4KやHDRの情報量を持ったコンテンツが増えてきている。となるとそれらを高品質な大画面で楽しみたいと思うのは、オーディオビジュアルファンなら当然のこと。薄型テレビでも50インチや60インチが可能だが、より大きいサイズとなると、やはりプロジェクターが最有力だろう。そんな大画面ファンに体験してもらいたいのが、4K/DLPプロジェクターのBenQ「HT5550」だ。今回はその進化のほどを麻倉怜士さんに徹底的にチェックしてもらった。(編集部)。
最新の4K/DLPプロジェクターは、ここまで進化したか……筆者は、ある種の感慨を抱くことを禁じえなかった。
1990年台の後半、DLPは私のアイドルだった。一画素サイズの極小ミラーが回転し、スクリーンに向かって強烈な反射光を投写するというDMD(デジタル・マイクロミラー・デバイス)動作そのものが、メカマインドを刺激した。ついにはテキサスはTI(テキサス・インスツルメンツ)社に飛び、開発者に会い、「初めはアナログ駆動だったが、ムラが極端なので、デジタル駆動に変えた」との証言を得た。画質はまだまだだったけど、将来の大いなる可能性を見たのだった。ホームシアター用のDLPも当時から大いに期待していた。
その意味で今、BenQの最新4K/HDRプロジェクター「HT5550」を観て、確実な技術進歩を遂げたと思った。スペックは現代のホームシアター用プロジェクターとして、必要充分な機能を確保している。4Kに関しては、2K画素の0.47インチDMDを時分割でずらして重ね合わせる、ウォブリング動作(e-shiftとも言われる)により所定の画素数を形成する。HDR方式はHDR10とHLG(ハイブリッド・ログ・ガンマ)に対応している。
画質設計では特に色再現に力を入れたという。BenQ Cinematic Colorテクノロジーと称し、現代のデジタル・シネマが依拠するDCI-P3に完璧に対応した。「ディレクターズ・インテンションを最大限に確保し、再現する」ためと称している。
注目は色域。「ノーマル」「拡張」のふたつのモードから選択することで、作品に合った色再現範囲を提供する。なるほど、現代の4K/HDR機器にふさわしいスペックを備えているではないか。実際の画質チェックが楽しみだ。
機能面では、レンズシフトの恩恵が大きい。液晶方式に比べ、DLPプロジェクターはレンズシフトが非力とされていたが、HT5550はその範囲がDLPの常識を超えた。他社製品を含めてこれまでの製品は、レンズシフトそのものが不可能か、垂直方向は可能だが、垂直最大値を使うと横レンズシフトが不可能……など、実用上の問題を抱えていた。HT5550は上下±60%のみならず、左右±23%まで動かせ、DLPとして設置自由度が飛躍的に高まった。
画質チェックは3つのテーマで行なった。(1)数年前のBenQ製2Kプロジェクターとの比較、(2)HT5550の2Kブルーレイ再現性、(3)同UHDブルーレイ&4K放送の再現性——だ。
(1)数年前の2Kモデルとは2014年に発売された「HT1070+」。10万円以下という価格もあり、フルHDのDLPプロジェクターとして、人気を博したヒットモデルだ。第1印象は……こんなにも違うのか、だ。HT1070+とHT5550の間には5年の月日が流れていたわけで、その間の開発過程での改良を蓄積するなら、確かにこれほどの違いが出ることは論理的には納得いくが、それにしても大きな進歩だ。
特に異なるのが色と階調の再現性だ。コントラスト再現には共通性が多いが、色は彩度、色相共に、HT5550が圧倒する。HT1070+は発売当時の標準的なパフォーマンスだったと思うが、HT5550では着色の確実さ、色数の多さが格段に違う。
特に肌色再現性。HT1070+が黒ずむフェイストーンなのに比べ、HT5550は明瞭で爽やかな顔色を見せた。階調再現もよく、微妙な表情の違いも描けた。BenQはこの間、高画質に向けて努力を惜しまなかったことが、新旧比較で如実に分かった。
(2)2Kブルーレイ再現性はどうか。私の2K BDのリファレンス『サウンド・オブ・ミュージック』を「シネマ」モードに設定して観た。まずはコントラストや輝度などの調整は工場出荷値のままで、プレーヤーのパナソニック「DP-UB9000」からは2K信号を出力させた。ひじょうに強く、力に溢れ、くっきりとした映像だ。チャプター19「ドレミの歌」では、マリア先生と子供達が、まるで書き割りのように背景から浮く。輪郭だけでなく、ディテイルまで情報を刻むように描く。
しかしこの時代の映画画調としては強すぎると思ったので、UB9000内部で4Kにアップコンバートして入力、さらにイコライジングも適切に施こすと、驚くほどスムーズで、質感のよい映画的な雰囲気になった。
イコライジングはコントラストを少し下げ、輝度をバランスさせ、黒側の階調を出す方向にセットした。この設定で観た日本映画『8年越しの花嫁 奇跡の実話』BDも刮目であった。DEG(デジタル・エンタテインメント・グループ)ジャパン第11回日本ブルーレイ大賞の「クオリティ部門 高画質賞(ブルーレイ)」を獲得した名盤だが、花嫁の瞳の輝き、黒髪の艶、肌描写のすべらかさ……などの映画を支える質感再現は快哉を叫ぶほどのものであった。
4K/HDR作品はどうか。お馴染みのUHDブルーレイ、ビコム『宮古島』。明るさとコントラストを控え、色域は「ノーマル」にした。もともと、色彩がひじょうに豊かなコンテンツであり、プロジェクター側で強調する必要はない。すると高い透明感と爽やかな表情、そして南国らしい抜けのいい空気感が得られた。
『ラ・ラ・ランド』では明るさ、コントラスト、そして彩度も抑制する。するとチャプター5の夕暮れの丘の上のダンスシーンでの、エマ・ストーンの黄色のワンピースと赤のショルダーバックの原色の対比感が鮮やかに描かれた。マジックアワーに色づくL.A.のブルーの遠景も臨場感豊かだ。総じてHDR10ならではの色階調のエモーションが充分に感じられた。
4K放送コンテンツはNHKの『メガシティ大発光 空から見た東京夜景』。夜の東京都心の燦めき、輝きがHLGのプラットフォーム上で、リアルに再現された。光の臨場感再現には感心した。フィンランドの4Kアニメ『ムーミン谷のなかまたち』は4Kでなければ絶対出せない、ムーミントロールの白い肌の微妙なケバ立ちが、繊細に再現された。
HT5550は、使いやすく、設置しやすく、さまざまなコンテンツにフォーマットに即した表現性を与える4K/HDRプロジェクターだ。使用上のポイントとしては、入力信号のキャラクターを素直に反映するので、ぜひ、高性能な4Kプレーヤーとの組み合わせをお薦めしたい。
レンズシフトの範囲も広く、棚乗せや天吊り設置も簡単
「HT5550」の主なスペック
●表示デバイス:DMD(水平1920×垂直1080画素)
●投写解像度:水平3840×垂直2160画素
●明るさ:1,800ANSIルーメン
●コントラスト:100,000対1
●レンズズーム比:1.6倍
●レンズシフト:上下各60%、左右各23%
●接続端子:HDMI入力2系統(HDCP2.2)、USB端子4系統(Type A×3、Type mini B×1)、オーディオ出力1系統(ミニジャック)、他
●寸法/質量:W492×H168×D349mm/6.5kg
SDRやHDRといったソースに応じた映像イコライジングも自在に