山本浩司さんのシアタールームで、4K放送のお薦めコンテンツを体験させてもらう対談視聴の後編をお届けしよう。前編では4K放送の現状解説や、映画作品で特に印象に残ったタイトルを教えてもらった。しかし4K放送の魅力は映画作品に限ったものではない。後編では、ドラマや音楽作品、美術ドキュメンタリーなど、より広い世界を紹介する。またストリーミングとして、話題のNetflix『ROMA』もチェックした。
4K放送は音もいい。知らず知らずにライブに引き込まれた
山本 さて、4Kでは音楽作品にもいい番組が多いんです。まずは『東京JAZZ』をご覧ください。これはNHKが4K収録したビデオ作品です。
4K放送の音声フォーマットはMPEG4 AACという新しいコーデックが使われており、音質もよくなっていると思います。その意味でも音楽ファンにも価値があります。
久保田 ピアノなどの楽器の艶も素晴らしい。確かに音もいいですね。
山本 次は『ANNA NETREBKO アンナ・ネトレプコ IN 東京〜オペラ・アリアを歌う〜』です。これはBS8K用に収録したものを4Kでオンエアした番組で、SDR/BT.709での放送です。
久保田 これも凄いですね。ステージの人物も立体感があって、クリアーです。ヴァイオリンの光沢や燕尾服の再現もいい。
山本 収録しているカメラレンズのよさが実感できますね。被写界深度の違いによって立体感が変わってくる面白さ。このコンサートはプラチナチケットだったようですが、当日会場に行ってもこんなに寄りで見ることはできませんからね。
久保田 ぼくは普段はオペラなどはほとんど見ないんだけど、カット割りも落ち着いていていいですね。わかっているスタッフが作ってくれているのでしょうが、オペラってこういう風に観ればいいんだと勉強にもなります。
山本 NHKは音楽作品の収録が本当に上手ですね。基本的には引きの映像で、無意味なクローズアップはしないから、画面に引き込まれます。
久保田 これこそ大画面で見る価値がある、と言いたくなる映像です。絵に色気があって、服の生地の感じもいい。ネトレプコは微妙な艶のある衣装を着ていますが、それも綺麗に再現できています。これを放送していて、しかも録画までできるんだから、本当に信じられない。
山本 自宅でぼんやり地デジの番組を眺めてリラックスするというのもテレビの重要な役割ですが、高品質な4K番組を主体的に観るというのもオーディオビジュアル趣味の醍醐味ですからね。
久保田 このふたりがどんな歌を聴かせてくれるのか、もっと観ていたくなります。
山本 興味のない音楽ジャンルだったとしても、このクォリティで迫ってきたら圧倒されて観てしまうということじゃないでしょうか。スキントーンの豊富さやドレスの光沢感、ヴァイオリンやチェロも難しい色ですが、ねっとりした木質楽器のよさみたいなものもよくわかります。
<久保田明の4Kインプレッション>
『ANNA NETREBKO アンナ・ネトレプコ IN 東京〜オペラ・アリアを歌う〜』
高精細の映像が招く官能の世界。8K→4Kダウンコンバートでもこれほど素晴らしい表現が可能なのかと、改めて8K撮影の威力に感嘆する。
ネトレプコの青灰色のドレスの光沢、声量によって薄紅色に変わる頬、弦楽器の飴色の艶、楽団員たちの黒服や黒いブラウスにも実在感があり、生の舞台の広がりを心ゆくまで楽しむことができる。
乱視&老眼が進んだ自分の目では、たとえ会場にいても味わえぬ臨場感。美しい映像を見ることは快感であることを改めて教えてくれる。目を閉じてもネトレプコと夫のユシフ・エイヴァゾフのふたりがくっきりと前方に浮かぶ録音、再生にも息を飲む。さすが山本邸、さすがはいち推しのプログラム!
ドラマや美術作品も、かつてない没入感を備えていた
山本 次は美術作品『ルーブル 永遠の美』から、ヤン・ファン・エイクの「宰相ロランの聖母」のシーンをご覧ください。
久保田 この番組は渋谷のイベントで8K版を見ています。光の美しさに圧倒されましたが、4Kでも凄いですね。
山本 オリジナルの絵画は縦60cmくらいだそうですが、その中に実に細かい書き込みがなされています。16世紀にそこまで描き込んでいたのも驚きだし、それが4Kや8Kだとここまで再現されるというのも恐ろしい話です。
久保田 以前ルーブル美術館に行ったことがありますが、あまりに広大で、かつ展示品の量が凄いので、一日では回りきれませんでした。しかも展示品がどれもこれも凄いから、情報量が多すぎて頭がパニックになりました(笑)。
山本 頭は混乱するし、足は痛いし(笑)。
久保田 でもこういったドキュメンタリーなら、見るべき所を紹介してくれるから、安心です。
山本 もともと高さ60cmの絵画を、110インチ/16:9のスクリーンいっぱいに再現しているので、縦横ほぼ2倍に拡大しています。そこまで拡大して、かつ8Kカメラがあそこまで寄っていった映像が楽しめる。
これは現実には不可能なことで、ルーブル美術館に行ったとしてもこんな映像は見ることができない。その意味でも「肉眼を超える視覚の喜び」と呼びたい経験ができます。
久保田 なるほど、いい得て妙ですね。
山本 ただプロジェクターで観ると色が少し薄く感じました。4K有機ELテレビで観ているときはそう感じなかったのですが。
