現地時間の5月9日から12日まで、ミュンヘンでハイエンドオーディオショー「High End Munich 2019」が開催された。「High End Munich 2019」は、今や1月のラスベガスCESをも凌駕する世界最大、世界最高のオーディオショーとも言われ、会場内には多くの注目ブランドが並んでいるという。今回はそんな中から、麻倉怜士さんがチェックした製品群について、じっくり語っていただいた。(編集部)
今年も「High End Munich 2019」は盛大に盛り上がっていました。ちなみに今回のショーは、もちろん取材という目的もありましたが、同時にUAレコードのプロモーションも行なってきました(笑)。
現在UAレコードでは、情家みえさんのCD『TERENNE』(エトレーヌ)と小川理子さんの『Balluchon』(バルーション)のCDとLPという3アイテムをラインナップしています。
これらが香港で盛り上がっていて、3月に現地でLP試聴会を開催したのですが、たいへん盛況でした。香港のオーディオ雑誌では、『エトレーヌ』がリファレンスディスクに選ばれており、アンプやスピーカーの機材評価用にもなっているそうです。
しかも香港のオーディオファンはネット通販でなく、地元のディスク専門店でCDを買ってくれるのです。そのディストリビューターは「High End Munich 2019」にも出展していたので、ミュンヘンでも『エトレーヌ』『バリューション』が展示されていました。
現地では色々なブースにCDやLPを持ち込んで試聴させてもらったのですが、音質はどこでも好評でした。どこでも置いてけと言われ、「すみません、今は販売は日本だけですが、近いうちにヨーロッパで買えるようにします」とあやまりました。
それは余談として(笑)、「High End Munich 2019」全体の印象としては、年々大きくなっているなぁ、です。出展者数も2018年が524社、2019年は544社と伸びているそうです。会場も立錐の余地がないくらいでした。
そして特に驚いたのが、試聴ソースが変わりつつあるということです。昨年まではネットワークプレーヤーなどの最先端ハイレゾ機器が中心でしたが、今回はアナログプレーヤーが主役で、メインはレコードをかけるというブースが増えていました。
もうひとつ驚いたのは、2トラ38のオープンリールテープを使っているブースがあったことです。再生機器もドイツのメーカーから発売されていましたし、なんと新譜のテープが、ロシアのZabalirsh Records(ザバリッシュレコード)というレーベルから発売されていました。その意味でもアナログ復活をとても強く感じました。
日本のオーディオショウとの違いは、来場者を見るとわかります。日本は来場者の年齢が高く、しかも男性中心です。しかしドイツでは家族連れが多く、休日のレクレーションとして楽しんでいる人が多かったです。子供と一緒に色々なスピーカーの音を聴いて回るなど、未来のオーディオファン予備軍が自然に育っています。音楽はもちろんですが、オーディオを楽しむ社会的風土がきちんとあるということがよくわかりました。
モニターオーディオ「GOLD(5G) Series」
さてここからは、「High End Munich 2019」での私が注目した製品を、スピーカーを中心にご紹介しましょう。
最初は、既に日本でも発表されていますが、モニターオーディオの第5世代ゴールド(5G)シリーズです。この世代になり、ひじょうにきめ細かく、繊細な音になりました。以前の同社のサウンドは、輪郭がかっちりした、積極的に前に出すという音調だったのですが、現在のフラッグシップである「Plemiun II」からは音楽を繊細に耕すという聴かせ方になっています。
5Gシリーズもその方向を受け継ぎ、音楽性豊かな階調性の高い音を身につけました。すべてのパーツが刷新され、トゥイーターもリボン型からハイルドライバー(トランスデューサー)に変更されているので、リニアリティも大いに改善されたとのです
ラインナップはトールボーイの「GOLD 300-5G」「Gold 200-5G」、ブックシェルフの「Gole 100-5G」、センター用「Gold-C250-5G」、サラウンド用「Gol eFX-5G」、サブウーファーの「Gold W12-5G」と6モデルを揃えており、5Gシリーズだけでマルチチャンネルが組める点も特徴です。
また仮想同軸タイプの「STUDIO」シリーズも紹介されていましたが、こちらも現地でとても評判がよかったですね。日本で聴いた印象を述べると、ひじょうに質感が高く、軽快で、スピーカーからの音離れが良い音でした。低域がリッチで中域が心地好い。ヴォーカルの自然さ、特定の癖や色づけの無さ、音の粒子のこまやかさは格別ですね。特に中域にしっとりとした英国的な上質な味わいがある。密度感の高さも素晴らしいです。
