面白いまでに画面に寄り添う
優れたセリフの表現力

 北欧にはユニットを自社で製造するスピーカーメーカーがいくつか存在する。デンマークのディナウディオもそのひとつだが、彼らはオリジナリティ豊かな製品を作り出すため、これまでにもさまざまなチャレンジを続けてきた。ここで紹介するEvoke(イヴォーク)シリーズは、従来モデルであるExcite(エキサイト)シリーズの流れを受けた新製品である。ラインナップはブックシェルフ型の2モデルとフロアスタンディンク型の2モデル、そしてセンタースピーカーを加えた5モデルで構成されている。

 全機種に共通するのは、トゥイーター、ウーファーともに新開発のユニットを採用していることだ。同社が長年培ってきたテクノロジーを導入して新世代機に相応しい音作りがなされた。トゥイーターは「Cerotar」(セロター)とネーミングされているが、どうやら造語のようで40周年記念モデルからの技術移転を図ったものらしい。資料には「プレシジョン・コーティング」を施したソフトドーム型とあるがコーティング材の詳細は不明。ユニットの口径は28㎜で、振動板の内側にインナードームを用いて背圧を最適化、レスポンスの改善と共振の排除に努めている。磁気回路にはフェライト・マグネットにセラミックを混入した磁石を採用。能率を高めていることも特徴である。

 また、ウーファーに関しては彼らのオリジナリティが活かされ、MSPと呼ぶマグネシウムを主体としたポリマー素材の振動板を採用。滑らかな再現性を得る工夫が凝らされている。ボイスコイルにはロングトラベル型で周波数特性とレスポンスを向上させているが、試聴するととりわけ中低域のダイナミクスの改善に力を注いだ様子がうかがえる。ディナウディオのユニットには、センターキャップとコーンの継ぎ目部分にスリットが設けられているのも特徴で、一目見てこのメーカーのものであることが分かるが、こうしたお馴染の方法もユニットの動作特性を高めているのだろう。

画像: トゥイーターには新開発された「Cerotar」(セロター)を採用。ディナウディオの40周年記念モデルSpecial Fortyに搭載された「Esotar Forty」と、新コンフィデンス・シリーズに搭載される「Esotar3」をベースにしたものだという。なお、Evoke 30のウーファーはクロスオーバーポイントをずらしたスタガー動作を行なう、いわゆる“2.5ウェイ”仕様となる

トゥイーターには新開発された「Cerotar」(セロター)を採用。ディナウディオの40周年記念モデルSpecial Fortyに搭載された「Esotar Forty」と、新コンフィデンス・シリーズに搭載される「Esotar3」をベースにしたものだという。なお、Evoke 30のウーファーはクロスオーバーポイントをずらしたスタガー動作を行なう、いわゆる“2.5ウェイ”仕様となる

画像: 端子はシリーズ共通でシングルワイヤリング仕様。本体背面にバスレフポートを備えることも共通している

端子はシリーズ共通でシングルワイヤリング仕様。本体背面にバスレフポートを備えることも共通している

サラウンドまでを視野に入れた
見事なモノづくりを感じさせる

 今回はこのシリーズから、ブックシェルフ型のイヴォーク10とフロアスタンディング型のイヴォーク30を試聴してみた。アンプはデノンのPMA-SX。その後、イヴォーク30をフロント側に、そしてイヴォーク10をサラウンドスピーカーとしてセットし、これにイクリプスのサブウーファーTD520SWを加えた4.1chシステムで映像ソフトの視聴も行なった。こちらのアンプはデノンのAVC-X8500Hだ。

 それでは、イヴォーク10から試聴記をお届けしよう。スムースな表現力……これがこのモデルを聴いた第一印象である。ブックシェルフ型なのにゆったりとした鳴り方で、音に嫌味のないふくよかなサウンドを描き出す。カレン・ソウサのヴォーカルはいくぶんハスキーに感じるが、これなら想定範囲内。歪み感は平均的だが、高域にかけてもう少し伸びやかさがあってもいいかもしれない。