久保田 プロジェクターだと画面サイズも大きいし、よりシビアになるのでしょうか。
—— HDR収録された『ウルトラQ』の4K放送録画ディスクを持ってきました。個人的な趣味になりますが、こういったモノクロ作品がV9RのHDRモードでどんな風に再現されるかも観せてください。
山本 『ウルトラQ』は35mm撮影だったんだね。それなら画質も期待できそうです。
久保田 第一話「ゴメスを倒せ!」の冒頭で、工事現場のトロッコの光沢感も凄い。階調感も秀でているし、モノクロ映画を4K/HDRで観る価値はありますね。
山本 この4Kマスターはいいですね。ノイズもうまく抑えているし、ていねいな作業をしていることがわかります。
久保田 この品質で『怪奇大作戦』もやってくれないかなぁ。そっちも4K/HDRで見てみたい。
山本 いわゆる液晶テレビや有機ELテレビだと、HDRのよさ、インパクトがわかりやすいと思うんです。でも、今日のようなプロジェクターでの視聴の場合、輝度のダイナミックレンジが狭いこともあり、広色域のよさがとても魅力的になります。
久保田 音楽ライブや美術番組は、映画以上に驚きがあるかも知れません。
<久保田明の4Kインプレッション>
BS4K放送が楽しみな『フェリーニのアマルコルド』
撮影はローマ出身で、現在も96歳で存命の名手ジュゼッペ・ロトゥンノ。ヴィスコンティの『山猫』や、ボブ・フォッシーの『オール・ザット・ジャズ』、そして『サテリコン』『フェリーニのローマ』などフェリーニ中期の絢爛たる映像美を支えた。
既発売の4K修復の国内版ブルーレイも素晴らしい出来映えだったが、UHDブルーレイは内外とも未発売なので、放映が本当に楽しみ。没後26年。その意匠を継ぐ者は結局現われなかったフェリーニならではの桃蜜がしたたるような映像世界を期待したい。
配信で見る4Kは? 話題の『ROMA』は劇場を越えた
山本 最後に、放送だけでなく、配信の4Kもご覧いただきます。Netflixで『ROMA』が4K/HDR/ドルビーアトモスで配信されています。SUZ2060はNetflixの受信機能も内蔵しているので、このまま再生しましょう。
久保田 コントラストが美しい。これなら配信でも充分楽しめますね。Netflixは先日のアカデミー賞を賑わせた通り、オリジナル映画にもかなり本気ですから、今後も期待できます。
山本 本作は映画館でも上映されましたが、国内の劇場は2Kで、アトモスではなかったようです。一般的な映画館のプロジェクターはそもそもコントラスト比が2000:1くらいしかないので、このハイコントラスト感、とくに黒の艶っぽさは再現できないでしょうね。
久保田 確かにこのコントラスト再現は普通の劇場では無理ですね。このクォリティで、自宅で観られるんだから、もうびっくり。はやく自宅に4Kチューナーを入れなくては。どうやって嫁さんを籠絡しよう(笑)。
<久保田明の4Kインプレッション>
『ROMA』
HiVi4月号の特集「映画と配信」の座談会で、山本さんがおっしゃっていた「映画は反射光で見るもの」というぼくらの拭い去り難い刷り込みを実感する鑑賞体験。
自宅の液晶テレビでの視聴とはやはりひと味ちがう。自分たちは映画を観ているんだという幸福感。素晴らしい解像度、立体感、自然音のSE。
この部屋に招待したら、配信されるものではなく、劇場で多くのひとと一緒に観ることのできる作品こそが映画、と考えるスピルバーグ監督にも迷いが生じるかも(笑)。劇場とホームシアターの関係に新たなくさびを打ち込んだ作品。
4Kが楽しめるふたつのシステムで、日々映像美に酔いしれている 山本浩司
ぼくの部屋にはふたつのシアターシステムがある。ひとつは今回久保田さんに体験していただいたJVC DLA-V9RとJBL K2 S9900を中心としたメインシステム、もうひとつが東芝の65型有機ELテレビ65X910とエラックの330CEと310CEを使ったサブシステムだ。
ふだんは4Kチューナー付ブルーレイレコーダーDMR-SUZ2060をサブシステムに組み入れてエアチェックに勤しんでいるが、なぜかこのレコーダーで焼いたBD-R、BD-REがメインシステムのUHDブルーレイプレーヤーのパナソニックDP-UB9000で再生することができない(UB9000の今後のファームウェアのアップデート次第?)。そんなわけで、今回はSUZ2060をサブシステムからはずしてメインのDLA-X9Rにつないで再生した。
メインシステムで使っているスクリーンはゲイン1.0/110インチのオーエス、ピュアマットIII Cinema。HDRコンテンツを楽しむにはゲイン1.0のスクリーンでは物足りないはずと予想していたが、実際にV9Rと組み合せてみると大きな不満は生じなかった。UHDブルーレイのなかにはもっと白ピークとハイライトの力強さが欲しいと思う作品があるにはあるが、その場合はV9Rの「ピクチャートーン」の数値を上げていくことで対処できる。そう、要は使いこなしということだ。
音質面に関して言うと、デノンAVC-X8500Hを用いてトップスピーカーを3ペア、6本使ったドルビーアトモス再生を実践しているが、今回の取材ではBS4K放送の5.1ch音声をアップミックス(ドルビーサラウンド)再生してみたが、まったく違和感はなく、広々とした気持のよいサラウンドサウンドを得ることができた。