オーデル「Sonika mk2」
次はイタリア、オーデル(audel)のスピーカーです。以前日本でも、同社の「フレッド&ジンジャー」という人型スピーカーが発売されていたので、覚えている人もいらっしゃるのではないでしょうか(編集部注:当時の呼称はアウデル)。
その後日本での輸入代理店も変わり、現地でも新製品が発売されました。日本での価格は、「Sonika mk2」が30万円(ペア、税別)、「Majika mk2」が53万円(ペア、税別)、トップモデルの「Malika mk2」が93万円(ペア、税別)です。
Majika mk2は同社のミドルクラス。2ウェイで5.5インチウーファーと29mmトゥイーターを搭載しています。音はとてもよかった。音離れがとてもよく、弦の響きの倍音感、繊細な感じがよく再現され、かつスピードも速いのです。欧州製品の中でもイタリア的な抜けのよさ、すっきりとした透明感のある音でした。明快で明晰です。
もともと同社の創業者・設計者は建築家で、音楽が好きで自分の理論をスピーカーに落とし込んでいるといいます。確かにスピーカーの断面モデルをみると、その建築的な発想、ノウハウが伺えます。しっかりとした構造から醸し出される軽快な音響は、日本でもウケることでしょう。
オーディオデータ「MASTER ONE」
次はザルツブルグのオーディオデータの「MASTER ONE」です。“THE ORIGINAL SOUND OF MUSIC”と謳っています。
スピーカーとしては、同軸ユニットを使ったシンプルなデザインのトールボーイ型で、側面にウーファーを内蔵した3ウェイ機です。220mmウーファーと同口径のパッシブラジエーターを各2基、それに148mmのミッドレンジ+トゥイーターという構成ですが、その音がひじょうによかった。
とてもクリアーで、質感や明瞭度が高いだけでなく、爽やかな音色感もある。音楽の都ともいえるザルツブルグの会社だからこそ、音楽の響きを大切にしている音がするのかなぁという気分になりました。
オーナーがオーストリア人で、製品はザルツブルグで製造しています。音づくりをもきちんと現地で行なって、音楽を源流とする音を聴かせるという点が他にない魅力でした。価格は7000ユーロくらいとのことですから、日本でもどこかが取り扱ってくれるといいのですが。
オーディオベクター「R-8 ARRETE」
オーディオベクターは、既に日本でも発売されているブランドです。デンマークの会社で、本社はコペンハーゲンにあります。デンマークはディナウディオやスキャンスピークといったメーカーもあり、室内エンタテインメントが盛んな土地柄ですね。
特に最近は「HYGGE」(ヒュッゲ)という文化が注目されています。これはデンマークの伝統的なライフスタイルで、暖かい気持ちのいい空間で、暖炉を囲みながらみんなでゆったりおしゃべりをして楽しむといった意味を持ちます。
オーディオベクターの「R-8 ARRETE」は、そんなヒュッゲにぴったりの、本当に気持ちのいい音です。ひとことでいうと“清潔でクリアー”。とても質感がよく、ガンガン自己主張してくる音ではありません。存在感を強烈に主張せず、おだやかでひじょうに質の細かい、清潔な音が楽しめます。これにはとても感心しました。
また北欧のスピーカーらしく、本体仕上げも素晴らしいのです。木目の質感も綺麗だし、本来のラウンド形状も滑らかです。出てきた音が素晴らしいだけでなく、見た目の存在感、インテリアとの調和性もよく考えられているなぁという点にヒュッゲを感じました。
JOサウンド「ecoJo」
JOサウンドは、創業者がイギリス海峡にあるジャージー島出身で、そこをベースにしてスピーカーづくりを手がけています。彼の製品づくりのポリシーが“SAVE THE PLANET!”。以前は竹材をエンクロージャーに使ったスピーカーを作っていました。
今回はもっと進んで、「ecoJo」というブランドを立ち上げています。こちらはリサイクル材料を固めて、スピーカーのエンクロージャーに使っています。その塗装がこだわっているんです。塗料を塗って、乾かして、磨くという工程を28回繰り返すわけで、その点ではとても手間がかかっています。
製品は2ウェイスピーカーで、中〜高域は拡散板を付けた8インチドライバーで、低域は18インチウーファーを内蔵の250Wパワーアンプで鳴らすという仕組です。拡散板の採用は他にも多く見受けられ、中域より上を拡散させる音づくりがはやっているのかもしれません。単に拡散させるたげでなく、バッフル効果により音質的にも効果を得ているようです。音自体は軽やかで、気持ちのいいサウンドでした。
※次回に続く(6月17日公開予定)