 クラシックのソフトではローレベルの表現をもう少し加えたいが、音場もそれなりに広く、弦楽器は比較的しなやかに聴かせる。もっともこうした音なら長時間の再生でも疲れないし、ブックシェルフ型としては充分な能力を備えていると思う。

 フロアスタンディング型のイヴォーグ30は、浸透力があり、音に余裕が生まれる。特に中低域がどっしりとして、それがスケール感を下支えする。基本的にソフトな語り口だが、肌合いのいいサウンドを奏でるといってもいいだろう。CD『バルーション』ではピアノのグレードが上がったかのような感じ。しかし、ベースラインはいくぶん頑張りすぎにも感じた。このスピーカーにはバスレフポートで低域をコントロールするためのウレタンクッションが付属しているので、実際に使用する部屋の環境に合わせて使いこなしたい。

 カレン・ソウサのCDでは、音圧がアップしたように聴こえるが、これも中低域のエネルギーがよりしっかりと描き出されているからだろう。フォーカス感はもう少し高めてもいいが、ヴォーカルをしっかりと捉えているという点からすれば、幅広いプログラムソースへの対応力を備えていると言えるだろう。イヴォーグ10同様、聴きやすさを求めた音づくりのなされたスピーカーであることがよくわかる。

 最後に、センターレスの4.1ch再生で、このシリーズの可能性を探ってみよう。まずはマドンナのBD『レベルハート・ツアー』を視聴。フロントとサラウンドchの音色がマッチしているので、きわめてつながりのいい音空間を作り出す。音楽ソフトなら4.1chでも充分、そんな気にさせるほど盛大なサラウンドに取り囲まれた。

 次にUHDブルーレイ『インクレディブル・ファミリー』のオープニングから冒頭のアクションシーンまでを視聴したが、スクリーンの中央前方にいる限り、ダイアローグが面白いほど画面に寄り添う。音が厚いしサラウンド感も申し分ない。音楽再生同様、おとなしいイメージのサウンドなので家族みんなで楽しむのに好適という印象を受けた。

 UHDブルーレイの『アリー/スター誕生』からは「オールウェイズ・リメンバー・アス・ディス・ウェイ」を歌うステージシーンを視聴してみたが、ここでもヴォーカルやダイアローグの描き出しは申し分なく、本当にスクリーンから彼女の声が聴こえてくるようだ。また、サラウンドスピーカーの恩恵は絶大で、環境音や残響感をしっかりと描く。

 当然、2chの音楽再生用としても使えるスピーカーだが、5.1ch構成まで考えてのモノづくりがなされた製品であることを改めて感じさせてくれるシリーズモデルである。

画像: 左:Evoke 10、右:Evoke30

左:Evoke 10、右:Evoke30

SPEAKER SYSTEM
DYNAUDIO
Evoke 10

210,000円 (ペア・税別)

●型式: 2ウェイ2スピーカー・バスレフ型 ●使用ユニット: 28mmドーム型トゥイーター、140mmコーン型ウーファー ●クロスオーバー周波数: 1.4kHz ●出力音圧レベル: 84dB/2.83V/m ●寸法/質量: W180×H315×D277mm/6.7kg

Evoke 30
460,000円 (ペア・税別)

●型式: 3ウェイ3スピーカー・バスレフ型 ●使用ユニット: 28mmドーム型トゥイーター、140mmコーン型ウーファー×2 ●クロスオーバー周波数: 1.2kHz、2.3kHz ●出力音圧レベル: 88dB/2.83V/m ●寸法/質量: W180×H900×D267mm/15.5kg

●問合せ先: ディナウディオジャパン株式会社 TEL. 03 (5542) 3545

画像: より大型のモデル、Evoke 20(左、300,000円、ペア・税別)、Evoke 50(右、650,000円、ペア・税別)もラインナップ。こちらのウーファーは180mm口径だ。また、140mm口径ウーファー搭載のセンタースピーカーEvoke 25C(180,000円、税別)も擁する

より大型のモデル、Evoke 20(左、300,000円、ペア・税別)、Evoke 50(右、650,000円、ペア・税別)もラインナップ。こちらのウーファーは180mm口径だ。また、140mm口径ウーファー搭載のセンタースピーカーEvoke 25C(180,000円、税別)も擁する

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