスニング」が加わった。

 「肩乗せ型」「首掛け型」「ネックバンド型」……などと様々な言い方があるが、首に掛けたユニットから、耳元で音を出すウエアラブルスピーカーだ。ヘッドホンのように遮音せず、空中に音が放射されるが、その音場は顔の周りに限られる。部屋で聴くスピーカーが、超小型になり、肩に乗ったと思えばよい。

 昨年から、この新分野が俄に活気を帯び、すでに数社が参入している、シャープのAN-SX7は順番としては後発にあたるが、実は後に述べるが、開発には6年もの歳月を掛け、試作を繰り返し完成させた逸品なのである。特に音質には徹底的にこだわったという。

 私は、市場で買える各社の肩乗せ式スピーカーをすべて聴いているが、本気は、音が抜群によい。なにより音のバランスが整っている。この手のスピーカーは、周波数的に低音や高音を過剰に強調することがあるが、AN-SX7は特定の帯域に偏重することなく、聴感上、フラットな音調だ。

 音に人工的な加工色が感じられず、進行がナチュラルで、音の質感もよい。明瞭度も高い。意外といっては失礼だが、ウエアラブル系にありがちなギミック的な音を想像すると、それとはまったく違う正統的な音に驚かれるだろう。

 本スピーカーは前方のテレビをスクリーンとし、映画や音楽ライブを聴くのを主たる用途としている。映画『ダンケルク』を再生した。波の音、飛行音が鮮明に聞こえ、台詞がクリアーだ。メロディ・ガルドーのライブでは、しつかりとした低音感と共に、ヴォーカルの明瞭感と輪郭感が心地好い。

 顔の下から発音しているのに、不思議に画面方向から音が来るように感ずるのはなぜだろう。もちろん、音響心理的な方向錯覚だが、音場が顔を囲む空気中に形成され、音がある距離を経て到達するため、望ましい“錯聴”が得られるのではないか。

画像1: 【麻倉怜士のIFAリポート2019】その12:シャープ 肩乗せスピーカー、日本では大ヒットの情報あり。シャープのオーディオ復活の先達になる資格は充分

 開発には6年もかかったという。オーディオ技術者が正規業務とは別に、独自に開発に取り組んだ。ヘッドホンでも通常のスピーカー聴取でもない、第3の道の領域に希望を見出したのだ。

 しかしその道は長く、困難であった。発音方式もバスレフ(ダクトを設けて低音補強)、パッシブラジエーター(共振)、骨伝導、蛇腹振動……と、さまざまなやり方を試し、最終的に蛇腹振動が最良と分かった。

 この時、同時に円筒状のウエイトを使った振動機構も加えた。蛇腹が伸縮するとウエイトを揺らして振動を発生させる仕組だ。名付けて「ACOUSTIC VIBRATION SYSTEM」。メロディ・ガルドーのライブでは、バスドラムとエレクトリックベースからたたき出される低音リズムの振動が鎖骨に伝わり、心地好い。

 シャープはかつてワンビット方式を提唱し、MDプレーヤーでは一世を風靡した。その後、オーディオ事業からは手を引いたが、最近、オーディオ再参入を宣言した。この肩乗せスピーカーは同ジャンルでは抜群の高音質だ。シャープのオーディオ復活の先達になる資格は充分であり、ヨーロッパ市場でも大いに期待される。

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